―――3
地下室にしては広いと思っていたこの空間に、ギッチリ床から天井まで届きそうな、オレンジ色のゆるい球体。
半透明の体の中にはところどころ泡が浮かんでおり、体を小刻みに揺らしていた。
「さぁスライムよ、今宵の餌はあの愚かな冒険者だ」
スライムってどうやって食事するんですかね。口とか見えませんし。
何となく、何となくだがこうなるだろうとは予想していた。
だがスライムはねぇだろ!用心棒が人間ならしょうがない、目くらまし用にリリィからもらった煙幕使って逃げる。
もし魔物だったら、何とか会話で気を反らして逃げる。
だがどうだ、目の前のスライムは口はおろか、目も耳も有るようには見えない。
会話もできなきゃ、煙幕を張ったところで効果も無いだろう。
「スライムってのはもっと、小さいもんだろ!!」
俺は腰の剣を抜いて、ここから逃げ出そうとするが、スライムは予想以上に素早く、体の一部を伸ばし、こちらの背後に進めてくる。
剣でそれを断ち切ろうとするが、スライムの体はまるで水でも切っているかのような感触。
さらに刀身に着いたスライムの破片で、剣が腐食しボロボロに。
「触っただけで終わりかよ」
という事は、取り込まれたら溶かされて、復活しても溶かされてと、無限ループ。
神様、これは詰んだっていう状態ですね?
どうしようか考えを巡らせていると、入り口から光るものが飛んでくる。
俺は咄嗟に体を屈めると、飛んできた短剣がスライムの体に突き刺さるが、それらはすぐに取り込まれ、複数の泡が立ちすぐに溶けてなくなる。
その短剣と一緒に飛び込んできたのは、俺を案内してくれたメイドだった。
「タクヤ様、助太刀いたします」
「あ、ありがとう」
「先ほどまでの無礼な態度をお許しください、タクヤ様の部屋にいたフェアリーから事情は聴きました」
ルゥルゥにはこの後やってもらうことがある。
与えられた俺の寝室に隠れてもらっているが・・・事情を聴いたって言ったか?
「あんた俺の、魔物の言葉が分かるのか」
「勿論でございます、私も半獣でございます」
見た目はただの女の子なんだが。こういう半獣も居るのか。
「詳しい話は後で、今はここから逃げましょう」
「だがどうしたらいい、触ったら溶かされるような相手だ、背を向けたらすぐに捕まっちまう」
「スライムは不死では御座いません、物理攻撃が無効なだけで、魔法なら傷を与えられるはずです」
魔法・・・はユエールから少しだけ習ったが、初歩の段階で躓いていた。
教える相手が異世界人で、しかも先生が魔法を使わない騎士じゃ、そうもなるよという状態。
「あんたは魔法使える?」
「残念ながら」
「じゃぁなんで飛び込んできたんだよ!状況変わらないよ!」
「私が飛び込むことで何か変化があるかと思い・・・それから、ほんの少し、タクヤ様が魔法がお使いになる事を期待しました」
このメイド、頭良さそうに見えるのに・・・中身はすっげぇ残念な子だ。
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