第11話 -起業2-
第11話 -起業2-
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『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』
僕は、テーブルの水谷の前と僕の前に『フルーツの盛り合わせ』を出した。
「へぇ……」
「まずは、フルーツでも食べよう」
「でも、これデザートじゃないの?」
「食前に食べるほうがいいらしいよ」
「そうなんだ」
◇ ◇ ◇
『コーンクリームスープ』『コーンクリームスープ』
食器を片付けてから、『コーンクリームスープ』を出した。
「何だかコース料理みたいね」
「そのつもりで作ったんだよ。一品ずつ個別に食べることもできるし」
「なるほどね」
◇ ◇ ◇
『牛ヒレ肉のステーキ』『牛ヒレ肉のステーキ』
次に『牛ヒレ肉のステーキ』を出した。
「わぁ、美味しそう……」
「こういうのは、失敗がないからね」
「肉を焼いただけだから? ステーキにも焼き方があるのよ」
「大丈夫、前にネットで見た美味しい焼き方で焼いてるから」
「流石ね。んっ、ホントに美味しいわ。A5ランクのお肉より美味しいかも」
「僕は、高級なお肉なんて食べたことがないから分からないんだけどね」
「これは、どうやって作ったの? お肉の選び方とかあるのかしら?」
「うーん、適当に最高級の牛ヒレ肉ってイメージしただけだけど……」
「アバウトなのね……」
「アイテムを作ったりするのもそうなんだけど、イメージの世界なんだよね。優秀なAIエージェントがこっちが考えていることを具現化してくれるみたいな」
「あたしもその世界を体験してみたいわぁ……」
◇ ◇ ◇
『野菜サラダ』『野菜サラダ』
食器を片付けて『野菜サラダ』を出した。
前菜である『野菜サラダ』の代わりに『フルーツの盛り合わせ』を出したので、逆にしようと思ったのだ。
「へぇ、ここでサラダなんだ」
「脂っこい料理の後にはいいかなと思って」
「なるほどね。いいと思うわよ」
◇ ◇ ◇
『エスプレッソコーヒー』『エスプレッソコーヒー』『いちごのショートケーキ』『いちごのショートケーキ』
最後に『エスプレッソコーヒー』と『いちごのショートケーキ』を出した。
「デザートにケーキかぁ……太っちゃいそう」
「要らないなら残していいよ」
「食べる、食べるわよ」
僕は、食後のコーヒーを飲んだ。
「さて、食事もしたし、詳しく教えて貰うわよ」
「何を?」
「異世界のことに決まってるじゃない」
「具体的には?」
「そうね。どうやって、その刻印とやらを受けたの?」
「最初に助けてくれた人のおかげだよ」
「ああ、あなたが死にかけてたところを助けてくれたという女性ね」
「うん」
「その人とは、どうなったの?」
「どうって言われても……」
「別れたの?」
「いや、恋人とかではないから……」
「歯切れが悪いわねぇ……その人は、異世界に居るの?」
「そういうわけじゃ……」
「何? こっちに連れてきたの?」
「まぁ……」
「会わせてよ」
「えっ? それは、ちょっと……」
「どうして? 何が問題なのよ?」
「彼女は、普通の人間じゃないんだよ」
「人間じゃなかったら何なの?」
「ハーフエルフ」
「ますます、会ってみたいわね」
「ねぇ、僕のことは誰にも言わないでほしいんだけど……」
「どうして?」
「大事になったら嫌だし」
「分かった。言わないからその人に会わせてよ。お願いだから。ねっ?」
『フェリア召喚』
僕は、後を向いてフェリアを召喚した。
白い光に包まれてメイド服姿のフェリアが出現する。
「なっ!?」
「お呼びですか? ご主人様」
「ご主人様って……?」
「紹介するよ。この人が僕を助けてくれたフェリア。フェリア、こちらの女性は、僕の学生時代の友人で水谷だ」
「ユーイチ様の奴隷のフェリアです。水谷様、よろしくお願いします」
「ねぇ、伊藤君。質問に答えて。どうして、そちらのフェリアさんは、あなたの奴隷なの?」
「奴隷じゃないよ。使い魔だから」
「使い魔って、魔女とかが連れてるやつ?」
「うん。イメージはちょっと違うけどね。ゲームに出てくる召喚獣に近いかな」
「獣じゃなくて人間じゃない!? あ、ハーフエルフだっけ?」
「召喚魔法っていう魔法があって、本来はモンスターを取り込んでこんな風に使役できるんだけど、刻印を刻んだ人間にも作用するんだよね」
「それで、伊藤君は、命の恩人にその魔法を掛けて使い魔にしちゃったの?」
「まぁ、そういうこと。ただ、彼女が望んだからだよ」
「いやいや、そんなこと望む人なんか居ないでしょう?」
フェリアがそれに答えた。
「いいえ、
「どうして?」
