第17話 -起業8-
第17話 -起業8-
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――12月30日(金)
――ピンポーン♪ ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴った。
「はーい!」
パソコンの置いてある机の前で椅子に座っていた僕は、立ち上がって玄関に移動する。
鍵を開けて、玄関のドアを開けた。
「ユーイチ! 来たわよ」
「こんにちは、ユウちゃん」
「あ、いらっしゃい。どうぞ」
約束通り、秀雄と水谷が訪ねて来たのだ。
時刻は、昼の12時を少し過ぎたところだった。
今日は、エアコンもちゃんと点けて部屋を暖めておいた。
二人が玄関で靴を脱いでから入ってきた。
「へぇー、いい部屋だね」
「あれ? このフィギュアどうしたの?」
「ああ、アキバで買って来たんだ」
「あの後に?」
「うん、そうだよ」
「ユーイチ、あなた何処に向かってるの? お姉ちゃん心配だわ……」
どうやら、水谷は何か誤解しているようだ。
「それは、参考資料として買ってきたんだよ」
「何のよ?」
「まぁ、二人とも座って……」
僕は、二人が来てもいいように4人掛けの座卓と座布団4枚を【工房】で作って部屋に置いていた。
ビールも1ケース買って電源を抜いた冷蔵庫に入れてある。
二人が座布団に座った。
僕も反対側の席に座る。
「ケーキ買って来たんだ」
秀雄がケーキの箱を座卓の上に置いた。他にもコンビニのレジ袋を持っていた。
中には、ペットボトルのお茶が3本入っていて、秀雄はそれぞれの席にお茶を配る。
「ユーイチに魔法で出して貰えばいいって言ったんだけどね」
「ユウちゃん家に来てるのにそれは悪いよ」
「ありがとう、ヒデちゃん」
「それで、参考資料ってどういうこと?」
「ああ、仕事をどうするか考えていたんだよ。それで、フィギュアを魔法で作ってオークションで売ったらどうかなと……」
「版権はどうするのさ?」
秀雄が聞いてきた。
「キャラクターものじゃなくてオリジナルを作るから版権の問題は発生しないよ」
「売れるの?」
「まぁ、そこはクオリティの高さで勝負するしか……」
「どんなフィギュアを作るつもりなの?」
水谷が聞いてきた。
「第一弾は、エルフだよ」
「へぇ……こないだのフェリスさんだっけ? 彼女をモデルにするの?」
「いや、フィーネというエルフをモデルにしたんだ」
「フェリスさんじゃ駄目なの?」
「フェリスは、エルフにしては背が高いからね」
「確かにあたしより背が高かったわね」
「もう作ったの? 見せてよ」
秀雄が催促した。
【工房】→『レシピから作成』
『フィーネのフィギュア(1/4)』
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・フィーネのフィギュア(1/4)【アイテム】・・・22.48ゴールド
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[レシピから作成]
テーブルの上に白い光に包まれて『フィーネのフィギュア』が実体化した。
「うわぁ……凄いわね」
「うん。凄いね」
水谷が『フィーネのフィギュア』を手に取った。
「おい、涼子」
「平気よ。ねぇ? ユーイチ」
「うん。別にいいよ。いくらでも作れるし」
「へぇ……良くできてるわね……本物みたい……」
「うん。凄く精巧だな……」
「ねぇ、ユーイチ? あたしのフィギュアも頼んだら作ってくれる?」
「え? いいけど、何か嫌じゃない? 自分の人形なんて……」
「オレも自分の人形があったら嫌だな……」
「そうかしら?」
「処分に困ると思うけどな……」
「ユーイチは、あたしのフィギュアを部屋に飾っておきたくない?」
「こういうのは、アニメのキャラクターとかだからいいんだと思うけど……」
