第19話 -起業10-


 第19話 -起業10-


―――――――――――――――――――――――――――――


「そろそろ、晩ご飯にしない?」


 水谷がそう言った。


「そうだね」


『ロッジ』


 僕は、『ロッジ』の扉を召喚した。


「うわっ!?」


 いきなり壁際に扉が出現したので、秀雄が驚いた声を上げた。

 僕は立ち上がって、扉を開けた。


「じゃあ、中に入って」

「ユーイチ、後片付けをするわ」

「ああ、ゴミなんかも一緒にこの部屋の中に運んで」

「そっか、ゴミは消えるのよね」

「うん」

「どういうこと?」


 自動清掃機能について知らない秀雄が水谷に質問した。


「見てれば分かるわよ。さぁ、秀雄も荷物を運び込んで」


 二人が中に入ったのを確認して、部屋の明かりを消してから、僕も『ロッジ』の中に入る。

 フェリアとケット・シーも僕に続いて入ってきた。

 全員が入ったところで、僕は『ロッジ』の扉を『アイテムストレージ』に戻した。


「消えた!?」


 自動清掃機能が発動してゴミが消えたようだ。


「凄いでしょ」

「ホントに凄いな……」


 部屋を見回した水谷が声を上げる。


「あーっ!」


『ロッジ』の隅に置いておいた、フィーネの1/1と1/2のフィギュアを見つけたようだ。

 1/4と1/8のフィギュアは、部屋の隅のテーブルの上に置いてあるが、1/1と1/2は大きいので壁際の床の上に立たせた状態で置いてあった。


「どうして、こっちはメイド服を着せてるのよ?」

「レイピアが危険かなと思って……」


 一応、刃は潰してあるが、レイピアは細長いので突き刺せば凶器となる。そのレイピアを使った事故や事件が起きては困る。そのため、大きなサイズのフィギュアはメイド服にしたのだ。


「あれ? このメイド服、フェリアさんが着ているものと違うわね」


 水谷は、フィーネの1/1フィギュアの近くでそう言った。

 メイド服のスカートをつまみ上げたりしている。


「うん。昨日、アキバで買ってきたメイド服と同じデザインのものを着せてるんだ」

「どうして?」

「フェリアが着ているメイド服は、装備品だから脱ぐようにできていないんだよね。だからあのデザインで作ると脱がせられないから……」


『フェリアのメイド服』は、ファスナーなどが付いていないため、脱がせるのが難しい。

 装備品は、装備から外すことで消え去るため、脱げない構造でも問題がない。

 そのため、脱がすことができるメイド服を買うために、昨日、また秋葉原に行ってきたのだ。

 メイド服を調べたり、買ったりするのは、男の僕一人ではハードルが高いので、フェリアの使い魔のチハヤを召喚して貰った。

 フェリアは、耳を見られるとマズいので、人間のチハヤにしたのだ。ユリコは、無感情過ぎるし、ゾンビなので一般人に噛みついたら恐いので止めておいた。僕が命令しない限り、そんなことはしないと思うが、何かの拍子でゾンビの能力を発揮して人間に噛みつく可能性がゼロとは言えないからだ。


 まず、チハヤに女性向けのスーツやパンプスを装備品として作った。外出するための服が必要だったからだ。

 スーツのデザインは、先日、水谷が着ていたものを連想して作成した。

 電車で行くと電車の乗り方も知らないチハヤがトラブルを起こすかもしれないので、【インビジブル】を掛けてから空を飛んで移動した。人気のない場所を探すのに苦労したが、路地裏のビルの影で【インビジブル】を解除して、コスプレ衣装などが売っている店へ行き、買ってきたのだ。

