5、こんなエルフは間違っている

―――1

 ざわつくギルドホール。

 入り口から差し込む逆光を受けて立っているのは耳が長く見える女性だった。


 女性はホールの中心まで歩いて来るとまた口を開いた。


「いらっしゃらないんですの!?タクヤさんは?!」


 その時俺はテーブルの下で小さくなっていた。

 ここは戦闘が得意な冒険者が集まるギルドだ。そんな所で俺を名指しで呼ぶ奴なんて、荒くれ者に決まっている。


「?」


 隠れる俺をミーニャは不思議そうに見ている。

 しばらく考え込むと、ミーニャも俺にくっついて隠れた。


「かくれんぼでしょ?」


「そ、そうだよー」


 そういうことにしよう。

 とにかくあの変な人に見つからないようにここを出よう。

 姿勢を低くしたまま隣のテーブルの下へ、そしてまた次のテーブルへ。

 他の冒険者の足を掻い潜りながら、出口へゆっくり進んでいく。


 二人で何とか出口付近まで来ると、静かに頭を出す。

 どうやら俺を探している女性は、見当違いな場所を探しておりカウンターにいる受付猫達に詰め寄っていた。


 逃げるなら今だろう。

 俺はミーニャの手をつかんで扉から外に出ようと机下から飛び出す。

 勝ったな・・・。帰ったらアエラさんにニンジンタップリのシチュー作ってもらってパンを貪るんだ。


 緊張が解けて、それだけで残機が減りそうな完璧なフラグを妄想した。

 するとミーニャがズッコケて、握っていた手が引っ張られ何とか態勢を立て直そうと逆の手を振ると、持っていた買い物袋が大きく振られ近くのテーブルにぶつかってしまう。

 派手な音を立てて倒れるテーブル、気づく変な女、とにかく外に逃げようとする俺、俺に向かって猛ダッシュを始める変な女、キャッキャと喜ぶミーニャ、腰からナイフのような物を抜いてそれを投げる変な女、顔面蒼白な俺。


 あぁ、死んだな。ナイフなんて出さなくても俺は殺せますよ!?

 できれば痛くない方法で殺して!!


 とっさ、両腕で顔を覆う。が、いくら待っても痛みが来ないし、何よりあのふざけた文字も見えてこない。


 恐る恐る目を開けると、目の前に女が立っていた。

 長い耳、若そうだけど整った顔立ち、綺麗な白髪。

 映画で見た事がある、この人はエルフと呼ばれる種類だ。


 彼女は一度ニコリと笑顔を見せると、目を輝かせて短剣を振りかぶった。


「ま、まて。ちょっとまて、なんで俺を殺そうとするの!?ってか、なんで俺の名前知ってるの?」


「あなたは村でも※※になってますの、私は強い人と戦いたいのです、己の※※※のために」


「いやいやいや、他にも強そうな人いっぱい居るでしょう!?後ろにはムキムキマッチョな冒険者さんも居るし、あっちの女の子なんて凄い魔法使いそうな格好してるよ!?」


 焦って日本語が混じってるが気にしない。


「あなたはあのタフリーパーを一撃で倒したと言うではありませんか、一撃なんて聞いた事がありませんの」


 ん?なんで魔物を倒した俺に憤慨気味なんだこの子。いや、正確には倒してないが。


「あの汚らわしいヌルヌルした体、長く卑猥な触手・・・、あなたのようなノービスになりたての冒険者に倒される相手ではありませんの!」


 イソギンチャクに痛くご執心だな・・・、何か特別な思い入れでもあるのかな?


「私でも勝てない、ほかの冒険者でも苦労するリーパーを退治された、あなただから勝負したいんですの、覚悟なさい!!」


 なさい!!じゃねぇよ!


「冗談じゃない、ミーニャ逃げるぞ!!」


「お待ちなさい!」


 変な女、エルフの手から放たれた短剣は俺の頬をかする。


 ・・・・・死んだわ、これ絶対死んだわ・・・・・・・・・・・。

 ・・・神様!出番ですよ!?いつものテンプレセリフはまだですか?

 目の前にはギルドの外に集まってきた野次馬と、不思議そうな顔をするミーニャがずっと立ってますよ!?


「あ、あれ?死んでない・・・。ってかよく見たら腕にナイフ刺さってるし!痛・・・たくないし!?は?え!?」


 俺が混乱してるとギルドの中から掠れた男の声がした。


「にーちゃん、その子と勝負してやれよ、その子は殺さずのリリィって言うちょっとした有名人だ」


「殺せずのリリィだろ?なんたってその子は攻撃力1も無いんだからさ!」


 その合いの手にギルドで笑いが起こる。

 あぁ、それで・・・でもナイフ刺さってても痛くないってどういう法則なんですかねコレ・・・。


 それにしても、足がジンジンしたりお盆がぶつかって死ぬような俺が死なない攻撃って。

 思わず俺も噴き出す。いや、人の事笑えないけど・・・。


 目の前のリリィと呼ばれた変なエルフはワナワナと肩を震わせ顔を真っ赤にしている。


「タクヤさん、今日はこれで失礼しますの、また必ずあなたを倒しに伺いますわ!」


 頬からキラキラ光る物を流しながらリリィは走り去っていった。


 んー、悪いことしただろうか。

 ・・・・いや、問答無用で襲ってきた上ナイフを刺した奴を憐れむ理由はない。

 だが横にいるミーニャは複雑な顔をしていた。


「可哀想・・・タクヤもあのおねーちゃんの事笑ったよね?」


「お、おぅ」


「ごめんなさいしようね!!」


 そうだね!謝ろうね!!

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