「何よ? あたしのフィギュアじゃ萌えないってわけ?」
「いや、涼子姉ぇは萌えキャラではないと思うよ……」
「ふーん、そういうこと言うんだ……?」
「おい、涼子。ユウちゃんに絡むなよ……」
秀雄が水谷を嗜めた。
「秀雄は、どうなのよ?」
「うーん、ユウちゃんの意見に賛成だな。やっぱりリアルの人間は、そういう対象にはならないと思うよ」
「でも、後で作って貰うわよ?」
「いいけど、後で処分に困っても知らないよ」
「ユーイチに持っていて貰おうと思ってるんだけど?」
「え? 何で?」
「お姉ちゃんのフィギュアも飾っておいてよ」
「優子に見られたら何言われるか分からないんだけど……」
「優子ちゃんのも並べて飾っておいたら?」
「いやいや、妹のフィギュアを飾る兄ってキモ過ぎでしょ」
「ふふっ……そうね。で、このフィギュア脱がせられないの?」
「一応、キャストオフ機能は付けてあるよ」
「どうやって、脱がせるの?」
「装備と体の間に爪を入れて剥がすと取れるよ」
水谷は、フィーネのフィギュアの装備を剥いだ。
「あっ、取れた。へぇー、装備は一体になってるのね……。おっぱいも精巧にできてるわね。本物みたい。秀雄も見てみなさいよ」
「えっ、これはかなりヤバくない?」
「何がよ?」
「凄く良くできてるから……」
「手触りも凄いわよ。本物のおっぱいみたい。どうやって作ったのかしら?」
「だから、魔法でしょ?」
「それは分かってるわ。この柔らかさをどうやって再現しているのかって話よ。ユーイチ、どうなの?」
「いや、それは分からない。【工房】っていうアイテムを作る魔法でフィーネの裸体を見ながら作ったんだけどね。触り心地まで再現されるとは思わなかったからさ。最初は、ボツにしようかと思ったんだよね。どうやって作ったのかとか問い合わせが殺到したり、大事になったら困るから」
「それで?」
「でも、これくらいのアドバンテージが無いと売れないだろうし、オークションなら別にいいかなっと。シリコンを部分的に使った柔らかい手触りのフィギュアもあるしね」
「ふーん。で、あたしのフィギュアを作るときも裸体を見ながら作るつもりなの?」
「いや、服を着たままでいいよ。キャストオフ機能は必要ないでしょ」
「えーっ、どうして? あたしのフィギュアを脱がして遊びたくないの?」
「そんな趣味はありません」
「ぶーっ!」
秀雄がケーキを箱から出した。チーズケーキだ。
「さぁ、ケーキを食べよう」
「うん」
「後でユーイチの作ったケーキも食べるわよ。あっちのほうが美味しいんだから」
「でも、一種類しか無いんだよね」
「他のケーキも作りなさいよ。イメージすれば作れるんでしょ?」
「まぁ、そうだけどね。向こうでは、あまり食事に労力をかけなかったからなぁ……」
「そうなんだ」
「ユーイチは、食べなくても平気なんだって」
「そうなの?」
「うん。実は、全く食べなくても生きていけるんだよね……」
「エネルギーは、どこから供給してるんだろう?」
「一種の永久機関だと思うよ。刻印を刻んだ体には、体力と魔力があって、どちらも減ると少しづつ回復していくからね」
「食事をしなくても、それらは減らないんだ?」
「うん」
「たぶん、アンドロイドみたいなものなのよ」
「確かに機械の体に近いと思うことはあるよ」
「どういうところが?」
「例えば、睡眠だけど、1時間だけ睡眠とか念じるとピッタリ1時間後に目覚めるし、まるでタイムスリップしたように一瞬で寝て起きるんだよね。あと、同じ事を繰り返すのが苦にならなくなった」
「いいなぁ……。オレ朝が弱いからさ」
「でも、ウトウトしたり微睡んだりできなくなるからね」
そう言って、付属のプラスチックのフォークでケーキを一切れ口に運ぶ。
「あ、美味しい」
「結構、有名な店のケーキだよ」
「並ばないと買えないような店?」
「今日は、年末だし昼前だったから、それほどでも無かったかな」
「そんな話は、どうでもいいわ。それよりもこないだの話の続きをしてよ」
