―――2

――翌日


 目を開けると相変わらず見慣れない木製の天井があった。

 布団の中で体を伸ばし、体を起こすと目の前にはミーニャがいた。


「お、おぉ、おはよう」


 驚きながらそう言うと。ミーニャはニッコリしながら聞きなれない言葉を発する。


「オハヨウ・・・※※※※」


 そうか、これが朝の挨拶か。俺も真似ようとするがミーニャは首を振る。

 どうもこの世界の言葉は音の強弱に厳しいらしい。

 何度か繰り返しミーニャ先生から合格をもらうと、ミーニャは俺の額に手を当てた。

 


「痛い?」


 これは昨日聞いた言葉だ。


 俺は首を横に振って答えると、ミーニャはニッコリして新しい服を差し出してくれた。

 どうやら昨日来ていた俺の服は洗濯しているらしい。

 これまた・・・やはりファンタジー映画でよく見るような質素な服だ。ミーニャが出て行った後、借りた服を着てみると少し大きかった・・・。


 部屋を出ると食堂のようなところに出た。

 初めてこの家で、自分が寝ていた部屋以外の景色を見たがやはりどれも木製の家具や壁が目立つ。

 暖炉の近くでアエラが鍋で何かを作っていた。

 俺は覚えたての≪おはよう≫でアエラに挨拶してみた。

 アエラ優しく微笑んで、部屋の中央にある大きめのテーブルに俺を座らせた。

 テーブルには木製の皿とフォークとスプーンがきれいに並べられており、テーブルの中央にはブドウのような果物と少し黒っぽく丸いサッカーボール程の大きさのパンが盛られている。

 それを見て自分の腹が大きな音を立てた。

 そういえば昨日の朝・・・時間がどう流れたかよくわからないが、記憶上丸一日食べ物を口にしていない。


 ミーニャとアエラが俺の皿にマッシュルームのようなキノコのスープを盛ると、自分たちも席に付いて手を合わせた。


「※※※※※※※※」

「※※※※※※※※」


 いただきます的な何かか・・・。

 俺も二人と同じように手を合わせた。


 ミーニャは相変わらずニコニコしながら、ナイフでパンを切ってくれると俺に差し出す。


「※※※」


「ありがとう」


「※※※※※」


 俺のありがとうを聞いて、ミーニャが≪ありがとう≫を言ってくる。

 どうやらミーニャは俺に言葉を教える事が楽しくなったようだ。

 また何度か発音を繰り返して合格をもらう。食事の時ぐらいは勘弁してほしい・・・。


 スープはミルクの味がしてクリーミー、パンは食べ慣れている物と大きく違い、ボソボソと固く食べ辛いが味は悪くない。ブドウは・・・リンゴの味がした。

 やはり俺の常識が全て通用しないらしい。異世界だ・・・。


 食事中、二人は何やら会話していたが俺の名前以外はさっぱり聞き取れない。

 食事が終わり、紅茶のような飲み物を出されて飲んでいるとミーニャが俺の服を引っ張ってくる。

 付いて来いということか?


