第2話曇りときどき麦茶②

 机に頬杖をつきながら、去年の出来事に思いを馳せていると、本日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。皆、一斉に帰り支度を始め、さっきまで静かだった教室も少し騒がしくなる。俺も荷物をまとめ、帰り支度をする。とは言え、すぐに帰宅するのではなく、教室を出て向かうのは三階の図書室だ。授業が終わってすぐに帰ろうとすると、電車通学の俺はぎゅうぎゅ詰めの電車に乗るはめになる。それを三年生となり部活動も引退した最近知ったのだ。そのため、放課後を図書室で過ごし、電車が空いていそうな時間を見計らって帰宅するようになった。

 図書室に入り、窓側の席に腰掛ける。俺の通う学校はおおよそアルファベットのHの形をしており、Hの上の空白のところに正門と前庭、下の空白ところに校庭が存在する。そして俺がいまいる図書室はHの文字の左上のところに位置し、部屋の窓からは、下校していく生徒の様子がとてもよく見えるのだ。そのことに気がついてから、図書室のこの窓側の席は俺の特等席になった。なぜ特等席なのかと言うと、密かに思いを寄せているクラスメートの森山さんを思う存分観察することができるからだ。

 森山さんが気になりだしたのは、二年生のときだ。体育の授業の際、俺の学校では2クラス合同で行う。二年生のとき、俺は五組、森山さんは六組だった。体育の授業中、彼女は友達と楽しそうに話したり、真剣に競技に取り組んだりしていた。何か特別な出来事があったわけでもないけれど、気がつくと森山さんを目で追っている自分がいた。

 だから今年の春のクラス替えで、彼女と同じクラスになれたと知ったときは、本当に嬉しかった。天にも昇る気持ちとはこのことか、と思ったほどだ。けれど、自分が思っている以上にへたれだった俺は、クラスメートになって既に二ヶ月が経っているというのに、未だに彼女と会話らしい会話もできないでいる。そんな自分に情けなさを感じながらも、今日も図書室の窓から彼女が帰るところを待っている。

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