第27話 -奇病4-
第27話 -奇病4-
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――チャポン……
僕は、優子と水谷の3人で『ハーレム』の大浴場の湯船に入っていた。
「はぁ……良かったわよ。ユーイチ。最高だったわ」
「でも、ニンフたちのほうが気持ちよかったでしょ?」
「そんなことないわ。ニンフたちのほうが刺激は強いけれど、こんなに満たされた気分にはならない。あなたの精がお腹の中にあるのが分かるわ……。とっても幸せな気分よ」
「お兄ちゃん。あたしもすっごく気持ち良かったわよ」
「ユーイチが初めての相手だなんて、羨ましいわ」
「僕は、複雑な気分だけどね……」
「えーっ!? 何でよ?」
「そりゃ、お前。兄妹でこんなこと……」
「ユーイチの体は、人間のものではないのだから、別にいいじゃない」
「そうは言ってもなぁ……」
あれから、僕たちは『ハーレム』の洗い場にマットを敷いて、3人で3時間近くまぐわった。
時刻は、夕方の7時を回っている。
「二人は、何時頃、噛まれたの?」
『ロッジ』に入った直後、二人の肩近くの腕には、まるで吸血鬼に噛まれたような二つの痕があり、少し血が滲んでいたが、『女神の秘薬』を飲んだことで、今は傷痕も残っていなかった。
「三時半頃だったと思うわ」
水谷がそう答えた。
「もうすぐ、4時間か……」
「感染者は、何時間くらいでゾンビになるの?」
「分からない……。異世界でも、そんなケースには立ち会っていないから……」
「お兄ちゃん、あたし怖い……」
優子が僕の腕に抱きついてきた。
少し震えている。本当に怖いのだろう。
『どうして僕は、向こうの世界で、もっとゾンビについて研究しておかなかったんだ……』
僕は、俯いて自分の無力さを呪った。
「ユーイチ、自分を責めないで……」
「でも……」
「あたしは、これで良かったと思っているの」
「涼子さん……どうして……?」
優子が水谷に真意を問うた。
「確かに自分が自分で無くなるかもしれないのは恐ろしいわ。でも、ゾンビに噛まれなければ、ユーイチと結ばれて、ユーイチの使い魔になることは無かったでしょう? 優子ちゃんもそうじゃなくて?」
「それは、そうですけど……。お兄ちゃん、あたしがゾンビになっても可愛がってくれる?」
「可愛がるって……?」
「いつも側に居て、たまには、さっきみたいに抱いてくれるかってことよ。もう! こんなこと言わせないでよ!?」
『いや、それを察するのは難しいだろ……』
僕は、そう思ったが、優子が爆発しそうなので口に出すのは止めた。
「ああ、お前は僕の使い魔になるんだからな」
「ユーイチは、使い魔になったあたしを秀雄に預けるつもりでしょ?」
「え? いや何も考えてなかったけど、確かにそのほうがいいかもね……」
水谷と僕は、表向き高校の同級生という間柄以外の関係がなかった。
ゾンビになった水谷を彼女の両親にどう説明したらいいのか分からない。
――いっそ、この事件に巻き込まれて行方不明になったということにしたほうがいいのではないだろうか?
しかし、秀雄には、彼女たちを救出すると言ってあるので、誤魔化すことが難しいだろう。
死体も無いというのは不自然だ。
ドライアードたちが狩っているゾンビも死ぬと人間だった頃の死体が残るので、全員の身元が判明するはずだった。
「あたしは、あなたの使い魔になったら、永遠に生き続けるのよね?」
「永遠ってわけじゃないよ。僕が死んだら一緒に死ぬみたいだし」
正確には、永遠に帰還された状態になるということらしい。
「ユーイチが死ぬ可能性は、極めて低いわけだから、普通の人間よりはずっと長生きするでしょ?」
「まぁ、それはそうなる可能性が高いと思うけど……」
「だったら、ゾンビになったあたしを秀雄に預けて。秀雄があたしをどうするか分からないけれど、彼が望むなら寿命が尽きるまで彼に仕えるわ。そして、秀雄が死んだら、あなたの奴隷としてあたしを使って……」
水谷が凄いことを言い出した。
自分がゾンビ化したら、秀雄が死ぬまでは彼に仕えて、その後、僕の使い魔に復帰するというのだ。
「いいの?」
「ええ……。でも、秀雄は迷惑かしら……。子供を作ることもできない、感情も希薄な女を側に置いておくのは……」
「普通の男なら、老化しない綺麗な女性に一生傅かれるというのは夢だけどね……」
「ふふっ、でも秀雄の結婚の邪魔にはなりたくないから、彼と相談してあたしのことは決めて頂戴」
水谷は、自分の運命を受け入れているようだ。
――元々、冷静でリアリストなところがあったが、自分のことなのにこうも割り切れるものなのだろうか?
「涼子姉ぇは、怖くないの?」
「ええ、あなたのものになるのですもの……」
次の瞬間、水谷が白い光に包まれた――。
――ザバッ!
水谷が湯船で立ち上がる。
「あああぁぁーーーーっ!!」
――プシャーッ!
水谷が叫び声を上げて仰け反り、股間から生暖かいものを吹いた。
「きゃっ!」
僕と優子にそれが降りかかる。
――ジョーッ、ジョロジョロジョロジョロ……
そのまま、水谷が失禁して彼女の小便が僕に掛かる。
『……ゾンビ化した!? でも、どうして……』
【戦闘モード】
【サモン6】
僕は、【戦闘モード】を起動して空いている召喚魔法の【魔術刻印】を起動した。
周囲の動きがスローモーションになる。
水谷の股間には、陰毛が無くなっていた。
その水谷をロックオンして、『テイム!』と念じる。
次の瞬間、水谷は白い光に包まれて消え去った――。
【戦闘モード】を解除する。
「涼子さんっ!」
消えた水谷を見て優子がそう叫んだ。
アンモニア臭がする。
ゾンビ化した水谷に尿を頭から掛けられたためだ。
『ハーレム』
僕は、『ハーレム』の扉を一瞬だけ戻して、自動清掃機能を発動した。
「お兄ちゃん! 涼子さん、消えちゃったよ!?」
「ああ、僕が召喚魔法で使い魔にしたからな」
「じゃあ、お兄ちゃんが命じればいつでも呼び出せるの?」
「その通りだ」
「じゃあ、召喚してよ」
「いや、お前を使い魔にしてからにしよう」
「どうして?」
「もしかすると、ゾンビ化したお前に攻撃するかもしれないからな」
「……お兄ちゃ……」
何か言いかけた優子が白い光に包まれた。
――ザバッ!
「ぃいぁあああーーーーっ!!」
――プシャーッ!
優子が湯船の中で立ち上がって、仰け反りながら潮を吹いた。
『なるほど……僕の精液が
――ジョーッ、ジョロジョロジョロジョロ……
ゾンビ化した優子は、水谷と同じように失禁した。
僕の頭に優子の小便が降りかかる。
【サモン7】
『テイム!』
優子は、白い光に包まれて消え去った。
『ハーレム』
僕は、再度『ハーレム』の扉を一瞬だけ戻して、自動清掃機能を発動した。
『水谷召喚』『優子召喚』
湯船の中に水谷と優子を召喚した。
「…………」
「…………」
二人は、無言のまま湯船の中で立っている。
「座って」
――ザバッ、ザバッ
二人が湯船の中で正座をした。
『座る=正座なのか……』
「優子……?」
「…………」
名前を呼んでも反応がない。
自分の名前を認識していないようだ。
「――――っ!?」
僕は、涙が出そうになった。
あの勝ち気で快活だった優子がこんなロボットのようになってしまうなんて……。
『ある日突然、妹が交通事故で植物状態になってしまったら、こんな気分になるのかもしれない……』
――ザバッ!
僕は、頭を振って立ち上がり、やるべきことを始めることにした――。
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