―――2
――数日後
ギルドに登録してからユエールの剣と魔法の授業はお休みとなり、俺は毎日のようにギルドに顔を出すようになった。
別に俺自身が積極的にこの場所に来たいわけじゃない。
あの変なエルフ、リリィに謝るとミーニャに約束してしまったのだ。
ギルドに来てはリリィの情報を集めるが、居所までは分からない。
分かったのは、リリィはこの町に50年ほど前から顔を出し始めた事、クラスは狩人である事、そして酒とヌルヌルした物が好きであるという事だけだ。
50年って・・・やっぱりエルフってのはこの世界でも長生き設定なんだろうか。見た目は俺と同年代か少し年下にしか見えなかったが。
とにかくリリィとの接点はこのギルドしかない。
毎日来て、他の冒険者と話したり、戦闘が必要のない依頼を解決して過ごす。
おかげで農業スキルや土木工事スキルが上がりレベルも8になっていた。
「よぉタクヤ、今日も来たのか」
「やぁマッチョさん」
「今日もお目当ての子は見てねぇぞ、お前らも見てねぇよな!?」
マッチョさん・・・本名じゃないが、2メートル近い巨体で全身筋肉のような中年男性がホールに響く声で問いかけるが、皆が知らないという風な返事を返す。
「もう別の村に行っちゃったんですかね?」
「いや、それはないぞ、エルフってのは律儀な種族でな、一度来ると言ったら必ず来る」
つまり必ず俺を殺すと。
女の子が俺にご執心なのは嬉しいが、殺すとかヤンデレ的な行為は勘弁願いたい。
「タクヤさーん今日もいらっしゃいニャ―」
「こんにちはフリット、ギルドの受付にリリィは来た?」
「来てないニャ、それよりタクヤさんにお願いしたい事があるニャ、以前ジャガイモの収穫をお手伝いしてくれたおばあちゃんがまた手伝ってほしいそうニャ、タクヤさん名指しニャ、モテモテにゃー」
「おぅ、あのばーちゃん腰痛めててマッサージしてあげたらすごい気に入ってくれたからな、年寄り相手なら任せろ」
フリットはそれを聞くと嬉しそうに手続きのためにカウンターへ戻っていった。
小さい頃、祖父母と長く過ごした俺は年寄りの相手が得意だし、何より苦ではない。あのばーちゃんも日本にいたばーちゃんにどことなく似てるし・・・あぁ、ばーちゃん元気してるかなぁ。孫はこの変わった世界で何度も先立つ不孝を経験しちゃってるよ・・・。
とりあえず依頼は農作業だ、明日の朝行くとして、今日はマッチョさん達と受付猫娘ナンバーワン決定戦でもやって時間を潰すか。
そう考えて受付にお茶を頼もうと立ち上がると、ギルドの扉が勢いよく開かれた。
一瞬、来たかっ!と身構えたが、扉の前に立っていたのはユエールだった。
「緊急依頼だ!村外れの牧場が※※※の群れに襲われている!冒険者達は直ちに武装して我々についてきてくれ!」
険しい表情のユエールがそう叫ぶと、ホール内の空気は一気にピリピリしてくる。
待ってましたと武器を担ぐ者、杖や薬の詰まった袋を取り出す魔法使いや僧侶達。
・・・この場合俺も行くべきなのか?どう見ても戦闘系でしょコレ・・・。
すげぇ行きたくないんですが・・・。
「タクヤ!襲われてるのはアエラの牧場だ!」
「待ってろミーニャ!!」
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がるとユエールの傍に駆け寄る。
「ここから走るとなると時間が掛かりすぎる。馬を用意した」
「待って、俺馬に乗った事ないんだけど・・・」
「大丈夫だ、お前はしがみ付いているだけでいい、馬に任せれば目的地まで駆けてくれる」
そういって指笛を吹くと、銀色の毛に覆われた・・・。
「あれ狼じゃね?」
「馬だ、お前の国では狼と言うのか?」
遠目に小さく見えた馬(狼)は近づくにつれてその大きさが増していく。
ギルドの建物の前に急停止した馬(狼)の大きさは馬より大きく、ワンボックスぐらいの背丈があった。
「さぁ、タクヤはその※※の奴を使ってくれ、まともな奴は皆使われているので・・・ちょっと変わった奴だが足は速い」
何匹か集まった馬(狼)の中で一匹だけ片目がつぶれてる奴が居た。
ユエールは隻眼と言ったのか。しかし、変わってるってなんだ・・・。
俺は隻眼の馬(狼)の体にしがみ付くと、なんとかよじ登って背中に跨った。
おぉ、フカフカして乗り心地はいい。子供のころに見た映画にこういうのあったな・・・。
「あぁー、いいぞ、やはり人間はいい」
「シャヴェッタ!?」
「何を驚いている青年・・・タクヤと呼ばれていたな、馬が喋るのは当然だろう」
「当然じゃねぇよ・・・と、とにかく頼む今は急いでいるんだ」
「承知している、何処でも良いからしっかり毛を掴んでいろ」
俺は喋る馬(狼)の耳の付け根にある毛を強めに掴んだ。
というか日本語だな・・・。こいつも魔物の一種ってことか。
「~~~~!あぁー!良いぞタクヤ殿、その小さな手で我の毛を必死に掴むその様!やはり人間はいいぞー」
・・・なんだこいつ。ユエールが変だとは言っていたが、変以上の何かあるんじゃないか。
「とにかく急いでくれ、俺の大事な人達が危険なんだ」
「うむ!任せろ」
そう言うと馬(狼)は一吠えして駆け出した。
そのスピードたるや大型バイクのそれに近い物がある。風を避けるために体を密着させて、馬(狼)の体にしがみ付くのがやっとだ。
「青年・・・タクヤ殿、大事な人を助けるのだな?その人たちはどういう人だ」
「どういう・・・そうだな、命の恩人だ、今も良くしてもらっている」
「そうではない雌か?」
「人間は雌とは言わん、女か男だが、女の子だ」
「子!?」
走りながら体をビクッとさせる馬(狼)・・・。
「一大事だな!?」
「そ、そうだろ?」
こいつスピード上げやがった。・・・まさかミーニャを取って食ったりしないだろうな。
しかしその駆けるスピードは他の馬(狼)達をはるかに凌ぐ物だった。どんどん集団を追い抜き、いつの間にか俺たちが先頭でリードする状態だ。
「おい馬!お前名前は無いのか!?」
「名前なんぞ無い、アレとか片目とかだ」
「あんまりだな・・・フェンリルなんてどうだ?俺が居た世界の狼の名前だ」
「~~~~!ああぁぁー!イイ、なんてイイ響きだ!人間に名前を貰うなぞ夢の様だ!」
その喘ぐ声はどうにかして欲しいが、馬(狼)のフェンリルは体を震わせるほど喜んでいる。
「タクヤ殿よ、この仕事が終わったらどうか我の主になってはくれまいか?」
「か、考えておく」
風を切って走るフェンリルはあっという間にミーニャの家が見えるところまで来た。
家の周りには何か動く物が沢山見え・・・、トカゲだ。デカいトカゲが直立している。
緑や赤い皮膚、手には斧や槍なんかを持っている奴も見える。
「見えたぞタクヤ殿、剣を抜くのだ、このまま突っ込む」
後ろを見ると、他の衛兵や冒険者たちも雄たけびを上げ武器を抜いている。
俺も剣を抜くとフェンリルの背中で気合を入れた。
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