 価格が安いのは、値段なりの安っぽさだったので、3万円以上する本物っぽいものを買ってきた。

 ちなみに秋葉原でチハヤを連れて歩くと、周囲からの視線が痛かった……。


「脱がせられないと駄目なわけ?」

「やっぱり、キャストオフ機能は売りになるからね。1/1は普通の服を着せられるから、着替えさせることもできるし……」


 男が1/1フィギュアの服を着せ替えるシーンは、あまり想像したくない絵面えづらではあるが……。


「これ、売るつもりなの? 絶対にいやらしいことに使われるわよ」

「一応、100万円くらいで売りに出そうかとは思ってるよ」

「その値段じゃ、誰も買わないでしょ」

「1/1スケールなら買う人が居るかも……」


 秀雄がそう言った。


「秀雄は、これが欲しいの?」

「いや、オレにはそんな趣味ないけど……」


 水谷がフィーネの1/1フィギュアのスカートをまくり上げて、黒いTバックパンティーを脱がせた。


「おい! 涼子!」


 そしてフィギュアの股間を調べている。


「良かった。性器は無いのね」

「うん。最初はあったんだけど、警察沙汰になったら困るし、マネキンのように無くしたんだ」

「そんな痕跡ないわよ?」

「ああ、イメージの中での話だよ」

「それって、どんな感じなの?」

「うーん、上手く言えないけど、視界の中にウインドウが開いて、中に映像が見える感じかな」

「やっぱり、刻印を刻んだ体って機械チックなのね」

「そうかも……」

「それじゃ、ご飯にしましょ。ユーイチ、この間のコース料理を食べさせて」

「分かった」


 僕たちは、テーブルに向かった――。


 ◇ ◇ ◇


 僕は、先日と同じコース料理を出して3人で食べた。

 ケット・シーにも『牛ヒレ肉のステーキ』を振る舞った。


「明日は、どうするの?」

「実家に帰るのは、昼過ぎでいいかなと思ってるけど……あ、そうだ。二人は、何処まで送ればいい?」

「あたしは、ユーイチの家に行くわ。優子ちゃんにも会いたいし」

「オレも少し顔を出していいかな?」

「それじゃ、帰りは、優子に駅まで送って貰うといいよ」

「そうね」

「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせて貰うよ」

「ちょっと早いけど、もう寝る?」


 そう言って、僕は冷めたコーヒーを啜った。


「まだ、8時過ぎじゃない」

「どこで寝るの?」

「奥に広い寝室があるわ。物凄く広い浴場もね」


 秀雄が質問をして、水谷がそれに答えた。


「僕は、フェリアの『倉庫』で寝るから、ここは自由に使ってよ」

「そんな……悪いわ……。ユーイチも一緒に寝ましょう? あんなに広い寝室があるのよ?」

「二人の邪魔はしたくないし……」

「その『倉庫』ってゆっくり寝られるの?」

「それは問題ないよ。奥の部屋をまだ作ってない頃には、『倉庫』で寝ることもあったし」

「じゃあ、涼子。お言葉に甘えよう。ユウちゃんもフェリアさんとゆっくりしたいだろうし」

「……分かったわ」

「じゃあ、明日の朝、8時くらいに戻るね」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 僕は立ち上がってフェリアの前に移動する。


「フェリア、ケット・シーを帰還させてから、壁際に『倉庫』の扉を召喚して」

「畏まりました」

「ご主人さま、ありがとにゃん」

「またね」


 ケット・シーが消え去り、壁際に『倉庫』の扉が召喚された。


 僕は、扉を開けて中に入った。

 フェリアが僕に続いて中に入り扉を閉めた。


「扉を戻して」

「ハッ!」


 扉が消え去った――。


 ◇ ◇ ◇


『現在時刻』


 異世界の時刻を確認してみると、【05:21】だった。

 こちらの世界より、9時間ちょっと進んでいるので、だいたい予想通りの時間だ。


【テレフォン】→『レイコ』


「レイコ、今いいかな?」

主様ぬしさま? はい、問題ありません」

「これから、『夢魔の館』に戻るから、娼婦希望者を集めておいて」

「畏まりました」

「通信終わり」


『夢魔の館・裏口』


 僕は、『夢魔の館』の裏口の扉を『倉庫』の壁際に召喚した。

 扉を開けて、中に入る。

『夢魔の館』の地下にある食堂に出た。


 ルート・ドライアードの『密談部屋』で確認はしていたが、僕が異世界に戻るのは初めてだ。

 ここからの行動は注意しないといけない。

 今現在、『アパートの部屋』→『ロッジ』→『倉庫』→『夢魔の館』と空間が接続されているので、誤って扉を戻して別の場所で召喚してしまうと異世界から戻れなくなってしまう可能性がある。