「そうしたかったからですわ」
「そんなに伊藤君のことを気に入っちゃったんだ?」
「はい、運命を感じました」
「ふーん、ごちそうさま」
水谷は、釈然としないようだ。
「それで、伊藤君は、フェリアさんと何をしてたの?」
「何をって……何さ?」
「ああ、別にあなた達が乳繰り合ってた話を聞きたいわけじゃないわよ? ずっと同じところに居たわけじゃないんでしょ?」
「最初の頃は、モンスターを狩ったり、『妖精の国』に行ったりしたよ」
「『妖精の国』って?」
「ゲームで言えば、そういうゾーンがあったんだよ。妖精が住んでる」
「妖精ってどんな?」
「ドライアード、ニンフ、フェアリー、ピクシー、トレント、レプラコーン、ケット・シーが居たかな」
「エルフは住んでいなかったの?」
「エルフは、妖精という括りじゃないから。ゲームなんかでもそうだけど、人間に近い亜人種という扱いだったよ。実際、フェリアのような人間とエルフのあいのこができるわけだし」
「人間の近親種ってわけね。でもエルフって凄い長寿という設定が多いけど、その辺りはどうなの?」
「向こうでは、寿命は人間と同じくらいだったよ。でも、刻印の技術を独自に持っているから、それで長寿と誤解されているみたいだった」
「へぇ、それは面白い解釈ね」
「刻印を人間に広めたのもエルフらしい」
水谷は、フェリアをじっと見ているようだ。
「凄く綺麗な人ね」
「うん。僕も最初に見たときそう思った」
「それで、伊藤君は、その『妖精の国』に行ってどうしたの?」
「それが、『妖精の国』の入り口の洞窟には、トロールが4千体くらい棲息していたんだよね。最初に行ったときには、トロールに囲まれて死にかけたよ。2回目に何とか倒して『妖精の国』に行けたんだけど、最初に会ったのはドライアードだった。そのドライアードに連れられて、ドライアードの集落に行ったら、死んだと思われていたフェリアの母親が居たんだ……」
「凄い。何だかドラマチックな話ね。フェリアさんのお母さんは何でそんなところに行ってたの?」
「100年以上前にゾンビが大量発生する事件が起きたらしいんだけど、フェリアの母親は、そのゾンビを駆除するために『妖精の国』の入り口に棲むトロールたちにぶつける作戦を決行して帰ってこなかったらしい。それが、実は『妖精の国』まで行って、帰って来れなくなっていたってわけ」
「どうして帰れなかったの? そのトロールが?」
「うん。突破するのは至難の業みたい」
「他人事みたいに言うけど、伊藤君たちは突破したんだよね?」
「作戦を練って、新しい魔法とか開発したからね」
「ゲーム感覚でクリアしちゃったんだ」
「いや、命懸けだったから、そんなに軽いものではなかったよ」
「死んだら終わりなの?」
「蘇生魔法が切れたら終わりだよ」
「死んだらどうなるの?」
「この体が消えて、元の体の死体が残る」
「それは、確実なの?」
「間違いないよ。冒険者じゃないけど、刻印を刻んだ体が死体に変わるところを見たことあるし」
ゾンビの話なのだが、刻印を刻んだ存在という点で冒険者と変わらないだろう。
水谷は、ケーキを一切れ口に運んで、コーヒーを啜った。
僕もコーヒーを飲んで一息入れる。
「ねぇ、フェリアさんも座ったら?」
「いえ、私はご主人様の護衛ですから」
「いつもこうなの?」
「うん」
「メイド服で護衛させているの?」
「いや、メイド服なのは、こっちの世界でも問題ない格好だからだよ」
「問題ないねぇ……?」
「いつもは、甲冑着てるし」
「それは凄いわね。ちょっと見せて欲しいな」
『フェリア装備2換装』
僕が装備を変更した。
「うわっ、威圧感あるわね」
「彼女は強いよ。たぶん戦車でも勝てないと思う」
「ホントに?」
「僕たちには、普通の武器はあまり効かないからね」
「どういうこと?」
「彼女が持っている剣のような魔法で作った武器じゃないと、高いダメージが入らないんだよ」
「たぶん、包丁で刺されても大したダメージにならないよ」
「急所に突き込まれても?」
「そもそも急所がないから」
「え? どうして?」
「どこを斬られても同じダメージなんだよね」
「そのダメージはどうやって見るの?」
「【体力/魔力ゲージ】というバーがあるんだけど、念じれば見えるし、【戦闘モード】という状態に切り替われば常に視界に表示される」
「【戦闘モード】だと何が違うの?」
「フェリア曰く、本来の力が出せるようになるということらしい。普段は、一般人と生活するために力を抑えているみたいなんだ。それが【戦闘モード】を発動するとリミッターのようなものが外れて、怪力を発揮したり、思考が加速して周囲がスローに見えるようになったりする」
「そんな人が街で暴れたら恐ろしいわね」