「僕が異世界で何をしていたかって話?」
「そうよ」
「確か『妖精の国』に行ったあたりまで話したっけ?」
「ええ、フェリアさんのお母さんでエルフのフェリスさんを使い魔にしたところまでは聞いたわ」
「『妖精の国』では、それからドライアードとニンフを使い魔にして、フェアリーとピクシーも使い魔にしたな。それから、トレントとレプラコーンに会って、ケット・シーの城に行ったんだ」
「ケット・シーって、『長靴をはいた猫』みたいなの?」
「うん」
「使い魔にしなかったの?」
「僕の使い魔じゃないけど、フェリアの使い魔になったよ」
「じゃあ、見せてよ」
『フェリア召喚』
部屋の中にメイド服姿のフェリアが出現する。
「わあっ!?」
秀雄が驚いた。
「お呼びですか? ご主人様」
「ケット・シーを召喚して」
「畏まりました」
光に包まれてケット・シーが現れた。
「あ、ご主人さまにゃん」
「わぁ……可愛い……」
水谷がケット・シーに抱きついた。
「にゃにゃっ、にゃにするんだにゃ……」
「ケット・シー、付き合ってあげて。その人は、僕の友人で水谷涼子って言うんだ」
「ユーイチ、お姉ちゃんでしょ?」
「ハイハイ」
「それで、その後、どうしたの?」
水谷は、ケット・シーを撫でながら聞いてきた。
「『妖精の国』を出た後は、『エドの街』に行ったんだ」
「東京のことね。人口はどれくらいなの?」
「流石にそれは分からないけど、人はかなり住んでるっぽかったよ」
「街の面積は?」
「多摩川から隅田川の間のエリアに城壁に囲まれた街があったんだ」
「秀雄、多摩川から隅田川の間ってどれくらい?」
「場所によると思うけど、だいたい10キロメートル以上あるかな」
「街には、集落が立ち並んでいたの?」
「いや、城壁の中にも田んぼや農園があったよ」
「なるほど、自給自足できる城郭都市なのね」
「ゾンビの襲撃があったときには、中に籠もって自給自足してたみたいだしね。でも食糧難で鳩とか
「ゾンビの襲撃って?」
秀雄が聞いてきた。
「向こうで100年くらい前にゾンビの大量発生が起きて日本全域が壊滅的なダメージを受けたみたい」
「ゾンビが居るんだ……」
「ゾンビと言ってもこっちでイメージするような死体が動くアンデッドじゃないけどね」
「どんなゾンビなの?」
「見た目は、刻印を刻んだ人間だけど、虚ろな表情で人間に襲いかかって噛みつくんだ。噛まれた人間は、数時間後にゾンビになる。そうやって、ねずみ算式に増えるから脅威なんだよね。僕たちのような刻印を刻んだ人間には攻撃してくるし。意外に強いから数が多いとかなり危険だよ」
「ゾンビになった人は、元に戻せないの?」
「うん、たぶん無理だと思う。前に『ナゴヤの街』でゾンビを一体テイムしたことがあるんだけど、生前の記憶を失っていたからね」
「そのゾンビは召喚できるの?」
水谷が聞いた。
「うん。でも危険だから止めておくよ」
「どうして?」
「ゾンビの犬歯には穴が空いていて、そこからゾンビ化する刻印を施すポーションを噛んだ人間に注入するみたいなんだ。だから、僕たちのような刻印を刻んだ人間は噛まれても問題ないけど、ヒデちゃんと涼子姉ぇにとっては非常に危険な存在だから、出せないよ」
「あたしたちに襲いかかってくるの?」
「それは大丈夫だと思う。テイムして使い魔にしたら、そういう凶暴性は無くなったからね。ロボットみたいに感情が無いけど」
「じゃあ、いいじゃない。見せてよゾンビ」
「おい、涼子。ユウちゃんが危険だって言ってるんだから止めておけよ」
「秀雄は、ゾンビを見たくないの?」
「そりゃ、見たいけどさ……」
「じゃあ、少しだけね」
「フェリア、ユリコを召喚して」
「ハッ!」
部屋の中にメイド服姿のユリコが召喚された。
「ゾンビもメイド服なの? ユーイチは、そんなにメイド服が好きなの?」
「まぁ、好きかな……」
「ふーん、お姉ちゃんもメイド服着ようか?」
