サンタクロースの贈り物

@yamabiko458

第1話

「ただいま」「お帰り、久美ちゃん。おやつが冷蔵庫にあるから食べなさい。」ここは、東京都日野市にある「ふるさと学園」という児童養護施設。 西村久美は児童養護施設に預けられた小学四年生の女の子。

久美は最近元気がない。その理由はサンタクロースだった。小学二年生のころまでは、サンタクロースの存在を信じていた。しかし、三年生の十二月にサンタクロースの正体を知ってしまった。その正体は近所の八百屋のおじさんだった。久美はがっかりした。また今年もクリスマスイブがやってくる。明日に迫ったクリスマスイブ。もちろんプレゼントはもらって嬉しくないはずなどないけれど、毎年サンタクロースにお願いしていたことがあったのだが、今年からお願いをするのはやめようと決めていたから、そのことがあるので、元気がなかった。この施設には五人の児童がいる。みんなそれぞれ、親から見放された子供達ばかりだった。中学を卒業すると、住み込みで働くようになり、給料の少しを仕送りしてくれる卒業生が多くいるので、施設の運営にはかなりの余裕があった。この施設を運営しているのは、西村聡と、その妻であるめぐみの二人だけだ。ここで児童五人のメンバーを紹介しておこう。


年上の順に、


西村久美、小学四年生。

西村利夫、小学三年生。

西村つばさ、小学三年生。

西村美子、小学一年生。

西村裕子、一歳。


みんな西村という姓である。その理由は簡単で、西村夫婦が養子にしたからなのだ。なので今までの卒業生はみんな兄弟でもあり、西村夫婦の子供でもある。夕食の時間につばさが、明日のサンタクロースの話を始めた。みんなはサンタクロースのプレゼントを期待している。「明日、サンタさんはどんなおもちゃを持ってきてくれるのかなぁ」

「美子お人形がいいなぁ」久美以外の子供達は、まだサンタクロースの存在を信じている。翌日、学校に行く途中で八百屋のおじさんに声をかけられた。今日、サンタに化けるおじさんだ。学校に行くには、この八百屋さんの前を通っていくのが近いので、みんなで一緒に登校している。おじさんに「ちょっと久美ちゃん、こっちおいで」と声をかけられ、一人おじさんの前にいくと、他の子たちは先に学校に行ってしまった。「なんですか?」「今日のサンタクロースのプレゼントは久美ちゃんの大好きなものだよ」「ありがとうございます」「私じゃない、サンタさんからのプレゼントさ」こんな会話が少し続き、学校があるからと挨拶し、登校した。


久美は勉強にも身が入らないし、何をやっても失敗ばかりの一日を過ごした。

そして下校していつもの学園に戻ってきた。久美がこの学園の年長なので帰ってくるのは最後で、いつもみんな「お帰り」といってくれる。しかし今日に限っては、その言葉がなかった。めぐみが「お帰りなさい、久美ちゃんにお客様がきているわよ」そう言った。めぐみの横には四十歳位の女性が立っていた。「久美、お母さんだよ。いままでごめんね。」そう言って涙を流していた。久美は何ごともなかったかのように、部屋に入り、布団をかぶって涙を流してしまった。


久美は小さなころからこの施設に預けられ、毎年サンタクロースが来るたびに、みんなには内緒で、そっとサンタクロースに同じお願いしていた。「サンタさん、来年来る時にはお母さんをプレゼントしてね。お願い。」その言葉に八百屋のおじさんが、久美のために毎年いろいろなところを探しまわって、やっと今年、母親の居所を見つけ、今日久美の前に連れてきたということだった。母親の名前は「大村まさこ」という。まさこは、「先生、やっぱ久美は怒ってるのでしょうか。私たち親に捨てられてしまったのですから」「そうではありませんよ、もう少し時間をください。近くのホテルを予約してありますので、そちらで少しお待ち願えないでしょうか」


