6、こんな依頼は間違っている
―――1
リザード達の襲撃後、村の好意でミーニャの家は再建され、略奪されたウサギ(牛)は俺とリリィにギルドから出た報酬で買い直した。
だが、一つだけ問題が残った。
フェンリルが本来の持ち主である衛兵達の厩舎へ戻らず、ミーニャの牧場に住み着いてしまったのだ。
「おい、そろそろ家に帰れよ」
「無理な相談である、ここはタクヤ殿が想像するより我にとって住み心地が良い」
「・・・厩舎も変わらんだろう、はよ帰れ」
何度も帰るように促し、ユエールにも引き取りに来てもらったが頑として動かない。
そのうち帰ってくるだろうとユエールは笑っていたが、あれから一週間、帰る気配がない。
「このままじゃ俺が困るんだ」
「何故だ?」
「衛兵連中がこのままお前を買い取れと言ってきたんだ、格安で譲ってくれるらしいが、そんな金は俺には無い」
「なんだ、解決ではないか」
「どこがだよ!金が無いと言っただろ!?」
「タクヤ殿はギルドに登録された冒険者だ、先日の件でレベルも上がりノービスからソードマンにクラスアップしたであろう」
「それで?」
「稼げと言っているのだ」
俺はため息を吐く。
「俺はギルドの仕事もするが、どれも簡単なお手伝い程度で、お前を買うほどの稼ぎはないんだよ」
「・・・ちなみに我はいくらで取引されるのだ」
「50000ゴールド」
俺がギルドでやるお使いクエストは、どれも平和的な物ばかりだ。
その報酬は、条件が良くても500ゴールド。これを毎日受けたとしても100日。
それも依頼は毎日ある訳もなく、報酬だってそれ以下もある。
こんなロリコン犬を飼うために、俺の貴重な時間を消費する気はさらさらない。
「おい、そんなにココに居たいならお前も稼ぐのを手伝え」
「それは無理である、我の主人は今衛兵達である、今のまま我がタクヤ殿の手伝いをしても、我が稼ぎ分はすべて衛兵たちの物である」
「面倒くさいルールだな、やっぱり厩舎に帰れよ」
「嫌だ!絶対帰らない!」
子供か・・・。
俺が両手で顔を覆っていると、ミーニャがフェンリルの食事を運んできた。
「はいお馬さん、ごはんだよー」
「かたじけない幼女殿、ところで今日のパンツは何色かね」
「嬉しい?お腹減ってたんだねー」
頭のおかしい会話の流れだが、幸いにフェンリルの言っている事はミーニャに理解できない。
俺が撫でる程度のつもりでフェンリルの脇腹を叩くとボコンボコンと音を立てる。
「タクヤ殿、頼むから止めてくれ、お主の触れ合いは少々度が過ぎる」
「止めてほしいならセクハラをやめろ」
「それも無理な相談である、我はこれが生きがいなのだ」
「死んだ方がいいんじゃないかな?」
そう言う俺を無視してミーニャからもらった食事、タライ一杯のキャベツをボリボリと貪る。
これも元の世界じゃ信じられない光景だが、この狼(馬)は草食動物だ。デカい狼がキャベツを貪る姿は想像以上に異様だ。
「お兄ちゃん、このお馬さんどうするの?」
「今すぐ衛兵のみなさんに返したい、けど、帰りたくないと言ってる」
犬の話はいいからお兄ちゃんってもっと呼んでください。
「ミーニャもお馬さんに居てほしいなぁ、牧場のお仕事もしてくれるのよ?それにミーニャとも仲良くしてくれるし」
ミーニャよ、仲良くしてくれるのはこいつに邪な願望があるからであって、決して友達とかそういう感情ではない。
だが、こいつが牧場で役に立っているのは確かだ。重たい飼葉運びや牛(うさぎ)のコントロール、なにより番犬として魔物から牛(うさぎ)やミーニャ達を守ってくれている。
村の中心へ行く時もこいつに乗っていけばすごく楽だ。
性格さえ目をつぶれば最高の犬である。
「衛兵の宿舎に行って相談してくる」
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