 保険として、フェリスの『密談部屋・裏口』を実家の僕の部屋に設置してから帰還させてあるので、『密談部屋2』の扉に入って、フェリスに『密談部屋・裏口』を召喚してもらえば、僕の部屋には戻れるはずだ。


「あっ、ご主人様。お帰りなさいませー!」

「「ご主人様っ!」」

「ああっ……ご主人さまぁ……お逢いしとうございましたわ」

「あたしも逢いたかったわぁ……」

「おお、主殿あるじどの……早く拙者を何とかしてくだされ……」

「……ご主人さま……」

「ただいま……」

「ご主人様、心配いたしましたわ」


 サクラコが僕の前に来た。


「サクラコさん、お久しぶりですね」

「ええ、わたくし、とっても寂しかったですわ……」

「娼婦希望者の人は多いの?」

「11名おりますわ」

「全員、刻印はしてある?」

「はい、刻印は施してあります。しかし、ご主人様の奴隷になっていないため、飛行魔法も使えないので……」

「『レビテートの指輪』は渡していないの?」

何分なにぶん、人数が多いもので……」

「じゃあ、上の部屋に閉じこめてるの?」

「はい……問題がございますでしょうか?」

「あの部屋は基本的にまだ刻印を刻んでいない人のためのものだから、刻印を刻んだらここに連れてきておいて。ここなら、風呂も寝床もあるわけだし」

「では、今後はそうさせていただきます」

「じゃあ、僕は大浴場に行くから、娼婦希望者たちを連れてきて」

「畏まりました」


 そう言って、僕は大浴場の扉に向かった――。


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 雄一たちが扉の向こうに行った直後に扉が消え去った。

 そのため、涼子は、秀雄と二人っきりになった。


 ――少し落ち着かない。


「涼子?」


 秀雄が声を掛けてきた。


「なぁに?」

「これからどうする?」

「そうね……まずは、ここを案内してあげるわ」

「分かった」

「そこの扉の向こうがトイレよ」


 そう言って、涼子は立ち上がり、トイレの扉へ向かう。

 扉を開けて、中に入った。秀雄もついてくる。

 個室の扉を開けて中を秀雄に見せた。


「この鍵に秘密があるの」

「どういうこと?」

「この鍵を掛けたり、開けたりすると、さっきの綺麗になる魔法が発動するのよ」

「へぇ……」

「流すボタンも紙もないけど、焦っちゃ駄目よ」

「分かった」


 涼子は、トイレから出た。

 そして、入り口の扉があった壁の反対側にある扉に向かう。


「この奥に大浴場と寝間があるの」


 そう言って、涼子は扉を開ける。


「長い廊下だね」

「この廊下の端から端が部屋の長さだから、かなり広いわよ」

「そうなんだ」


 廊下を歩いて、丁度真ん中付近に両側に引き戸があった。

 涼子は右側の引き戸を開ける。


「ここが大浴場よ」

「うわぁ……ホントに広いね」

「でしょう?」

「脱衣所が無いね」

「そうなのよ。ユーイチたちは、魔法で着替えることができるみたいで、一瞬で裸になったりできるのよ。だから、脱衣所が必要ないみたい」

「でも、これだけ洗い場が広ければ、問題ないと思うけど?」

「そうね。あたしもこの間はここで脱いで入ったし」

「ユウちゃんは?」

「さっきのテーブルのある部屋で待ってたわよ」

「そう……」

「一緒に入ったと思った?」

「うん。涼子ならやりかねないと思って……」


 実際には、後で一緒に入ったのだが、それは言わないほうがいいだろう。


「じゃあ、お風呂に入りましょう」

「え? タオルや着替えを持ってこないと……」

「大丈夫、ここにもさっきのトイレみたいな綺麗になる魔法がかかるから」

「どうやって?」

「あっ、それはユーイチに入り口の扉を出し入れして貰わないといけないんだった……」

「危ないなぁ……」

「まぁ、トイレに行って鍵を掛ければ乾くわよ」

「本気?」

「タオルは、いざというときのために温存しておきましょ」


 そう言って、涼子は服を脱ぎ始めた――。


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