―――2

俺は俺の手を引くミーニャの顔をじっと見つめていた。

 世界の滅亡ねぇ・・・まったく実感がわかない、今の世界は余計に実感がわかない。

 考えているようで考えていないまま、村の中心街が見えてきた。


 周囲を魔物避けの高い塀で囲まれ、北と南に門があり俺たちは南側の門へたどり着いた。

 この門は国の首都から送られた衛兵達によって24時間監視されており、村の安全が保たれている。

 とは言うものの、以前のリーパー事件が数年ぶりの魔物襲来だという。


 ミーニャは門の傍に立つ見慣れた顔に向かって駆け出した。


「ユエールご苦労様です!」


「こんにちはミーニャ」


 ミーニャはニコニコしながらユエールに深々とお辞儀をした。

 少し遅れて俺がユエールに挨拶する。


「タクヤ、ちょうど良かった、お前を※※※に紹介しようと思うんだ」


 聞き覚えのない言葉だな。紹介するっていうから人か?


「それは誰?」


「・・・あぁ、人間じゃないんだ※※※は組織の名前だ、お前も※※※して剣を覚えただろう?この村のために働いて※※※※※※※」


 ミーニャに毎日言葉を習っては居るが、さすがにすべてを聞き取ることはまだ無理だ。

 だが英語もろくに喋れない俺にしてはすごい進歩だ。

 日本人は学校で英語を何年も勉強するのに喋れる人は少ない理由、それは英語が必要な生活をしないからだと聞いたが、まさにその通りだろう。

 毎日使い、触れることでどんどん吸収できる。

 やっぱり俺はやれば出来る子でしたよ母さん。


「で、その・・・ギルド・・・?それに紹介してもらえると?」


 ユエールはそうだと答えた。ユエールはギルドについて続けた。

 それは冒険者・・・と俺は解釈したが。とにかく魔法や戦闘を得意とする人達が集まった組織で、国の人々や村などの自治体、はては国家レベルからの様々な依頼事を受け解決する事を業務としているらしい。

 オンラインゲームでいうクエスト的なやつか。


「お前は鍛錬だけで実戦を経験していない、この機会に実戦にでたらどうだ?」


「そうは言うが・・・」


「心配するな、ギルドにはお前のような※※※※も沢山いる、仲間を※※※協力すればいい、それに依頼を受けるのもお前の自由だ、好きな時に好きな依頼を受ければいい」


「わかったよ、とりあえず紹介受けておく、ちょっと楽しみだ」


 これは本音だ。

 ゲームでは結構面倒な作業ではあるが、実際に自分がやるとなるとワクワクする。

 ・・・俺が死なないで済むようなクエストがあると良いな!


 俺はユエールから手紙を受け取ると、ミーニャとの買い物を済ませてからギルドの受付がある町の中心へやってきた。

 その建物は町の中でも教会の次に高く、尖った塔のような物がいくつも集まって出来上がったような不思議な建物だった。

 俺はミーニャを連れて建物の大きな扉を開く。


「はー、これがギルド」


「うん、ギルド、私初めて来ちゃった」


 ミーニャは相当はしゃぎながら奥へと走っていく。

 建物の中は教会の礼拝堂のように高い天井と多数の机とテーブル。そこには多くの冒険者らしき人達が話し合い、中にはジョッキを片手に歌う人までいた。

 すごい活気だ・・・。


「こっちだよー!」


 ミーニャが跳ねながら手招きをしている。

 場の空気に飲まれていた俺は、買い物袋を担ぎなおしてミーニャの元へ急いだ。

 ミーニャが跳ねていた場所には、ホテルのカウンターのような受付があり、数名の女性が立っていた。

 驚いたのは、受付の女性は全員猫耳を生やし尻尾も付けている。

 コスプレですか?


「この人たちは半分人間、半分猫のシャーっていう人達だよ」


 ナイスファンタジー。

 生きてる間にリアル猫耳美少女を見れるとは、感動だ・・・。


 俺が猫っ子萌えに浸っていると、黒毛の猫っ子が俺の方へ近寄ってきた。

 背丈はミーニャより少し大きいぐらいで、大きなグリーンの瞳が好奇心で光っていた。


「もしかしてタクヤさんですかニャ!?」


「はいタクヤです」


「あーやっぱり!あなたが空から降ってきて、リーパーを一撃で※※※したタクヤさんニャ!お会いできて光栄ですニャ!」


 リーパーを一撃でどうしたか分からんが、決して卑猥な言葉ではないだろう。そう信じよう。


「私の名前はフリット、このシズ支部の受付を担当していますニャ、はーすごいにゃぁ、※※される女の子をリーパーから格好良く救った方が来て下さるにゃんて・・・」


 その聞き取れなかった部分は卑猥な言葉ですよね?ってか格好良くはなかったと思うが。

 妄想に浸っている黒猫娘のフリットは置いといて、俺は買い物袋からユエールの手紙を取り出した。


「これ、衛兵のユエールからの紹介」


「にゃ、にゃぁ!お預かりしますニャ・・・・・・・・・確認できたので登録※※※※しますニャ、ステータスを※※※するので私の前に立って下さいニャ」


 俺は言われるままフリットの前に立つ。するとフリットが両手を前に差し出し、目をつぶるとボソボソと聞いたことがない言葉を唱え始めた。

 少しして、俺の体がほんのり暖かい光に包まれスーッとした気分になる。


「・・・・・タクヤさんの基本ステータスがわかりました!えーっと・・・・・・え?・・・え!?」


 バレ申したか・・・。


「HPが確認不能・・・攻撃力も確認不能・・・その他は一般平均より少し低いニャ、確認不能ってにゃんだろう・・・こんなの初めてですニャ」


 フリットはアナライズという魔法を使って基本ステータスを確認したらしいが、バグのせいで狂っている数字は確認できなかったのだろう。


「コホン・・・とにかく!確認※※は置いておくニャ、このステータスだと、タクヤさんの※※※は基本中の基本である※※※ニャ」


 俺は首を傾げていると、察してくれたミーニャが≪ノービス≫という言葉を教えてくれた。どうやら一定の能力に達していないギルドメンバーが配属される初心者クラスの事だそうだ。


「おかしいですニャ、ノービスがリーパーを一撃なんて・・・、やっぱり確認不可能なステータスに秘密が・・・」


「まぁまぁ、それはいいじゃないか、これで登録できたことになるの?」


「まだですニャ!最後にこの、※※※に記名してくださいニャ」


 フリットはビシィッっと俺の前にカードを差し出した。

 そこにはすでに俺の顔写真・・・というには少し違うが、少し美化された俺の顔が描かれ、カードの最後に空欄があった。

 俺はそこに漢字でサインすると、フリットに返す。

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