「久美ちゃん、ご飯にしましょう。もうあの人は近くのホテルに帰って行ったわ」久美は目を腫らして出てきた。そのとき他の子供達はみんな「おめでとう。お母さんに会えたんだね」そう言ってくれた。


久美は最初に言われた時には驚いたが、すぐに母親の胸に泣いて抱きつきたかった。しかし、みんなも同じ境遇にいるのに、一人だけいい思いはできない、まして私はこのふるさと学園の年長だ。そう思った。みんなが、おめでとうと言ってくれると本当にうれしいのだが、自分ひとりいいのだろうか?そんな気持ちになる。


いつものようにサンタクロースがやってきた。子供達はもらったプレゼントを開け、お礼を言った。久美へのプレゼントはホテルの部屋番号ガ書いてある紙切れだった。


サンタは「久美ちゃん、私は毎年同じ願い事を聞くたびに、何とか母親を探してあげよう。そう考えたんだよ。やっとその願い事がかなった。本当におめでとう」そう言った。めぐみは、みんなが遊んでいる中、別の部屋に久美を連れていき、今までの全てを話してあげた。久美が小さなころ、久美の両親は離婚して、久美は父親の籍に入り、生活をはじめた。しかし、父親が事故で死んでから、そのまま児童養護施設に行く事になってしまった。母親がその後調べて探し回ったが、行方は全くわからないまま現在に至ったということだった。


「久美ちゃん、お母さんに会ってらっしゃい。みんなも喜んでいるのよ」「私だけ、いいのでしょうか。」「大丈夫、みんな久美ちゃんが幸せになるのだったら、自分たちもうれしいと言ってたわよ」「サンタのおじさん、ありがとう。」そう言って涙を流し、おじさんに抱きついた。サンタは「よかったね。やっと見つけたサンタからのプレゼントだ。」「ありがとう」そう言って久美はホテルまで出かけていきました。部屋番号を確かめて、ノックをすると、「はい」という返事と共にドアが開き、母親が出てきた。久美は「おかあさ~ん」と言って泣きながら抱きついた。「ごめんね久美、もうお母さん、二度と久美をはなさないよ」二人はいつまでもきつく抱きしめてはなれなかった。

小さなころから、サンタクロースにお願いしていたプレゼント。今年はそのお願いも出来ないと思っていた。毎年お願いされたサンタクロースは必至で母親を探し、やっと見つけた久美へのプレゼントだった。久美には最高のプレゼントだった。

その後、久美は毎年クリスマスイブが来ると、ふるさと学園に来て、必ずサンタクロースに、みんなに内緒でお願いごとをしていた。「八百屋のサンタさん、お願いがあります。是非みんなのお母さんを探して下さい。」


サンタは笑顔で「おじさんも少しでもみんなが幸せになれるように頑張るよ」


幼い時に離れ離れになってしまった久美は無事に母親のところに戻る事ができた。利夫も、つばさも、美子も、まだ幼くて分からない裕子も、久美の幸せを心から歓迎しているのだと思います。数年後、裕子は里親に引き取られ、美子も無事里親が見つかって、このふるさと学園を卒業していきました。でも、毎年十二月の二十四日になると、みんなが揃ってふるさと学園に戻って来ます。みんなは「ただいま~」と元気にあいさつし、「学園に残った人たちも「お帰り~」の声で返事をします。サンタのおじさんは、今では、サンタのお爺さんになってしまいましたが、まだまだ元気。毎年子供達にたくさんのプレゼントを持って学園にやって来ます。


十二月二十四日また、ふるさと学園は今日も元気な声が聞こえてきます。何かの理由で捨てられてしまった子供達、その子供たちの幸せを願い、育てている夫婦、その活動を陰で支えてくれている八百屋のおじさん、いやお爺さん。みんな笑顔で、クリスマスイブを楽しんでいました。


また、来年も、再来年もこのクリスマスイブは続くのでしょう。


                               おわり


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