―――3

「お呼びですか姉さん」


「タクヤさん、この子はルゥルゥと言って、フェアリー達のまとめ役をしている子ですの」


 ルゥルゥと呼ばれたフェアリーは他と違い、赤い目と赤い髪、切れ長の小さな目が特徴的だった。


「よろしくルゥルゥ、それで、なにが仕方なかったんだ?」


「あのデブはわしらの森にたまに現れて、わしらの仲間や他の魔物を攫っていく悪者なんじゃ、そいで、わしらで何とかあのデブを村から追い出そうと、戦争を仕掛けとったってわけじゃ」


「戦争とは物騒だな・・・ってか、あの悪質な昼ドラ系悪戯は戦争か」


「ほうじゃ、わしらにはこれぐらいしかやれんけぇの、仲間を助け出そうにも、あそこにはもんすごい護衛がおるけぇ」


 悪質な悪戯レベルでもこいつらにとっては命がけなんだろう。

 相手の怒りを買えば、住処を焼き払われるし、この世界のフェアリーは俺の世界の虫と同等か。


「わしらは仲間を助けたいだけじゃ!」


「じゃぁ仲間が助かれば悪戯をやめてくれるんだな?」


「もちろんじゃ、大体わしらは人間は嫌いじゃが、身を守る以外で攻撃なんぞしたことなーわい」


「タクヤさん・・・」


 フェアリーが言うことが正しいなら、この事件の元凶は依頼主自身か・・・。

 ただ正面切って、魔物達を開放してくれと言ったところであのデb・・・商人が素直に言う事を聞くとも思えない。


「なぁリリィ」


「ひゃ、ひゃい」


 何を驚いているんだこの子。かわいい。


「俺はこの世界に来てまだ日が浅いから知らないんだが、もし、あの商人が攫った魔物達を盗んだらどうなる?」


「アンバグルブでは魔物の中には奴隷や家畜として、人間が所有権を持つ事が出来ますの」


「フェアリーもそれに含まれるのか?」


「はい、愛玩動物として」


 愛玩動物っ!?

 いや確かに見た目は可愛いが、こんな口の悪い生き物が愛玩用。

 ど、どうやって使うんですかね・・・。


「じゃあ合法的に返してもらうなら、駄犬と同じで金が必要に・・・」


 金じゃ・・・世の中金が全てじゃ・・・。


「いえ、もしかしたらお金をかけずに合法的に助け出すことが出来るかもしれませんの」


「マヂっすか」


「え、ええ、本来、魔物は取扱危険物なので、それなりの資格が必要だったはずですの」


「あの商人がその資格を持ってなきゃ違法所持になるって事か」


「そうですの、それにその資格を持つには特殊な才能が必要で、魔物を攫うような輩がその資格を持っているとは思えませんの」


 必要な才能ってのが気になるが、それよりフェアリーだ。

 愛玩動物として扱われるなら、ペットみたいなものか。あのデブが商人で、つまりフェアリーは商品ってことだ。

 言葉遣いはどうあれ、仲間の為に命かける、こんな可愛い生き物を商品にするのは許せんな。

 リリィの言う通り、国が定めた資格をあのデブが持っていないなら、俺が助け出そうとそれは国に咎められることじゃない。


「分かった、俺が何とかしよう」


「ホンマですか兄貴!!」


「お前らの仲間を助け出したらもう悪戯しないな?」


「約束しますけぇ、あぁ、人間にも話の分かる奴がおるんじゃな」


 ルゥルゥは俺の鼻先で土下座して涙まで流している。

 俺がこの件の依頼主である、商人の仕事の邪魔をしたのなら依頼の契約破棄はもちろん、俺自身も危ないのだが、まぁそれは置いておこう。


「タクヤさん、私もお手伝いしますの」


「え、俺一人でいいよ」


 それを聞いて、世界が終わったような顔をするリリィ。


「違う!すまん!言葉が足りなかった!危険だろうからリリィには残って欲しくて」


「・・・ほんとうですの?」


「本当だ、行くなら俺一人でいい」


 最悪俺一人なら、何度死んでも逃げれるぐらいは出来るだろうし。


「タクヤさんがお優しいのは重々承知してますの、でも今回の件には私もご一緒させてほしいですの」


「わしも連れて行ってほしいんじゃ、他の舎弟は置いてもわしだけは!!」


「ルゥルゥがそう言う理由は分かるが、リリィはどうして」


「この子達に受けた恩を返したい・・・のと、その、タクヤさんをお守りしたいんですの」


 フェアリー達に世話になっているのは分かる。

 ただ、なんでリリィは、ここまで俺の事で動こうとしてくれているんだろうか。


「リリィは自分の手で俺を倒したいから、俺を守りたいと?」


「違いますの!あなたは私に殺されてもいいと言ってくださいましたの、それは、その・・・私と運命を共にしたいという告白で、私も・・・私も貴方とならそうしたいと・・・」


 まって、こういう時どういう顔をしたらいいかわからないの。


「殺してもいいという言葉にそういう意味があるとは思わないんだが!?」


「わたくしの部族にはそういう風習がありますの、タクヤさんが知っていようがいまいが、わたくしは嬉しかったんですの!!」


 リリィは耳の先が赤くなり、うっすらと涙を目に貯めている。


「それだけじゃなくて、掛けてくれた言葉が・・・他の仲間から使えないと言われて追放された私に、あんな言葉を掛けてくれたのはタクヤさんが初めてですの」


 ギルドで茶化されて、それを真面目に受け取って、傷ついているだろうという事は想像していたが。

 まさか同じエルフ達からも、結構きついこと言われてたのか。

 だが、ここまでリリィの心に刺さっているとは、予想外です。


「リリィの気持ちはよく分かった、分かったからリリィはフェアリー達と残ってくれ」


 少し、いや結構口の中がカラカラだ。

 やはり不満そうな顔を見せるリリィが口を開く前に、俺は次の言葉を口にした。


「リリィはこれからも俺と仲良くしてくれるんだろう?なら、今日は大人して欲しい、次に俺が困った時、その時は遠慮なく助けてもらうからさ」


「タクヤさん・・・わかりましたの」


 渋々って感じだな。それでいい。

 俺が死ぬのは構わない、フェアリーのルゥルゥは多分何を言っても聞かないだろう。

 経験も力も足りない俺に守れるのはそう多くない。

 リリィの言葉を聞いたらなおさら、この子はここに残すべきだ。


「じゃあルゥルゥ、俺に案がある、手伝ってくれるな?」


「もちろんじゃ兄貴!」


 そして俺は、ルゥルゥを蔦でグルグル巻きにした。

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