「うん。簡単に大量殺戮ができるからね。あり得ないと思うけど、もし、モンスターがこっちの世界に転移してきたら、物凄い数の人が亡くなると思うよ。それが例え一匹だけでもね」
「一匹だけでも?」
「うん、警官が持ってる拳銃くらいじゃ大したダメージにならないだろうし、国防軍が動くまでかなり時間がかかるだろうからね」
「国防軍なら倒せると思う?」
「そりゃ、重火器で攻撃しまくったら、そのうち倒せると思うよ」
問題は、標的が小さく【戦闘モード】を起動しているモンスターには、ある程度の攻撃が回避されてしまうことだろう。
「伊藤君は、どうして向こうの世界からモンスターが転移してくることがあり得ないと思うの?」
「もし、いままでそんな事件があったとしたら、記録に残っているはずだからね。それにゲートが開くのを2回見たけど、どちらもこちらの世界から向こうの世界へ凄い風が吹いてこちらの世界のものを吸い込んでいたから、向こうが常に吸い込む側なんだろうと思う」
「それはどうしてだと思う?」
「おそらく、気圧差じゃないかな?」
「向こうは、気圧が低いの?」
「多分ね」
「慢性的な低気圧か……向こうで嵐に遭った?」
「いや、むしろいつも天気が良かったよ」
「それはおかしいわね。天気が良いってことは高気圧の可能性が高いのに」
「確かに……ただ、もしかすると、ずっと南のほうに太陽が常に出ている地域があったとすると、そこが海上だった場合、慢性的な超巨大低気圧が出来ている可能性があるんだよね」
「それで?」
「その超巨大低気圧が周囲の大気を大量に上昇気流に変えていたら、遥か遠くにある場所の気圧は低くなるかもしれないなって思って」
「どうして? 逆に高気圧帯ができるんじゃ?」
「その低気圧の周囲はね」
「なるほど、その低気圧で対流しているところから、遠く離れた場所ということね」
「単なる仮説だけどね。他にも単に重力が少し弱い可能性とかもあるし」
「高山病とかにはならなかった?」
「特に何ともなかったな。まぁ、刻印を刻むまでは、こういう魔法建築物の中に入っていたからね」
「この中は、気圧が保たれているの?」
「多分ね。扉を開けたときに外から風が吹き込んで来たりしないし」
僕は一呼吸置いてから続けた。
「どちらにせよ、計測器を持って行って調べてみないと分からないと思う」
「確かにここで詮索しても意味がないわね」
「そういうこと」
「じゃあ、そのフェリアさんのお母さんはどうしたの?」
「……僕の使い魔になったよ」
「えっ? お母さんまで毒牙に掛けちゃったの?」
「いや、それは悪意がある表現ですよ? だって、向こうからそう望んだわけで……」
「フェリアさんのお父さんはどうしたのよ?」
「100年以上前に亡くなったそうだ」
「ふーん、エルフなんでしょ? 召喚してみてよ」
『フェリス召喚』
僕は、振り返ってフェリアの隣にフェリスを召喚した。
メイド服姿のフェリスが召喚された。
「ご主人サマ」
『フェリア装備6換装』
フェリアの装備もメイド服に戻しておく。
「うわぁ、ホントにエルフみたい」
「ご主人サマ、こちらの方は?」
「僕の学生時代の友人で水谷だよ」
「水谷涼子です」
「フェリスと申しますわ」
「上品そう」
「見た目はそう見えるんだけどね……」
「ああん、ご主人サマぁ……」
フェリスが悶えた。
「……なるほどね」
水谷は、ちょっと呆れているようだ。
「伊藤君、他にはどんな使い魔を持ってるの?」
「僕の使い魔は、フェリアとフェリスとドライアードとニンフとレイコっていう人間の女性だね」
「異世界で5人の使い魔を捕まえてきたわけね?」
フェリアがすかさず爆弾を落とす。
「ご主人様の使い魔は、900名を超えておりますわ」
「ちょっと、それどういうこと!? 伊藤君! あなた一体どこに向かってるのよ?」
「それは、使い魔の使い魔まで数に入れた場合だよ。フェリア、フェアリーを召喚して」
机の上にフェアリーが召喚された。
「あっ、ユーイチ様っ!」
「久しぶり」
「あら? そうなの?」
「ちゃんと会うのは、エルフの里に行く前の頃以来だからね」
「うわぁ、妖精だ。可愛い~っ」
「ユーイチ様、こちらは?」
「僕の友人で水谷だよ」
「水谷涼子よ。よろしくね」
「ええ、よろしく」
◇ ◇ ◇
僕も水谷もコーヒーとケーキを平らげてしまった。
食器を片付ける。
「ねぇ? 伊藤君? トイレはあるのかしら?」
「ああ、そこの扉がトイレだよ。トイレは、個室の鍵の開閉で中が綺麗になるから」
「分かったわ」
水谷は、席を立ってトイレの扉に入っていった――。
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