―――2

 ハッと我に返ると、ユエールが心配そうな顔で俺をのぞき込んでいる。


「大丈夫」


 とっさにそう言ったが死んだんだよね俺。パンパンはもう止めてください。


「俺がコレを虐める・・・倒す」


 それを聞いたユエールは神妙な顔をして俺の手を取り頭を下げた。

 逆にアエラは心配そうな顔をしていたが、俺が笑顔を見せるとアエラもしょうがないわねという表情を見せた。


「ありがとうタクヤ」


 それからユエールはまた明日来る事、そして必要な武器や道具も用意してくる事を伝えてくれて家を出て行った。


「ふぅ・・・」


 この家族にも恩返しがしたいし、とりあえず引き受けてみたが・・・死なない体、いや死ぬけど。とりあえず何度でも蘇れるとはいえ、化け物相手に戦うってのは若干怖いな・・・。

 大体喧嘩もろくにした事が無い俺が戦闘か、何とかなる事を祈るしかない。



――翌日


 俺はユエールに用意してもらった革製の防具、と言っても肘当てや膝当ての様な物、それから剣道の竹刀より少し短いぐらいの剣を装備して村はずれの森を歩いていた。

 家を出るとき、意識が戻ったミーニャに散々泣かれたが、無事に家に帰ることを約束して何とか送り出してもらった。


 ユエールは道中、戦いの最中に使いそうな言葉を教えてくれた。それから目につく物の名前を教えてくれる。

 どうやらミーニャにそうしろと言われたようだ。

 ありがたい。とにかくこの村、俺の出会った人はみな親切にしてくれる。

 ・・・神は置いといて、とにかく感謝している。昨日は不安で眠れなかったが、こんな俺でもどうにかして力になりたいと思うようになる。


 歩き続けて日が沈みかる頃、小川の近くでユエールは足を止めた。


「今日はここで泊まろう」


「了解」


 俺が薪を集めて、ユエールがテント・・・のような物を張る。

 あ~疲れた。

 この世界の移動は基本徒歩だ。現代人の俺はこんなに歩くことないし、足が痛くて仕方ない。

 その点この世界の住人であるユエールは全く疲れたそぶりが見えない。

 俺が足を揉んでいると、ユエールが腰の小さなバッグから緑色の液体が入った瓶を取り出し、俺に差し出してきた。


「痛い※※※治る※」


「おぉ、ありがとう」


「タクヤ弱いな」


 あーそうですよね。軟弱ものですよ。

 今や軟弱どころじゃなく、冗談でもなく豆腐の角に頭ぶつけても死ぬレベルですからね。


「私※※※※教えて※※※?」


「・・・何を?」


 わかってるけど。


「剣※使い方※※※※※」


「そうだなー、とにかくここを切り抜けられたらな」


「??」


 そりゃ騎士様に鍛えてもらえれば、この少ないスタミナも強化できるだろうし、HP1はどうしようも無いがいろいろ役立つだろう。

 だが・・・だが、そこまで本腰を入れると、あの神様の手助けになると思うと癪に障る。

 今回のは仕方ない。

 無駄な意地を張っている事は自分でもよーく分かっているが、納得いかない。


 森がすっかり闇に沈んだころ、ユエールが用意してくれた干し肉をかじっていると、森の奥から叫び声の様な物が聞こえてきた。

 ユエールは素早く剣を握ると、森の中へ駆け出した。


「おい、ちょ、まてよ!・・・・置いていかないで!!」


 嫌!暗い森で一人っきりとか生きていける気がしないんですけど!


 とにかく俺も剣を握って微かに見えるユエールの背中を追いかける。

 暗がりで足元もよく見えない中、ユエールはすごいスピードで進んでいく。追いかける俺は転ばないよう、いや下手すれば小枝が頬を掠めただけでも死にかねない。

 とにかく注意しながら追いかけると、崖の麓にある洞窟の入り口に着いた。


「ここか?」


 ユエールは唇に指を立てて静かにしろと言う。


「・・・・!!・・・・・!!!!」


 たしかに、この洞窟から声が聞こえる。

 だが変だな・・・なぜか聞き覚えがあるような声?言葉?なんだが。


 ユエールが手のひらを広げて何かをボソボソ言っている。

 すると、手のひらから淡い光を放つ玉が出てきて洞窟の中に入っていった。


「タクヤ行こう」


 魔法か・・・。この世界に来て初めて見たな。

 光の玉はユエールが進もうとする地面を照らしてくれる。

 俺達は静かに、足音も立てないように静かに進んでいく。


「・・・・め!!・・・・・・めぇ!!」


 聞こえてくる声が徐々に大きくなってくる。


 おいおいおい!

 まさか本当に薄い本的な展開が!?

 期待していた訳なくないですよ!?

 触手プレイとか!え、何それ。さすがファンタジー!!

 みてええええええええ!!


 俺の鼻息が荒くなった時、ユエールが手のひらを立てて止まれと合図する。

 光の玉を消し、道の角の先からオレンジ色の光が揺らめいていた。

 声は確実にその先から聞こえる。

 じめじめと淀んだ不快な空気。泥を踏むような音と、何かがうめくような声。

 足をユックリと前に出し角で聞き耳を立てる。


「いやぁぁぁぁ、もうだめぇぇぇぇぇ」


 あー、これはもう確定でしょう。

 連れ去られた娘さんが触手プレイとか王道中の王道。

 使い古されてもはや定番だが三次元で見れるとなれば話は別だ。さーてどんな触手が村娘をひんむいて・・・。


 のぞき込んだ俺の目に飛び込んできたのはこん棒のような物を持つ若い娘さん二人、そしてそのこん棒でグリグリと口のような穴を責められている・・・イソギンチャク(大)。


「あああああ!そんなに突っ込んじゃだめぇ!!」


 見てはいけない物を見てしまったような顔をするユエール。

 俺はきっとこの世の終わりのような顔をしているだろう。


「逆だろうがああああああああああああ!」


 鬼の形相で立ち上がる俺。

 こん棒を持っていた少女たちはビクッと体を震わせる。それでもハァハァと悶え続けるイソギンチャク(大)。

 俺は腰の剣を抜くと、明確な殺意を持ってイソギンチャクの口に突き立てた。


「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

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