―――3

 ・・・・イソギンチャク(大)は絶叫しグッタリして動かなくなった。

 クソッ!色々期待した俺がバカみたいだ。なんで触手が逆に責められてるんだよ。返せ!純真無垢な童貞の夢を返せ!!

 っていうか、なんでかわいい女の子の萌え声なんだよ。イソギンチャクのくせに・・・。


「※※※※※※※※※※!!」


 イソギンチャク(大)が動かなくなるのを見てから、少女たちが泣きながら俺の背中にしがみ付いてくる。

 ユエールもゆっくりとその中へ入って、少女たちの介抱を始めた。

 ・・・まぁいいか。とりあえず神の言っていたイレギュラーを一匹退治できたし。これで一歩元の世界も近づいたって事で。


 俺は早くこの洞窟を出ようとユエールに伝え、グチャグチャなイソギンチャク(大)の口から剣を引き抜いた。


 ・・・・ヌルヌルしたのが沢山付いてる・・・鞘に納めるのも躊躇われるんですが・・・。


 イソギンチャク(大)に背を向けるとイソギンチャク(大)からグチュグチュと気色悪い音が聞こえてくる。


「ま、まって」


 恐る恐る後ろを振り向くと、イソギンチャク(大)が口から短い触手をウネウネさせてこちらを見ている。

 ・・・目はないから正確にこちらを見ているか分からないが口の様な物は向けている。


「お願い、まってダーリン」


「だれがダーリンだ」


 いや待て。なんでこのイソギンチャク(大)は日本語を喋っているんだ。そういや剣を突き立てた時もらめぇって言ってたな。


「ねぇもう悪いことしないから私も連れて行って。もうあなた無しじゃ生きられない体なの」


「あぁそう、じゃ達者で暮らせよ」


 踵を返す俺の腕に触手が絡む。嫌!ヌルヌルしてる!やめて!!


「お願いです!この通りですから!!」


 深々と頭・・・いや口?を地面にこすりつけるイソギンチャク(大)。

 というか何で死んでないんだこいつ。俺は確か明確な殺意を持って本気で剣を突き刺したのだが?


 俺は少し考えてから、ユエールに女の子たちを外に出すように伝える。

 それからイソギンチャク(大)と向き合った。


「お前、なんで日本語をしゃべれるんだ?」


「日本語?そんな言葉はしらないけど・・・この言葉は魔物の共通言語だよ?」


 俺が日常使っていた言葉は化け物の言葉だったのかよ。結構ショックですよ?


「とりあえず俺はお前を倒さなきゃならないんだが・・・さっき剣を突き立てたよな・・・」


「そう!そうなの!私の大事な所にダーリンが突っ込んだそれ!今まで感じたことが無いような衝撃だったの、それはもう・・・夢のような」


 クネクネと体を揺するイソギンチャク(大)を見て呆れた顔をする。


「そこ、急所じゃないのか、神の話では殺意を持った一撃なら大体死ぬとか言ってたが・・・あれも適当な事言ってたのか」


「よくわからないけど急所だよ?乙女の♪」


 よし殺そう。

 萌え声で目をつぶれば可愛い女の子と会話してる風なのに、目の前にいるのはイソギンチャク(大)だよ。しかも言動がおかしい。

 村から女の子をさらって、やらせてる事は穴に棒を突っ込ませるとか、どう見ても変態です・・・。


 俺は今度こそ仕留めようと両手に力を込めて剣を握る。

 するとイソギンチャク(大)は、急に動かなくなりそのままうな垂れるように小さくしぼんだ。


「そうだね・・・村の子にも悪さしたし、この外見だし、殺されても仕方ないよね。本当はまだ死にたくないけど・・・でもいいの!ダーリンに出会えただけで私は満足だから、だからその手で殺して!!」


 なんで若干嬉しそうなんだよ。

 俺は握った剣を振り上げ・・・だが、なかなか振り下ろせなかった。

 たしかにこいつは悪いことをしたんだろう。外見もイソギンチャク(小)で気持ち悪いし、なにより触手として攻めるどころか受け体質。

 だが、生き物に変わりない・・・。なにより声が可愛い・・・。

 くそっ!俺が声フェチじゃなかったら!声フェチじゃなかったら!!


 俺の手から剣が零れ落ちる。

 剣がガランと音を立てるのを聞いて、イソギンチャク(小)はこちらを伺ってくる。


「見逃してやる」


「え?」


「勘違いするなよ!?俺は別にお前が可哀想だとかこれぽっちも思ってないからな!気まぐれだからな!!ちょっと声が可愛いからって調子のるなよ!?」


 そのまま洞窟を抜け出そうと駆け出したとき、足にヌルヌルした物が絡みついて転b


【GAME OVER】

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