第28話 -奇病5-


 第28話 -奇病5-


―――――――――――――――――――――――――――――


「二人とも、僕についてきて」

「「…………」」


 ――ザバッ、ザバッ


 僕の使い魔となった、ゾンビ水谷とゾンビ優子が無言のまま湯船で立ち上がった。


『装備5換装』


 僕は、洗い場で『装備5』のスーツに換装して、『ハーレム』から『ロッジ』へ移動した。


 いつものテーブルのいつもの席に反対向きに座る。

 裸のゾンビ水谷とゾンビ優子が僕の前に無言で並んだ。

 二人の身体は、湯船に浸かっていたため、濡れている。


『ロッジ』


 僕は、『ロッジ』の扉を一瞬だけ『召喚』して自動清掃機能を発動させた。

 二人の身体から水滴などが除去され、一瞬で乾いた状態となる。


『フェリア召喚』『フェリス召喚』『ルート・ドライアード召喚』『ルート・ニンフ召喚』


 僕は、使い魔たちを召喚した。


「お呼びですか? ご主人様」

「フェリア、みんなでトロール討伐に行ってきてくれ」

「ハッ! 畏まりました」


『密談部屋3』


 僕は、壁際に『密談部屋3』の扉を召喚した。


 フェリアを先頭に使い魔たちが『密談部屋3』の扉へ入って行った。

 扉が閉められる。


 それを確認して、僕は長椅子から立ち上がった。

 部屋の隅に脱ぎ捨ててあった水谷と優子の服を拾っていく。

 脱いでから数時間が経過しているので、既に暖かさは感じられない。

 体温が残った水谷の下着とかを手にしたら、興奮してしまったかもしれないが、ゾンビ化したとはいえ、水谷と優子が側に居るため、下着を手に取るという行為自体バツが悪かった。


 拾い集めた二人の服をテーブルの上に置いた。


【工房】


 それらを一つずつ手にとって、【工房】のスキルで作成していく。

 二人のセーターやコートなどの上着には、二つの穴が空いていて、血痕が付着していた。

 そういった部分は、修復したイメージで作成する。


 ――ガチャ


 僕が二人の服を【工房】のスキルを使って作成していると『密談部屋3』の扉が開いて、フェリアたちが戻ってきた。


「ご主人様、トロール討伐を完了いたしました」

「ありがとう」


『フェリア帰還』『ルート・ドライアード帰還』『ルート・ニンフ帰還』


 水谷と優子とフェリス以外の使い魔を帰還させた。

 ついでに『密談部屋3』の扉も『アイテムストレージ』へ戻す。


「フェリス、向こうのテーブルで二人に【魔術刻印】を刻んできて」

「分かりましたわ。刻印の種類はどういたしますか?」

「うーん、どうしようかな……?」


 僕は、二人に戦闘用の【魔術刻印】を刻むかどうか悩んだ。

 異世界ならともかく、この世界では戦闘を行う機会はあまりないだろう。

 それどころか、戦闘を行うと問題になるかもしれない。

 しかし、この世界にもゾンビが出現した以上、戦闘が起きる可能性はある。

 ゾンビ程度なら、素手でも倒せると思うが、数が多いと厄介だ。


「念のため、『組合』で売っているものを全て刻印しておいて。他には、【装備】の刻印を8個と【メディテーション】を刻んで。【サモン】は……必要ないかな……」

「【ハイ・メディテーション】はどうなさいますの?」

「【ハイ・メディテーション】も必要ないかな」


 魔力――MP――を急激に回復する代わりに体力――HP――が大幅に減る【ハイ・メディテーション】は、魔法をあまり使わないと思われるこの世界では必要ないだろう。

『回復の指輪』とセットの魔術だが、【ハイ・メディテーション】が発動しなくても『回復の指輪』の効果が無駄になるということはない。


「畏まりましたわ」

「じゃあ、二人はフェリスについていって」

「「はい……」」


 ゾンビ水谷とゾンビ優子が返事をした。

 おそらく、フェリアたちをトロール討伐に行かせたことで経験値を得て知能が上がったのだろう。


 僕は、【工房】のスキルを使って二人の服を作成する作業に戻った――。


 ◇ ◇ ◇


 僕は、【工房】で『フェリアのメイド服』など、必要な装備を作成した。

 水谷と優子は、直属の使い魔なので、装備の変更などを僕の意志で直接行うことが可能だ。


 ◇ ◇ ◇


『水谷の装備1』


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 服:涼子のセーター

 腰:魔布のスカート

 腕輪:涼子のブレスレット

 足:竜革のブーツ

 下着:魔布の青ブラジャー

 下着:魔布の青パンティー

 指輪:回復の指輪


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『水谷の装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 服:涼子のセーター

