4、こんなギルドは間違っている
―――1
あれから無事に村に戻り一夜経つと、俺は村の人々に歓迎される恩人になっていた。
洞窟からリーパーの姿が消え、約束を守ったことでミーニャも喜び、それからしばらくは静かな暮らしを送った。
朝は日の出と共に起きてミーニャ達の牧場の手伝いをする。
モーモー鳴く生き物は牛ほどの大きさがあるウサギで、毎朝ウサギ(牛)の乳を搾り、草原に放している間、小屋を掃除してその後朝食。
朝食後は畑仕事をして、お昼からミーニャ先生の語学授業。夕方には衛兵の仕事が終わったユエールから剣の扱い方と基本的な魔法学を教わる。
正直、元の世界の日本で暮らしていた時より充実している。
娯楽は少なく生活も決して便利ではなかったが、それなりに忙しい日々に満足していた。
そしてこの世界の事もだいぶ理解してきた。
俺が落ちたのはアンバグルブという国のシズという村。
村は住人100人程度の小さな村で、国の中心から離れた山間の田舎だそうだ。
この世界にはアンバグルブ以外にもショーテ・ディヨン・ロッシ・ジョンジョンという国があるそうだ。
その昔、魔物を束ねる一族が居て、そいつらが世界を我が物にしようと企んだが、人々が協力して彼らを退治し、それを率いた指導者がそれぞれ国を興した。
国々は各々の指導者の影響を受けて、独自の政治形態を持ちながら成長したが、ある時大きな戦争が起きた。
百年にも渡る戦争は疲弊によって停戦となり、それ以後は平和な時代が続いているそうだ。
「タクヤー!お買い物に行こう!!」
朝食後、俺は部屋でくつろいでいると外からミーニャの声がした。
「分かった、すぐ行く」
ミーニャの家は村の中心から少し離れている。
移動が基本徒歩なので買い物に行くにも時間がかかる。お店がある村の中心まで歩いて一時間。往復二時間の結構な距離だ。
ミーニャは嬉しそうに俺の手を握って、少し引っ張りながら歩いていく。
あれから父親は一度も帰ってこない。出稼ぎという奴なのだろうが、ミーニャは時折寂しそうにしている。
だが、アエラが言うには俺が来てからだいぶ変わったそうだ。
まぁ、ミーニャは一人っ子で年の離れた兄が出来たようなもんだし、なにより男である俺から父親的な物も感じているんだろう。
いいよねー、こういうの癒されるわ・・・。
そういえば洞窟の一件以来、俺は一度しか死んでいない。
・・・死んでないってなんだよ普通そんな頻繁に死なねぇよ。
とにかく、ケガ等に最大の注意を払っている。
おかげで分かってきたのは、俺が死ぬ基準だ。
低い椅子から軽く飛び降りる、剣で相手の攻撃を受け流す、石ころに躓く程度では死なない。
だが、一度だけ調子に乗って階段四段分を飛び降りたら死んだ。
ユエールの剣の修行でも素振りや丸太相手に攻撃はしても、ユエールの剣をまともに受けた事はない。
後は・・・・残機の問題だ。
階段から飛び降りて死んだ時。
『あなたは残念ながら階段四段分の高さから飛び降り、足がジンジン痺れて死んでしまいましたwwwwwwwww再度復活しますか?wwwwwwwwwww』
「死因は余計だろ、てか笑い過ぎだ、失礼だぞ」
『毎回同じだと気分も滅入るでしょう、神様の粋な計らいです』
「粋な計らいついでに俺も元の世界に帰してくれるとありg」
『ではタクヤよ、世界を頼みましたよ』
「まてまてまて、せっかく死んだんだ・・・いや、この際おかしな部分は置いておくとして。ちょっと質問させろ」
『はい、なんでしょう?』
「この前残機って言ってたな?残機ってなんだ」
『残機は残機です、知りませんか?あなたの記憶から一番近い言葉を選んだのですが』
「いや言葉自体は知ってるが、どういう意味だ、俺が死ぬと残機が減るのか?」
『はい』
「無限じゃねぇのか!」
『はい、一応上限が定められています、ちなみにあなたの残機はあと20機です』
「あと20回復活できるのか・・・多いのかそれ?」
『普通の人間は1機ですからね、多いでしょう』
「普通の人間は階段四段分から飛び降りて足がジンジンしても死なねぇよ」
これは微妙だ。この死にやすい体で20機というとあっさり無くなりそうだ。
「おい、残機がなくなったらどうなる?」
『あなたは復活できなくなり、すべてがリセットされて再度最初からプレイすることになります』
「・・・最初からって?」
『この世界に堕ちてきた瞬間からです』
なんだかニュアンスが変な部分があったが無視しよう。
なんにしてもリセットは勘弁願いたい。すべてがリセットって事は記憶もリセットされて、俺は繰り返している事も忘れるんだろうが・・・。
「なぁ、もしかして俺はすでに何度かこの世界を生きているのか?」
恐る恐る聞いてみた。
『いいえ、今のあなたは初めてこの世界を生きています』
「そうか、ならその残機を増やす方法はあるのか?普通のゲームなら1upアイテムとか、一定のスコアを稼ぐと増えるとかあるが」
『もちろん存在します、ネタバレになりますが聞きますか?』
「ネタバレってなんだよ、こっちは命かかってるんだ、いいから言え」
『あなたが残機を増やすには世界中に散らばっているタクヤちゃん人形を拾ってください』
「・・・・・・・・・・・・」
『タクヤちゃん人形はあなたにそっくりな羊毛で作られた二頭身人形で、可愛らしさのみじんもない人形です』
「形の話はいい、で、その人形はどこにあるんだ」
『それは私にもわかりません、ただ、洞窟やお城の宝箱の中は要注意ですよ♪』
こいつ絶対知ってる。知っててからかってるだろう。
「その人形はこの世界に何個あるんだ?」
『その正確な数も私は把握していません、ですが、世界に1000個以上は確実にあります』
んー、世界の大きさが地球と同じだと仮定すると1000個ってすごく少ない気がするぞ。なにより1個見つけるのに10機ぐらい失いそうだ。
「とりあえずありがとよ。じゃ復活させてくれ」
『タクヤ、私も一つお聞きします、決心はつきましたか?』
イレギュラー退治の決心について聞いてるんだろう。
「いや。もしかしたら一生つかないかもしれない」
『そうですか・・・、世界が滅んでもあなたがそう決めたのなら、私は私の役目を果たすだけです』
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