2、こんな神様は間違っている
―――1
「お家に帰して!!」
そう叫ぶと、白く霞んだ景色の向こうに麻色の髪が見えた。
見覚えのある少女は、俺の額に手を当てて何か声を発している。
しっかりと目を開けて少女と目が合うと、少女は驚いた顔をしてすぐ後に泣き出してしまった。
「※※※※※※!!」
何を言っているのかは分からないが、少女は声を出して泣いている。
すぐそばにいた年上の女性もうっすらと涙を浮かべながら、俺に話しかけている。
まぁ驚くよな。死んだ人間が生き返ったんだから。
なんて言おう・・・それ以前にどう伝えよう。言葉がわからないんじゃ今起こった事を説明しようがない。
とにかく体を起こそうとすると、少女に上半身を押さえられ首を振った。
起きるなってことらしい。俺は素直に寝かされていたベッドの上で力を抜いた。
体に感覚が戻ると、どうやら紅茶がかかったらしい胸の処とお盆が当たったであろう額に冷たいタオルが当てられている。
「・・・ありがとう」
二人は涙を浮かべながら笑って見せた。
どうやら確かに、俺は死んだらしい。
だが復活してみるとその死因である傷・・・傷?
っていう程でも無いが、火傷や打撲のような痛みは全くなかった。
「※※※※」
「※※※※※※?※※※」
二人は何やら会話をしている。
とにかく名前だけでも聞き出そう。
俺は自分の顔を指さしながら
「タクヤ」
そう言った。
二人は首を傾げた。
「俺の名前はタクヤ、これ、タクヤ」
指で何度も自分の顔を指しながらそう言って、今度はどうぞと手を前に出した。
二人はしばらく考え込んで、少女がパッと明るい顔をして俺を指さし。
「タクヤ!」
そう言った。
そして自分の顔を指さし。
「ミーニャ」
俺は少女、ミーニャの顔を指さしミーニャと言って大きく頷いて見せた。
ミーニャは嬉しそうに微笑む。
どうやら頷くという行為はこの世界でも肯定を意味するらしい。
今度は年上の女性が自分の顔を指さして。
「アエラ」
俺は前に習ってアエラを指さしアエラと呼んだ。
二人は少し安心した表情を見せて、俺の傍に座った。
「タクヤ・・・※※※?」
ミーニャは俺の額を指さして何か言っている。
少し考え込んでから、自分の手の甲をツネって顔をしかめて見せた。
「※※※?」
あぁそうか、痛いか聞いているのか。
「痛くない」
俺はそう言いながら首を振って見せる。
頷きが肯定なら首振りが否定を意味するだろう。
「イタクナイ」
「そう、痛くない」
「※※※※」
ミーニャが発した言葉の意味は何となく分かる。≪痛くない≫をこっちの言葉で言っているんだろう。
俺はミーニャと同じ言葉を口にしてみた。だが、ミーニャは首を振る。
ミーニャがもう一度≪痛くない≫を発音する、どうやらイントネーションや発音方法に問題があるようだ・・・。
何度か繰り返すとミーニャが首を縦に振ってくれた。
「ミーニャ※※※※※※※」
アエラがミーニャに何か言うと、ミーニャは少し不満そうな表情を見せて、椅子から立ち上がると俺の顔を心配そうに見つめた。
「タクヤ※※※※※※※※※※※※」
そう言って手を振り、二人で部屋を出て行った。
バイバイのゼスチャーも同じか・・・。どうやら身振り手振りは前の世界と同じようだ。
うん、何とかなる気がしてきた。
だが問題は俺のHPが1以下って事だ。熱々の紅茶、もしくはお盆が直撃という衝撃に匹敵するダメージを食らうと死ぬ。
・・・それってどの程度だ?すごくあやふやなイメージしか掴めないが、とにかくケガや衝撃に気を付けて生きるしかないだろう。
・・・疲れた。色々ありすぎて頭が痛い。
俺はそのまま布団に体を沈めて目をつぶった。
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