 腰:魔布のスカート

 腕輪:涼子のブレスレット

 足:竜革のブーツ

 背中:魔布のコート

 下着:魔布の青ブラジャー

 下着:魔布の青パンティー

 指輪:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『水谷の装備6』


―――――――――――――――――――――――――――――


 頭:メイドカチューシャ

 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:竜革のブーツ+5

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー

 指輪:回復の指輪


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 ◇ ◇ ◇


『優子の装備1』


―――――――――――――――――――――――――――――


 服:優子のセーター

 腰:魔布の黒ジーンズ

 足:竜革のパンプス

 下着:魔布の青ブラジャー

 下着:魔布の青パンティー

 指輪:回復の指輪


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『優子の装備2』


―――――――――――――――――――――――――――――


 服:優子のセーター

 腰:魔布の黒ジーンズ

 足:竜革のパンプス

 背中:魔布のハーフコート

 下着:魔布の青ブラジャー

 下着:魔布の青パンティー

 指輪:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


『優子の装備6』


―――――――――――――――――――――――――――――


 頭:メイドカチューシャ

 額:グレート・ヘルムのサークレット

 首:黒のチョーカー

 服:フェリアのメイド服

 腕輪:フェリアの腕輪

 脚:黒のストッキング&ガーターベルト

 足:竜革のブーツ+5

 下着:魔布の黒ブラジャー

 下着:魔布の黒Tバックパンティー

 指輪:回復の指輪


―――――――――――――――――――――――――――――


 ◇ ◇ ◇


 フェリスに【魔術刻印】を施された二人に【装備】を設定した。


『水谷の装備2換装』『優子の装備2換装』


 二人が白い光に包まれて、昼や夕方に見たときと同じ服装になった――。


 水谷は、シックなグレーのセーターに紺色のスカート――サーキュラー・スカートというタイプだろうか?――と膝下までのロングブーツ、防寒着にロングコートを着ている。また、装飾品として手首にブレスレットをしていた。


 優子は、青っぽいセーターに黒いジーンズと紺色のパンプス、ハーフコートを着ている。

 僕が優子にプレゼントした指輪は、『回復の指輪』と同じデザインなので、作成はしなかった。優子は、その指輪を左手の中指にしていたが、『回復の指輪』は左手の薬指に装備されている。指輪の装備箇所は、特に指定しないと、最初の一つは左手の薬指に装備されるのだ。


 二人の服は、保存箱を作成して、その中に入れて『アイテムストレージ』へ戻した。

 おそらく、二度と取り出されることはないだろう……。


 僕は、いつもの席に反対向きに座っている。

 ゾンビ化した水谷と優子は、僕の正面に無言で立っていた。


「フェリス、ありがとう」

「そんな、御礼なんて必要ありませんわ」


『フェリス帰還』


 フェリスを帰還させた。


 僕は、立ち上がり、水谷の前に移動する。


「君の名前は、水谷涼子だ。僕は、君のことを『涼子姉ぇ』と呼ぶね」

「はい。ご主人様……」

「僕のことは、『ユーイチ』と呼んで」

「はい。ユーイチ……」

「それから、絶対に人に噛みついてゾンビ化しないこと」

「分かりました……」

「涼子姉ぇ、笑って」


 ゾンビ水谷がニヤリとした。


『ちょっと、不気味だな……』


「微笑んで」


 ゾンビ水谷が微笑を浮かべる。


「基本的には、そういう表情で居てね」

「はい……」


 次に優子の前に移動した。


「君の名前は、伊藤優子だ。僕の妹だよ。優子って呼ぶからな」

「はい。ご主人様……」

「僕のことは、『お兄ちゃん』と呼んで」

「はい。お兄ちゃん……」

「絶対に人に噛みついてゾンビ化しないこと」

「分かりました……」

「優子、微笑んで」


 ゾンビ優子が微笑を浮かべる。


『ちょっと優子のキャラじゃないな……』


「普通の表情をして」


 無表情に戻った。


『まだ、こっちのほうが優子っぽいか……』


 怒った顔のほうが優子らしい気もするが、さすがにずっと怒った顔なのはトラブルを招くだろう。


 僕は、二人を帰還させる。


『水谷帰還』『優子帰還』


 二人が白い光に包まれて消え去った――。


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