「今度、【工房】で作るから着てみてよ。ヒデちゃんもメイド服は嫌いじゃないでしょ?」
「オレ? まぁ……」
「メイド服が嫌いな男は居ないよね」
「確かに……」
水谷は、立ち上がって、ユリコの側に移動した。
「涼子!?」
秀雄が警告を発した。
「大丈夫だって。ユーイチの命令に従うんでしょ?」
「まぁね」
「へぇ……綺麗な人ね……」
「うん。好みの女性だったから捕まえてみたんだよ」
「ゾンビも抱けるの?」
「人間に噛みついてゾンビ化させる能力以外は、刻印を刻んだ女性と変わらないよ」
「感情が無いんでしょ?」
「全く無いわけじゃないみたい。といってもそれは召喚魔法のせいかもしれないけど」
「どういうこと?」
「僕の命令に従うことに幸福感を感じたり、美味しい食べ物を食べて美味しいと感じたりはするみたいだよ」
「話せるの?」
「最初は、会話が出来なかったんだけど、使い魔になって成長したら会話ができるようになった」
「えーっと、ユリコさん? あなたはユーイチの何?」
「……私は、ご主人様の奴隷です」
無感情な声でユリコがそう言った。
「よく名前が分かったわね」
「ああ、僕が勝手に付けた名前だからね。最初は、ゾンビの女性とか呼んでたんだけど……」
「そうなんだ。どうしてユリコなの?」
「『エドの街』に居る使い魔にユリって名前の女性が居るんだけど、ユリコはユリに姿が似てるんだよね」
「へぇー、確か900人くらい使い魔が居るのよね?」
「といっても、ドライアードやニンフは、全く同じ姿だから、クローン人間みたいなものだけどね」
水谷は、僕をジト目で見た。そして、話を戻す。
「それで、ユリコさんは使い魔になったけど、他人をゾンビ化することはできるの?」
「試したことはないけど、たぶんね」
「もし、そうなったら大変なことになるのよね?」
「こんなに人が多い世界でゾンビが発生したら、人類滅亡の危機が起きると思うよ」
「向こうの世界からゾンビがこっちの世界に来ることは無いのよね?」
「前にも言ったけど、気圧差があるためか、常に向こうが吸い込む側みたいだから大丈夫じゃないかな……」
「もし、ゾンビがその風圧に逆らってこっちの世界に来たらどうするの?」
「うーん、飛行魔法が使えないゾンビには、あの風圧に逆らってゲートをくぐるのは無理だと思うけどな……」
「こちらの世界が低気圧だった場合でも?」
「絶対に大丈夫とは言い切れないけど、過去に向こうからこっちの世界に来た人間やモンスターの痕跡はないわけだし、可能性は低いと思うけど……」
「ゲートの開く頻度も謎なのよね?」
「うん。検証のしようがないし……もしかしたら、海上とかで人知れず開いているのかもしれないけど……」
「バミューダトライアングルの伝説とかも、もしかしたらゲートに吸い込まれたのかもね」
「それはどうかなぁ……」
「日本では、届出のある失踪者は、年間5万人くらい居るけど、その殆どが発見されていて、1000人くらいは本当に行方が分からないんだ」
秀雄がそう補足した。人口が減少している現在でもそんなに失踪者が居るのかと僕は驚いた。
「僕も今年の失踪者に含まれるんだね……」
「まぁ、1000人と言っても大半は、家出とか何らかの理由で自ら失踪したり、中には犯罪に巻き込まれたケースもあるみたいだけど、本当に謎の失踪というのは殆ど無いと思うよ。ユウちゃんのケースはまさにそれだったわけだけどね」
「ユーイチみたいに向こうの世界に飛ばされた人も居るのかしら……」
「向こうでは、僕のような異世界人をマレビトと呼んでいたから、たまにはそういうケースがあるはずだね」
「じゃあ、ユーイチ。ユリコさんを戻してから、続きを話して……」
「分かった。フェリア」
「畏まりました」
ユリコが光に包まれて消え去った。
そして、僕は異世界の話の続きを二人に語り始めた――。
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