「タクヤ、※※※」


 俺は頷くと席から立ってミーニャと一緒に家を出た。


 外は青く、そして緑だった。

 草原が果てしなく広がり、空もどこまでも広がっていた。

 久々に感じた太陽の明かりが直接肌に当たり、目がくらむ。

 遠くに白い雪をかぶった山脈が広がり、まるでスイスのような風景だ。

 実際にスイスに行ったことはないけど、そんなイメージだ。


 家から少し離れたところには土がむき出しになった道があり、ミーニャは相変わらず俺の服を握ってその道をズンズン進んでいく。

 少し汗ばむぐらい歩いた頃、草原が盛り上がる丘の上に来ていた。

 ミーニャは足を止めると


「タクヤ!」


 そう言って空を指さした。


「ヒューーーーーン、ドーン」


 空を指さした指がゆっくりと地面に降りてドーンと言った。

 そしてミーニャは指さした地面に駆け寄って、そこに何かあるように手で揺すって見せた。


「※※※※※タクヤ※※※※」


 そのあと、そこに倒れているはずの物を引っ張るふりをして見せた。

 そうか、俺をここで拾って家に連れて行ってくれたのか。

 よく見るとミーニャの足元の草は先ほどの道に向かって何かを引きずったように草が少し倒れていた。


「ありがとう」


 ミーニャはニッコリする。

 この子は本当に表情がコロコロ変わる。

 言葉がわからなくても、人は表情を見れば何となく何を考えているか分かる。

 この子はそれが掴みやすい。

 大人になるとこの表情が失われて何を考えているか掴みづらくなる。

 俺はミーニャに最初に出会って本当にツイてた。


 俺たちはその場で座って、ミーニャに言葉を教えてもらいながら会話をした。

 ミーニャは7歳、アエラはミーニャの母親で二人はモーモー鳴く生き物を育てているらしい。

 父親はどこか遠い町に仕事で出ていて、俺の着ている服はその父親の物だそうだ。


 ミーニャは俺の事を知りたがっていた。

 ・・・この世界じゃない別の世界から来た事とか、まして熱々の紅茶がかかっただけで死ぬような体質の説明はゼスチャーだけだと無理だ。

 俺は年齢が18歳であること、両親は遠くにいる事、俺が住んでいるのは・・・空の上って事にしておいた。


 ミーニャは俺のことを神様か何かだと思っているようだ。

 神という言葉も教えてもらった・・・だがその神には良いイメージが無い。

 ちゃらんぽらんな神のせいで俺はここにいるわけで・・・。


「ハァァァァァ~」


 深いため息をつくと、ミーニャは心配そうな顔をした。


「大丈夫?」


「大丈夫、心配、ありがとう」


 ミーニャはまたニッコリした。が、そのニッコリはすぐに消えてしまう。

 俺の後ろから影が刺し、後ろを振り向くと大きな体をした、いかにも荒くれ者!という雰囲気の男が二人立っていた。


「※※※※※!?」


 ミーニャは俺の背後に隠れるようにして二人に何か話しかけている。


「※※※※?※※※※※!!!」


「※※※※※※※!」


 意味は分からない。だが、とても穏やかな会話には聞こえない。


「タクヤ、行こう!」


 ミーニャは俺の服を力いっぱい引っ張っている。

 だが、その先に一人の男が回り込み、気持ちの良くない笑顔を見せていた。


「※※※※!」


 ミーニャが何かを叫ぶと、回り込んでいた男がミーニャの頬を平手で殴った。

 体の小さなミーニャが軽く飛び、草原の上を二三回転がった。


 あーやっちゃいましたね。荒事は苦手だけど、これは許せないわ。事情は知らんが、小さな女の子殴るとかロリ・・・いやそうじゃないけど。

 紳士としては許せない行為ですよ。


「おいこら、おっさん」


「※※※※?」


 俺は拳を握ると、相手の顔面にストレートパンチを打ち込んだ。

 これで怯んだらミーニャを抱いてとにかく逃げよう。そう、考えていた。

 だが、怯ませるどころか俺のパンチは相手の顔面を的確に捉え、男は体が浮き上がりそのまま数メートルは軽く飛んで行った。


「・・・え?」


 俺は自分の拳を見つめていた。飛んで行った相手は決して軽い子供ではない。

 ガッチリとした体形の俺より背丈のある男だ。

 それが、本気のパンチじゃなく威嚇の攻撃であんなに吹っ飛ぶなんて・・・。


『あなたの攻撃力は9999になります、殺意を持って相手を攻撃すればこの世界のあらゆる生物は一撃で殺せます』


 神の言葉を思い出した。

 ・・・じゃぁ殺意を持ってやっていたらあのおっさんも死んでいたのか・・・。


 すぐ近くにいたもう一人の男が、何やら怒声を上げて腰に差してた剣を抜き俺に襲い掛かってくる。

 剣、映画とかゲームでしか見た事ねぇし!!

 ってかお盆で死ぬ男ですよ?剣とかオーバーキルにも程があるだろうが!

 突進してくる男の剣を何とか避け、タックルのつもりでおっさんの腰に飛びついた。

 すると先ほどのパンチのように、おっさんの腰から衝撃音がし、おっさんの体は地面にめり込んでいた。


 ・・・唖然としていた俺だったが、すぐに我に返ってミーニャの元に駆け寄った。


「ミーニャ!大丈夫!?」


 すでに赤くなり腫れ始めた頬を撫でてもミーニャはピクリともしない。

 まさかとは思ったが、ミーニャの口に耳を近づけると息はしている。

 俺はミーニャを抱きかかえるとミーニャの家に走った。


 しばらく走ると息が切れてくる。ミーニャは10歳でも小柄・・・だと思うがとても軽い、やっぱり神が言っていた通り、攻撃力や体力以外は今までの俺と同じだ。

 少しペースを落としながらも走り続け、ミーニャの家が見えてくる。

 家の外にはアエラが誰かと会話している。


「アエラ!助けて!」


 覚えたての単語でそう叫ぶと、疲れから足がもつれた。

 前のめりに倒れ、何とかミーニャだけでもと体を捻って背中からs


【GAME OVER】

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