―――6

「・・・・・・・・クヤ殿ー!」


 お、変態犬の声が聞こえる。これはとうとう来たか。

 しかし最後の相手があの犬かぁ、最悪ですわ。


「タクヤ殿!遅くなってすまぬ!」


 擦れた視界に、見た事がある銀の毛、そして隻眼のデカい顔が。

 戸惑っているタッシェルが、セクシーな太ももから短刀を取り出し犬に向けて構えている。


「だ、大丈夫、こいつは、ただの・・・変態だから」


「否!人を愛し、人に全てを捧げる白狼である!刃を収めよ雌犬」


「タクヤ様のお知り合いなのですね!?」


「いかにも!さぁ早く我の背中にタクヤ殿を・・・お前も乗るのだ雌犬」


「タッシェルです」


「不思議な形をしているな雌犬」


「タッシェルです!」


「気に食わんがお前も乗せてやるのだ、吠えるでない」


 フェンリルの背中に担がれ、俺が落ちないようにタッシェルが覆いかぶさってくれた。


「フェンリル、もうじきこの入り口から、バカでかいスライムが出てくる・・・すぐに逃げ切るな、屋敷の外まで引っ張り出すんだ」


「承知」


「それからタッシェル、追ってくるアイツらから、俺が見えるように体を支えてくれ」


「それは・・・」


「そうじゃないと、本気で追いかけてこない・・・少しでもこの場所から、あいつらを引き離すんだ、あとはルゥルゥが」


「存じております」


 あのデブ、俺に逃げられるのは避けたいはずだ。

 魔物密輸の秘密を知っている俺を是が非でも殺したいだろう。

 俺があっさり逃げ切れば、証拠になる商品の魔物達を殺して、事件をもみ消そうとする。

 俺を殺せるチャンスがある内は、そんな損を取ろうとは考えない。血眼で追いかけてくる。

 引き離した隙にルゥルゥが地下の仲間や魔物達を逃がしてくれる。

 その為に、俺が囮になるのだ。


「では私がタクヤ様をお守りいたします」


「たのむよ」


 地下室への入り口からスライムの腕が伸びてくる。

 フェンリルはそれを躱しながら、付かず離れず、まるで相手をおちょくるように屋敷のエントランスへと逃げていく。


「フェンリル、なんでお前はここまで来た?」


「日が暮れてもタクヤ殿が戻らなかったのだ、心配になり匂いを辿れば、森で何時ぞやのエルフから事情を聞けてな」


 こいつ俺を心配して来てくれたのか・・・。


「主!?タクヤ様、この馬の主なのですか?!」


「その予定」


 俺の上半身を支えてくれるタッシェルの手に力が。


「どうだ羨ましかろう雌犬」


 これ以上この子を煽るのをやめてください、指が脇腹に食い込んで、死んでしまいます。


「それよりタクヤ殿、そろそろ外である、この後はどうするのだ?」


 ルゥルゥは魔物たちを逃したら合図を送ってくれる手はずだが・・・。

 屋敷の外へ飛び出たフェンリルは、庭園でスライムの攻撃を交わし続けている。

 するとすぐに、屋敷の一番高い屋根の上で、赤い光を放つ物がくるくると回っているのが見えた。


「フェンリル!全力で北の森へ逃げろ!」


「承知!」


 屋敷の柵をを飛び越え、猛スピードで暗い森の中へ消えていく。

 道中、体の力が抜けた俺はタッシェルの腕の中で意識を失っていた。

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