9、こんな魔物使いは間違っている
―――1
目を覚ますと、見たことがある天井。
布団から腕を持ち上げ、目の前に掌を広げて指を一本一本確認するように眺めて安堵する。
「ダルい」
違法商人の館から脱出してすでに七日。
あの日、俺は血を流したり、深い傷を負ったわけでもないが、一番多く傷を作ったであろう下半身がうまく動かないでいた。
医者の話では、霊体が傷ついているらしい。
さすがファンタジー世界、霊体まで見てもらえるとか・・・霊体ってなんだよ、まだ死んでねぇよ。
腹と背中に力を入れて上体を起こそうとすると、やはりチクチク刺すような痛みを感じる。
我慢して起き上がり、ベッドから足を地面に付けると、また刺すような痛みを感じる。
「ずっとこのままなんてことは無いだろうな?」
見ているのか、見ていないのか知らないが、とりあえずこの世界の神に聞こえるよう声に出してみる。
時計が無いので正確な時間は分からないが、日はすっかり昇り、俺が借りている部屋の窓からミーニャとフェンリルの声が聴こえる。
牧場の仕事も終わり、おそらく昼前だろう。
「おはようタクヤ」
部屋の扉の向こうから、アエラの優しい声が聴こえる。
「おはよう、入っても大丈夫」
アエラは笑顔で部屋に入ってきた。
戻ってきてすぐ、俺は体を動かすことすらままならなかった。
それからアエラやミーニャ、その他諸々の面々が俺の世話をしてくれていた。今日も俺の体を起こしてくれようとしたんだろう。
「もう大丈夫」
俺はそう言うと、アエラがニッコリと笑顔で返事をしてくれる。
「着替え置いておくわね、お医者さんも言っていたけど無理はしないように、少しずつ体を動かして」
「アエラありがとう」
「どういたしまして」
着替えを受け取って、アエラが出ていってからソレに着替える。
今はいないミーニャのお父さん、洋服ありがとうございます。
少しぎこちない歩行で格好悪いが、外の空気を吸うためにベッドから降りて外に出た。
家から出るとすぐにフェンリルが駆けてきて、俺の体を支えるように寄り添う。
「おぉタクヤ殿、歩けるようになったのか?」
「ああ、どうにかって感じだが」
「上々である、幼女殿!タクヤ殿である!!」
フェンリルの後を追っていたであろうミーニャも俺に駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん!良くなったんだね」
「うん、ありがとうミーニャ」
ミーニャは首を振って
「私は何もしてないの、みんなのおかげだよお兄ちゃん」
そう、ミーニャの言うとおりだ。
あれから北の森へ運ばれ、応急処置をしてくれたリリィにフェアリー達。
霊体に付いた傷は、人間では治療が難しく、エルフやフェアリー達がいなかったら体を動かせなくなっていたかもしれないそうだ。
牧場に戻り、体が動かせない俺の代わりに、村の衛兵達に事情を説明に言ってくれたタッシェルとアエラ。
商人はユエールの指揮で逮捕され、魔物の違法取引で今は牢屋の中だ。
普通の医者では手に負えないと分かり、ギルドのメンバーが隣の村から魔術師を連れてきてくれた。
俺の看病にかかりっきりになったアエラとミーニャの代わりに、助け出されたフェアリーや他の魔物達が農場の仕事を手伝ってくれた。
「みんなにありがとう、言わなきゃね」
「そうだね・・・だけど一人言わなくてもいい奴が居るね」
俺の頭頂部に感じる不快なヌメリの元を手で握ると、力任せに地面に投げつける。
ビターンという小気味良い音と、グチャッという音が実に不快。
「相変わらずダーリン激しすぎ!」
「体が動かせないのを良いことに、なに張り付いてんじゃねーよ」
地面でウネウネと気味の悪い動きをするイソギンチャク(小)。
結局ルゥルゥは、地下室にいた全ての魔物を逃してしまった。
こいつは、こいつだけはあそこに置き去りにしたかった・・・。
「そんなぁ、私だってこうやってダーリンに張り付いて、私の魔力分けてあげてたのに」
「いらないです!離れてくれたほうが治りも早いです!」
「そんなツンツンなダーリンも好き♪」
イソギンチャクを踏みつけながら、久々に草の上に腰を下ろしてくつろいでいると、街道からタッシェルとユエールが歩いてくるのが見えた。
「もう体は良いのか?」
「だいぶ良くなった、ありがとうユエール」
「いや、感謝を言わなければならないのは私の方だ、それとすまなかった」
「なぜ謝る?」
「あの商人が王都でも目をつけられるような・・・知らなかったとは言え、お前のような新参を危険な目に合わせてしまった」
深々と頭を下げるユエールに、こちらが恐縮してしまう。
「気にしないで」
そう言えば一つだけ気になることがあった。
「ユエール、依頼の報酬はどうなる?」
俺が受けた依頼の主はあの商人だ。
つまり、依頼の報酬どころか、依頼自体が帳消しになるということ・・・。
苦労して、こんな状態になって無報酬じゃさすがに割に合わない。
「今日はそのことを話に来たんだ」
ユエールはそう言いながら、腰のカバンから細く丸められた書類を取り出す。
「タクヤ、王都から今回の一件で違法な商売をしていた男を捕まえた功績を讃える書状が届いている」
と、それを俺に渡そうとして、途中で手を止める。
「・・・文字はまだ読めなかったな、執政からの書状で、内容はお前を賞賛する言葉と、そして※※金として100000ゴールドを与えるとある」
「本当か!」
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