麦茶の魔法
@tetra1211
第1話曇りときどき麦茶①
俺には麦茶を自在に操る能力がある。
こんなこと話して、一体何人の人が信じてくれるだろう。でも、実際そうなんだ。
季節は梅雨。今の季節では、俺の麦茶を操る能力が活躍することもあまりない。そもそもそんなに活躍することなどあるのだろうかと思うだろうが、去年の夏は2人に感謝された。
一人は部活動で学校の外を走り込みしていた中学生だ。熱中症になりかけ、道ばたでフラフラしているところに俺が通りがかったのだ。俺の住む町は、町と言うよりも村と言った方が正確ではないかと思うほどの田舎で、自動販売機を探すのも容易ではない。俺は少年に見えないように能力を使って、日頃持ち歩いている紙コップに麦茶を注いだ。その麦茶を飲ませ、日陰で看病してやったときは、それはそれは感謝された。
二人目もこれまた道ばたで遭遇した怪しいアラブ人で、同じく熱中症になりかけていた。彼いわく、日本の夏は湿度が高く、母国の暑さとは比べものにならないほどしんどいらしい。英語での会話だったので、すべては理解できなかったが、おおよそ、そのようなことを言っていたはずだ。そのアラブ人にも麦茶を飲ませたのだが、その味にとても感動していた。なんて名前の飲み物だと聞かれたので「MUGI TEA」と答えたが、この表現で正しかったのか未だに謎である。麦茶を英語で言うことなど、きっとこれが最初で最後だろう。帰り際に、感謝の言葉と500と書いてある一枚の紙幣を受け取った。家に帰って調べてみたのだが、その紙幣はディルハムという通貨で、モロッコとアラブ首長国連邦で使用されているものだった。今の為替レートだと、一万五千円ほどの価値があるらしい。とても魅力的な臨時収入だと一瞬は喜んだが、なんの変哲もない高校生がこんな珍しい紙幣を一枚だけ両替するなんてあやしくないだろうか、そもそもこの紙幣は本物なのか、こんな田舎にアラブ人がいただなんて何か事件の匂いがしないでもない、なんて考え始めると怖くなり、未だに両替できずに自宅の勉強机にしまってある。何か、緊急に現金が必要になったとき、勇気を出して両替することとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます