第20話 -起業11-


 第20話 -起業11-


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「ふぅーっ……」


 僕は、『夢魔の館』の地下にある大浴場で息を吐く。


 あれから、僕が大浴場の湯船でくつろいでいると、レイコとサクラコが娼婦希望者を連れてやって来た。

 そして、湯船の中で11名の娼婦希望者が自己紹介をした。

 10代の女の子が数人居たので、どうしようかと思ったのだが、既に刻印を刻んであったし、追い返すわけにもいかないので、本人の希望をしっかりと確認した上で娼婦にすることにした。


 その後、娼婦希望者たちとマットでまぐわった後、レイコに連なる使い魔にした。

 そして、フェリア、フェリス、ルート・ドライアード、ルート・ニンフには、トロール討伐に行かせた。

 ここのところ、毎日のようにトロール討伐に行ってもらっている。

 魔法通貨を稼げるうちに稼いでおこうという意図と、使い魔も含めて少しでも強くなっておいたほうがいいと判断したのだ。


 娼婦たちは、入れ替わり立ち替わりやってきて、僕にマットプレイをしてきた。

 特にレイコは、僕が元の世界に帰ったことを知っていたため、もう会えないかもしれないと思っていたようで、熱烈に求めて来た。レイコは、僕よりも身体が大きいので、迫られると迫力があって、ちょっと恐かった……。


 フェリアに【16:00】時頃になったら知らせるように言付けておいたので、元の世界の時間では、朝の7時前にマットから湯船に移ったのだ。


「ぬしさまぁ……」

「うぷっ……」


 レイコが抱きついてきた。


「ああっ……良かった……」


 レイコは、本来なら午後から上の控室で待機している時間だったらしいが、僕の側に居座りつづけた。

 まだ、時間はだいぶあるので、レイコがしたいようにさせておいた――。


 ◇ ◇ ◇


 10分くらいが経過した頃、僕はレイコの抱擁から逃れた。


「ぷはっ……」

「あんっ……」


 この体は呼吸の必要がないため、息を止めていても苦しくはないが、何となく普通の人間だった頃の慣習からか、長時間息を止めていると息苦しく感じてしまうのだ。


「レイコ、いい加減に落ち着いて……」

「申し訳ございません。主様ぬしさまにまた逢えて舞い上がってしまいました」

「近々、戻ると言ってただろう?」

「はい、その言葉を疑っていたわけではございませぬ。しかし、遠く離れた世界へ帰ってしまわれたと聞いたので……」

「最悪、帰還させてから再召喚すれば会うことは可能だったと思うよ」

「なるほど、我らは主様の使い魔ですから、永遠に逢えなくなることはないのですね」

「うん。僕がレイコを忘れて放置しない限りはね」

「ヒイィーッ!」


 レイコが悲鳴を上げてビクビクと痙攣した。


「何してるの……?」

「ハァハァハァハァ……主様に捨てられたところを想像してしまいました……」


 荒い息を吐きながら、上気した顔でレイコが答えた。


『相変わらず、ドMだな……』


「心配しなくても、レイコを忘れるのは難しいし、会いたくなくなることもないと思うよ。そのうち、面倒になって、ここに足を運ぶ頻度が落ちるくらいじゃないかな」

「……次は、いつ来てくださいますか?」

「月に一度は、顔を出すつもりだよ。じゃないと、娼婦希望者が増えすぎちゃうでしょ?」

「ハッ! お待ちしております!」


 レイコは、湯船の中で背筋を伸ばし膝立ちの姿勢になってから、そう答えた。

 こういうところは、女騎士っぽい。


「あっ、そうだ……」


『トレード』


 僕は、レイコに1000万ゴールドを渡す。


「なっ、主様! いくらなんでも、こんな大金は受け取れませぬ。前回、戴いた資金もまだ残っておりますゆえ……」

「暫く来れないかもしれないから、念のため取っておいて」

「……分かりました」

「必要なことがあれば、遠慮無く使って」

「畏まりました」


 レイコは、微かに震えているようだ。顔を見ると、うっとりとした表情をしている。よく分からないが、何かが彼女の琴線に触れたようだ。


「ご主人さま、レイコさんばっかりじゃなくて、あたし達の相手もしてくださいよ。ほら、アズサも……」


 湯船の中をサユリとアズサが近づいてきた。


「あまり時間がないんだよ……。それにさっきマットで相手はしたけど……?」

「そうですけど、短かったし……たまには、お姉さんとお話してくださいよ」


 二人に話を振ってみる。


「じゃあ、娼婦の仕事はどう? 辛くない?」

「お姉さんは、楽しんでるわよぉ。ご主人様に逢えない寂しさもまぎらうからね」


 サユリは、外見年齢的には僕の年齢と同じくらいだし、人懐っこい性格なので話しやすい。


「アズサはどう?」

「……もう、慣れました……ご主人様のためだと思えば……辛くはないです……」


 アズサが辿々しい口調でそう言った。

 アズサは、10代半ばくらいの外見だけど、実年齢は僕よりも少し上のはずだ。


 そうやって、暫くの間、他の使い魔たちとも会話をして過ごした――。


 ◇ ◇ ◇


 多くの使い魔たちと言葉を交わしたので、思ったよりも時間がかかってしまった。

 水谷との約束の時間に間に合いそうにない。

 まぁ、少々遅れても問題はないだろう。


『装備5換装』


 僕は、湯船から出てスーツ姿になった。

 大浴場から食堂に出る。

 裏口の扉の前に移動した。


 振り返ってみると、使い魔たちが裸でついてきている。


「みんな服を着て」

「「はいっ」」


 100人くらいの人間が装備を換装したので食堂が白い光で溢れる。


『フェリス帰還』『ルート・ドライアード帰還』『ルート・ニンフ帰還』


 とりあえず、フェリスたちを帰還させた。


「じゃあ、またね」

「主様、お待ちしております!」

「ご主人さま、またね」

「……ご主人様……さようなら……」

「「いってらっしゃいませー!」」


 使い魔たちに見送られて、僕は『夢魔の館』を後にした。

 フェリアが入って扉を閉めたのを確認してから、『夢魔の館・裏口』の扉を『アイテムストレージ』へ戻した。


「フェリア」

「ハッ!」


 メイド服姿のフェリアが『倉庫』の扉を召喚した。

 扉を開けて、『ロッジ』に戻る。


「あっ、ユーイチ! 遅いじゃない!」

「ごめん、涼子姉ぇ」

「まぁまぁ、急ぐわけでもないだろ」

「8時って言ってたのに10分以上も遅刻したのよ。心配するじゃない」

「使い魔たちが離してくれなくって……」

「ふーん……」


 水谷がジト目で僕を見た。


「じゃあ、朝食にしよう」


『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』『サンドイッチセット』

『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』


 テーブルの向こう側に2つづつ、こちらにも2つづつ【料理】スキルで料理を出した。


「フェリアも一緒に食べよう」

「畏まりました」


 ◇ ◇ ◇


「魔法って便利よねぇ」

「ああ、凄いな」


 食後のコーヒーを飲みながら、水谷と秀雄がそんな感想を漏らした。


「お金が無いと料理も出せないけどね」

「もう、増えないんでしょ? こんな無駄遣いしても大丈夫なの?」

「料理くらいは、いくら作っても大丈夫だよ」

「フィギュアは?」


 秀雄が聞いてきた。


「そうよ。フィギュア作って生計を立てるって言ってるけど、異世界のお金を減らしているわけでしょ?」

「まぁ、料理よりはお金がかかるけど、フィギュアにかかるお金も大したことはないよ」

「じゃあ、何に遣うと問題なの?」

「マジックアイテムかな……1つに何万ゴールドもかかったりするし」

「マジックアイテムって、どんなものがあるの?」


 水谷が目を輝かせて聞いてきた。


「装備品なんかもマジックアイテムなんだけど、たとえばコレ……」


 そう言って、前に作った『魔法のライター』を『アイテムストレージ』から実体化させた。


「ライター?」

「そう、前に作ってみたんだけどね」


 そう言って、水谷に渡した。


 ――カチャ


 水谷が『魔法のライター』の蓋を開けた。【ライター】の魔術が発動して火が灯った。


「機能的には、単なるライターね」

「燃料が不要だけどね」

「永遠に使えるわけ?」

「魔力が切れると消えるけど、蓋を閉めて時間が経てば、また使えるから、半永久的にライターとして使えると思うよ」

「へぇ……でも、ライターじゃ有難味が薄いわね」

「まぁね。向こうの世界には、ライターが無かったから重宝されるだろうけど、一般庶民が買える価格では売れないから……」

「いくらなの?」

「材料費だけで、2万1000ゴールドかかってるよ」

「ピンと来ないけど、大金なのでしょうね」

「こっちの価値だと2億円以上かな」

「ちょっ!? 勿体ないわね。もっと、凄いものを作りなさいよ」

「向こうは、物価が安いんだよ。例えば、リンゴ1個が銅貨1枚で買えるんだけど、こっちだとリンゴは普通100円以上するでしょ?」

「ええ。つまり、銅貨1枚が100円以上の価値があるわけね?」

「うん。それで、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚なんだ」

「金貨1枚が1万円くらいの価値なのね?」

「うん」


 秀雄が疑問を口にする。


「ちょっと、待って。銀貨10枚で金貨1枚の価値なの?」

「うん。でも、メッキみたいな感じだから」

「ああ、なるほど」

「中まで金だったら、こっちで売れるのにね」

「貴金属は、魔法で作れると思うよ。本物かどうかは鑑定してもらわないと分からないけど」

「え? それホント?」


 この話に水谷が食いついてきた。


「フィギュアを作った魔法を使えば、見た目だけなら、ほぼ完璧に再現することができるんだけど、材質まで再現することができるかどうかは分からないんだよね」

「鑑定してみなさいよ」

「いや、優子にも言ったんだけど、貴金属を大量に生成できる人間が居たら大事になるからね」

「そうだよ、涼子。ユウちゃんのことは、世間に知られないほうがいいよ」

「二人とも気にしすぎよ」

「それよりも、ユウちゃん。向こうの通貨を良かったら見せてくれる?」

「いいよ」


 僕は、金貨1枚、銀貨1枚、銅貨1枚をテーブルの上に実体化した。


「へぇー、ゲームセンターのコインみたいだね」

「この通貨を使って魔法が使えるの?」

「いや、実体化しちゃうと魔法の触媒にはならないんだよね」

「え? 良かったの?」

「ああ、全然問題ないよ。向こうの刻印を刻んでいない一般人は、これらの硬貨を通貨として使ってるんだよね」

「造幣局のような機関がないのか……」

「うん、以前は、物々交換のようなことをしてたらしいよ」

「向こうの経済ってどうなってるわけ? インフレにならないの?」

「僕も最初は不思議だったんだよね。でも、物価がほぼ固定されているから、いくら通貨が供給されてもインフレになったりしないみたい。そもそも、先物取引みたいな相場が存在しないからね」

「豊作や凶作とかで受給のバランスが変動したらどうなるんだろ?」

「それが、向こうは気候もあまり変化しないらしいよ。でも、ゾンビが襲来したときなんかは、食糧不足になったらしいけどね」

「そのときは、どうだったの?」

「物価がどうなったかは知らないけど、庶民は、烏や鳩、カエルなんかも食べてたらしいね」

「一時的に食料の価格は高騰したようです」


 フェリアが補足してくれた。


「やっぱり、緊急事態だと物価は変動するのか……」

「魔法で生成された食材は高価ですから」

「10倍くらいするよね」

「はい」


 水谷が僕に質問をする。


「ねぇ、ユーイチ? 異世界に戻る予定はないの?」

「うーん、何処でゲートが開くか分からないからね……」

「近くで開いたら、飛び込むつもり?」

「そうだね。たぶん……」

「その後は、ずっと向こうで暮らすつもりなの?」

「そのときは、こっちと向こうを行き来できるようにするかも」

「そんなことが可能なの?」

「向こうの街には『ゲート』という街と街を繋ぐ門があるらしいんだけど、その原理を利用すればできると思う……」

「期待してるわよ。あたしの為に頑張ってね」

「ユウちゃん、もしそうなったら、一般に異世界を公開するつもりなの?」

「いや、向こうの世界は危険だからね。その辺りは、慎重に考えないといけないと思ってる」

「ああ、異世界の件は、政府レベルの判断が必要だと思うよ」

「そこまでのことなの?」

「異世界の存在が世間に知れたら大問題になるよ」

「それに安全保障にも関係するよね」

「ああ、ユウちゃんが言ってるようなモンスターがこっちの世界に現れたら、物凄い死者が出るだろうし……」

「ユーイチに倒して貰えばいいじゃない」

「ドラゴンみたいなのが来ない限りは、倒せると思うけど……」

「そういう事件が起きたら、ユウちゃんに相談させてもらうよ」

「内調って、そんなこともするの?」

「情報を集めるのが仕事だからね」

「もし、モンスターが現れたら、どう対応するの?」

「総理に報告して、政府が対策を練るだろうね」

「気の長い話だね。まぁ、モンスターが現れることなんてないだろうけど……」


 もし、向こうの世界からモンスターがこちらの世界にやってくる可能性があるなら、過去にそういう事件が起きているはずだ。

 あの風圧に逆らって、ゲートをくぐってこちらの世界にやって来るモンスターが居るとは思えない。


 ――ただ、台風などで気圧が低い状態の場所にゲートが開いたらどうなるのだろう?


 向こうの世界は、おそらく気圧が低いと思われるが、人が住める程度なので、極端に低いわけではないだろう。

 台風で風速30メートルくらいの風が吹くことを考えると、向こう側の空間とこちら側の空間で50ヘクトパスカル程度の気圧差があれば、あのくらいの風が発生する可能性があるのではないだろうか。


「ユウちゃん?」

「……あ、ごめん。向こうの世界とどれくらいの気圧差なのか考えてた」

「ユーイチを吸い込むくらいだから、かなりの気圧差じゃないの?」

「小さな穴だから、吸い込む力は大きいんじゃないかな?」

「パスカルの原理?」

「ベルヌーイの定理だよね?」

「ユウちゃんが正解」

「飛行機が飛ぶ原理よね。そんなのあったっけ?」

「ホースとかに水や空気を流して途中が細くなってると、その区間の流れが速くなるでしょ」

「つまり、ゲートの周囲では、風の流れが速くなるってこと?」

「まぁ、気圧差で吸い込んでいるっていうのは、僕の勝手な推測だからね」

「でも、それが一番現実的な解釈だと思うよ。実際、この世界の風は気圧差で吹いてるわけだし」

「コリオリの力とかもあるけどね」

「もし、月が無かったら、地球の自転が速くなって、地表に凄い風が吹くって話を知ってる?」

「そういう古典SF小説を読んだことがあるよ」


 僕たちは、とりとめのない話をして過ごした――。


 ◇ ◇ ◇


「ご主人様……」

「そろそろ、時間だね」


 昼にフェリアに食事を出して貰って、4人で食べた。

 そして、午後1時頃――異世界時間では22時過ぎ――になったら、教えるように言っておいたのだ。


「あたし達は、どうすればいいの?」

「ここで座って待ってて」

「何もしなくていいの?」

「うん、僕の実家の近くで扉を開くよ。だから、靴をここに運び込んでおいて」

「分かった」


 僕は、『ロッジ』の扉を開いた。

 秀雄と水谷が玄関から靴を持って『ロッジ』に入った。


「元々、土足だから靴は履いておいて」

「ええ、分かったわ」

「石畳だからな」

「じゃあ、ちょっと待ってて」

「了解」


 僕は『ロッジ』の扉を閉めてから『アイテムストレージ』へ戻した。


『フェリア帰還』


 フェリアを帰還させる。


【インビジブル】【レーダー】


 そして、【インビジブル】と【レーダー】を発動させた。


 玄関の近くに人気がないのを【レーダー】で確認して、玄関の扉を開ける。

 素早く扉から出てから扉を閉め、鍵を掛ける。


【マニューバ】


 僕は、【マニューバ】を発動して空中へ舞い上がった――。


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