―――3

――数日後


 目の前には牧歌的なこの村には似つかわしくない豪邸。

 デカい門、その奥に広がる大規模な庭園、窓の数からどれだけ部屋があるか数えるのも面倒になりそうな建物。


「すげぇ儲かってそうだな」


 門の傍にいた私兵にギルドの依頼書を見せて中に通されると、これまた豪勢なアンティーク家具に囲まれた広い客間に案内される。

 ・・・それよりも案内してくれたメイドさんの方に目が奪われたのは自然な事。メイドカフェとか行ったこと無いけど、これはナカナカ・・・。


「やっと冒険者が来たか!」


 そう言って部屋に入ってきたのは、俺が想像していた通りのデb、恰幅の良い体型、髭をビョーンと伸ばしたまさに商人という出で立ちの男。

 いや、商人というより奴隷に鞭打って鉱山で儲けてそうな顔つきだな。


「お前は知っているぞ?最近村で噂になっている空から降ってきたという男だろう」


「はい。それで、詳しい話を」


 男は俺をじろじろと品定めし、フンと鼻息を漏らすと


「金は約束通り払う、※※は問わない、お前の好きにしろ」


 とだけ言って部屋を出て行ってしまった。

 外見通り横暴な御仁のようですね、心中穏やかじゃないですよ?

 この村で出会った連中はいい人が多く、このタイプの人間が居ることに驚き半分、落胆半分だ。

 あからさまに不機嫌になった俺を見て、部屋に控えていたメイドがお茶を出してくれる。


「ご主人様はお忙しい上、タクヤ様にお越しいただいた件で頭を痛めておりますゆえ、ご無礼をお許しください」


 俺と年が近そうなメイドさんは深々と頭を下げてくる。


「気にしないで、あなたにお茶を入れてもらえるだけで俺は満足です」


「恐れ入ります、それで依頼の内容ですが、わたくしが主人に代わりお答えいたします」


「フェアリーの悪戯は・・・どの程度」


「はい、二週間程前から小規模な※※が出始めました、はじめは子供の悪戯程度でしたが、最近では窓ガラスが割られたり、大量の蟲の※※が撒かれたり、牛の※が玄関の前に置かれたり・・・」


 う、うわぁ・・・。知らん単語はおそらく、過激なご近所への嫌がらせでよく聞く、そんな感じの内容だろう。

 ただ、フェアリーの嫌がらせってレベルを超えてるだろ。

 フェアリーってもっとこう、靴を片方隠したりお菓子が食べられたり、そういう可愛い悪戯じゃないの?


「他にも有りますがお聞きになりますか?」


「結構です」


 これ以上は俺のフェアリー感が壊れる。

 ユエールの絵からは想像できない内容だ。俺のイメージするフェアリーともかけ離れている。

 とりあえず相当ヤンチャなフェアリーなんだろうな・・・。


「そのフェアリー達は何処から来ているんですか?」


「詳しい場所は存じませんが、おそらく北の森ではないかと・・・」


「分かりました、北の森で探してきます」


「宜しくお願い致します」


 メイドさんはまた、深々と俺にお辞儀をして見せた。

 俺は応接間を後にしようと、妙に座り心地の悪い椅子から立ち上がると


「タクヤ様、一つお聞きしてもよろしいですか?」


 メイドさんが申し訳なさそうに声をかけてきた。


「どうぞ」


「問題を起こしているフェアリーを見つけた後、どうなさいますか?」


 うん、実はここに来るまでにずっと考えてはいた。

 話が通じる相手なら、何とかして説得したい。

 だが、ユエールの話や、ギルドに手続きに行った時、ほかの冒険者から聞いた話じゃフェアリーの人間嫌いはそれはもう酷い物で。

 話し合いで何とかならないかとマッチョさんに相談したら爆笑されたっけか。


「可能なら大人しい方法で」


「本当ですか!?」


 近い!顔!!ちっか!!

 ほんの一瞬で詰め寄ってきたメイドさんは、俺の顔に鼻息が聞こえる程近づいてきた。


「あぁ!失礼しました!」


 顔を赤くして離れるメイドさん。

 そういう前振りのない急な接近は止めてください。耐性の無い男の子には致命傷ですよ。


「コホン・・・分かりました、ではタクヤ様のご無事をお祈りしております」


「・・・・・・ところで、北の森ってどこですかね」

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