8、こんな戦いは間違っている

―――1

 森を抜けて、商人の屋敷に戻ってきたのは、完全に日が沈んだ時間。

 俺は片手に蔦を握り、その先に繋がっているのはグルグル巻きになったルゥルゥ。


「兄貴、ほんま上手く行くんじゃろか」


「俺を信じろ、多分上手く行く」


「多分・・・」


 最初に尋ねた時と同じように、使用人が門から屋敷の中の応接間へ案内してくれる。

 使用人はルゥルゥを見て怪訝な顔をしていた。


「おー、戻ったか」


「はい」


 使用人が部屋を出て、すぐに商人がメイドを連れてやってきた。

 俺の向かいに座った商人の椅子は、その体重を支えるためにギシギシと音を立てる。


「おい、酒を用意しろ」


「かしこまりました旦那様」


「それで、どう片付けた?」


「北の森に巣があったので全て焼いた、あいつらは一匹も残っていない」


 そう言い切った時、酒を用意していたメイドがグラスを手から落とし、床で派手な音を立てる。


「も、申し訳ございません!」


「気を付けろ!そのグラスも安くはないんだぞ!!」


「・・・大丈夫ですか?」


 俺がメイドの方を見ると、腰を折ってはいるが、その目は明らかに俺を敵視する目だった。


「ありきたりな※※の仕方だが、まぁいいだろう・・・それより、その持ってきた物はなんだ?」


「噂を聞いて、ここの主人はこういうのを集めていると、それで一匹捕まえてきた」


「ほぅ、お前はそれがどういう意味か知っているのか?」


 俺は黙って頷く。


「ハッハッハッハッ!目敏いな、それで報酬に上乗せが欲しいと」


 俺が縛られたルゥルゥを商人の前に置くと、ルゥルゥはさめざめ泣いた。

 もちろん演技だ。内心は、商人に噛みつきたくて仕方ないだろう。


「実は俺もこういうのに興味がある」


「おぉ!実に結構、興味があるのは金の方かな?それとも遊ぶ方かな?」


 遊ぶ!?フェアリーで遊ぶってどういう遊びですかね・・・、大いに興味があります。


「あ、遊ぶ方で」


 またグラスの割れる音が響く。

 叱責されるメイドの顔は、見て分かる程赤くなっていた。


「ワシは両方だ、お前は若いのに見る目がある」


「ありがとうございます」


「どうだ、今晩はワシの屋敷に泊まっていけ、お前が喜ぶものを見せてやろう」


 計画通り・・・。

 真っ当な商売をやっていない人間で、趣味も兼ねているなら、同族と話したいという欲はあるだろう。

 もし金だけの人間なら、こちらから切り出そうと考えていた。

 いい方に転んだな。


 その後、食事を提供され、機嫌の悪そうなメイドさんに屋敷の地下へ案内される。


「やっぱり冒険者というのは皆同じなんですね」


 ランタンを片手に、俺を案内してくれているメイドはそう小声で洩らした。


「残念です」


 メイドは深い階段を下りた先、重厚な扉の前で足を止めた。


「ご主人様がお待ちです、お入りください」


 扉が開くと、ホコリっぽい空気が噴き出て、思わず目を細める。

 中は薄暗く、レンガで囲まれた壁がドーム状の天井を作っており、ワイン蔵のような雰囲気だ。


「さぁ中に入りたまえ冒険者君、これが私のコレクションだよ」


 すでに中にいた商人が、手に持っていたランタンを肩より上に掲げると、周りの暗がりが照らされる。

 そこには大小さまざまな大きさの檻が置かれ、中にはフェアリーや獣のような人間や、見た事が無い魔物が閉じ込められていた。

 その殆どは虚ろな目をして、まだ気力の有る魔物はこちらを敵視し、殺気と怒りをぶつけてくる。


 これは酷い。

 しかも魔物の言葉が分かる俺には、こいつらの呻きや懇願する声がもろに理解できてしまう。


「どうかね、この国では一部にしか所持が認められていない半獣も居る、気に入った物があれば安くしとくぞ?」


「・・・ありがとうございます、あなたのコレクションはこれで全てですか?」


「そうだ、ゆっくり見たまえ」


 俺は少し時間をかけて覚悟を決めると、ユックリ中に足を踏み入れる。

 檻の中、ルゥルゥから聞いてた北の森のフェアリー達も確認できた。

 俺は興味があるふりをして、一つ一つ檻の中を見て回る。

 そんな中、一番奥の大きめの檻で足を止めた。

 布がかけられた檻の中は見えないが、背筋に寒い物が這いずる感覚が・・・。

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