―――2
目の前が暗転して、そして気が付くとまだぶら下がっていた。
あっちに行っていた時間はそう長くはない、こちらでも数秒レベルだろう。
それよりもヒントってなんだよ。あいつ、復活間際になって重要な事言いやがって・・・。
「なんじゃこいつ!まだいきとるぞ!!」
「ほんまじゃ!石ぶつけて生きとるとか化け物か!!」
周囲から聞こえる騒がしい声。それも一つや二つじゃない。
ぶら下がった状態で体を捻り、辺りを確認しようとするがそれらしい人影は見えない。
「もう一回じゃ!もう一度石ぶつけるんじゃ!!」
「今度はもっとデカい石ぶつけるんじゃ!」
「まてまて!話を聞いてくれ!!」
「うっさい、だれが人間の話を聞くか」
「そうじゃそうじゃ」
声は足元から聞こえてくる。無理やり体を起こそうと腹に力を入れて、前屈のように顔を足の方へ起こす。
そこには小さな、蝶のような淡い緑色の羽を動かし宙に浮く人型の生き物がいた。
うん、妖精だ。想像通りの容姿だ。けどなんだこの口調。
「・・・まて!こいつワシらの言葉喋っとるぞ!!!」
「なんでじゃ!人間のくせに!キモッ!」
「俺はお前らを襲いに来たんじゃない、頼むから下してくれ」
「嘘じゃ!人間はいつもそうやって嘘をつくんじゃ!」
「ほうじゃ!じゃけんぶっ殺したる」
可愛いのは外見だけで、殺気に沸き立つ妖精たち。
あー、噂通りこいつら人間憎みすぎ。
けどこの姿見ちゃったら退治するとか絶対無理だわ。見た目だけは実に愛らしい生き物だ。
とりあえず何度か殺されてもいいから、こいつらと対話を試みよう。
そう思った矢先、森の奥から風を切る音が聞こえてきた。
先ほど俺を殺した妖精の石ころとは違う、力強い音。
音の主は一瞬で通り過ぎ、その鋭い切っ先で俺の足を縛っていた蔦を切り裂き、すぐ近くの木に突き刺さった。
・・・あ、この高さは無理、死ぬ。
目を閉じて、落下する感覚に体を任せていると、地面に衝突する衝撃は無く、何か柔らかい物の上に落ちた。
柔らかく暖かい物に包まれる感じ。
この感覚は・・・。おpp
「タクヤさん大丈夫ですか?」
「リリィ?」
俺を受け止めて、ゆっくりと地面に降ろしてくれたのは白髪が逆光に輝くリリィだった。
「大丈夫、ありがとう」
「・・・下手な標準語は使わなくて結構ですの」
あ、あれ?
「以前の農場でも魔物言葉をつかっていたじゃないですか、それもあんな告白を公衆の面前で・・・」
「・・・そうか、興奮状態だったから日本語になっていたのか」
「こっ!・・・興奮状態で!?」
「ってかリリィはこの言葉が理解できるんだな、魔物だけかと思ってた」
色白いリリィは、なぜだか耳まで真っ赤になりながら顔を横に向けている。
「エ、エルフは元々自然に近い生き物ですの、人間が魔物と呼ぶ生き物達も、エルフと生活圏が近くて、エルフの公用語はこちらの方ですの」
「あぁ、それでね・・・ってかこっち見てよ」
「無理を仰らないでください!」
この感覚はユエールのアレに似てるな。だが、似て非なる物だ。
理由は分からないが俺までドキドキしてきた。
「おうおうおう、なんでこの人間が姉さんと知り合いなんじゃ」
「姉さん!わしら信じとったのに!姉さんまで裏切るんか!!」
先ほどまで木の上で飛び回っていたエルフたちは、俺達二人を囲むようにして浮いている。
ざっと見ても20匹ぐらいは居る、一匹一匹は可愛いが・・・ここまで多いと若干怖いな。
「お前たち落ち着きなさい、この方は私の恩人でタクヤさんと言いますの」
「姉さんの恩人!?人間のくせに!?」
「姉さんも騙されとるんか!?」
「そんな事ありませんの!タクヤさんはあのリーパーも一撃で倒し、リザードの群れから私を救ってくれたんですの!」
大きな声で立ち上がったリリィに、フェアリーたちは少しのけぞる。
そして、顔を青くして震えだす。
「ほ、ほんまか・・・あの洞窟におった変態リーパーを」
「一撃じゃと、しかもリザードまで・・・」
あのイソギンチャク、フェアリー達も変態という認識だったか。
「お前たちでは到底敵いませんの、むしろ皆殺しにされますの」
あ、いや、すでに一回殺されてるんですけどね。
「すんません!ほんますんません」
「兄さんを勘違いしてました!じゃけぇ命だけは」
「リリィはこいつらと知り合いだったのか」
「この子達は、この森に移り住んでからずっと友達ですの、口は悪いですが、仲間思いの子達なのでどうか許してあげてください」
「話を聞いてくれるなら・・・、俺も危害を加えるつもりないし」
「ホンマですか兄貴!」
「さすが姉さんの恩人じゃ!」
辺りに隠れていたフェアリーも出てきて、俺の前で土下座する。
あんなに殺気立ってたのに、なんて腰の低い奴らだ・・・。
「それで、タクヤさんの話とはなんですの?」
「村の商人の屋敷がフェアリーの悪戯で困っているらしくてな、俺がその解決に」
正座して聞いているフェアリー達がまたざわつき出す。
「ありゃ仕方なかったんじゃ!」
「悪いのはあのデブじゃ!!」
デブって、ど真ん中ストレートを投げるんじゃないよ。
デブだけど。
「お前達が全員喋ると話し辛いですの、ルゥルゥを出しなさい」
リリィがそう言うと、フェアリー集団の中から一匹前に出てきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます