第8話 -再会7-


 第8話 -再会7-


―――――――――――――――――――――――――――――


「寒っ!」


『ロッジ』から出た途端に優子が寒そうに叫んだ。


「そりゃ、冬だからな」

「もう、当たり前のこと言わないでよ!?」


 優子と一緒に『ロッジ』から自分の部屋に出た僕は、『ロッジ』の扉を閉めてから『アイテムストレージ』へ戻した。


「消えた!? さっきのドアって、フェリアさんを呼びに行ったときにリビングで出したものだよね?」

「ああ、そうだ」

「もしかして、好きなところで出し入れできるの?」

「まぁな」

「家が要らないじゃん。アパート引き払っても大丈夫じゃないの?」

「いや、住所がないといろいろと困るだろ」

「ホームレスになれば?」


 優子はニヤニヤしながらそう言った。


「それは最終手段だな」

「ちょっと、本気にしないでよ……」

「いや、100年後とかには分からんぞ」

「なにそれ……? それより、寒いんだけど……?」

「部屋で着替えて来いよ。僕は、このままリビングに行くから」

「その格好で?」


『装備5換装』


「あっ!? 何よ、普通の服にも替えられるんじゃない!?」

「これは、スーツに似せて作った装備だから」

「そうなの?」

「ああ、本物は別の場所に保管してある」


 僕は靴を脱いで部屋の隅に置いた。


「靴まで履いちゃうんだ」

「そういう装備のセットになってるからな」

「ふーん」

「じゃあ、行くぞ」

「うん」


 僕たちは廊下に出た。

 優子は自分の部屋の引き戸まで歩いていき、引き戸を開けて中に入った。

 僕は、そのまま階段から1階へ下りた。

 リビングの扉を開けて中に入る。

 エアコンのリモコンを取って電源を入れた。設定温度は22度になっている。

 窓がキッチンのほうにしかないリビングは薄暗かった。

 照明のリモコンを操作して明かりを点ける。


 ――トントントントン……


 階段を降りる足音が聞こえる。

 優子が着替えて降りてきたのだろう。


 ――ガチャ


 部屋着に着替えた優子がリビングに入ってきた。

 優子は、セーターにジーンズという姿だ。


「まだ、寒いわね。エアコン暖房は、これだから駄目なのよね」


 現代では、原油価格の高騰により、電気による暖房が主流となっている。


「お兄ちゃん、さっきの扉を出してよ。部屋が暖まるまで、向こうに行ってるから」

「少しくらい我慢しろよ」

「えー、いいじゃない」


『ロッジ』


 壁際に『ロッジ』の扉を召喚した。


「そうそう、入って左奥の扉はトイレだから」

「知ってる。でも、今はいいわ」


 そう言って、優子は扉の中に入っていった。

 どうやら、『ハーレム』に来る前にトイレの扉も開けて中を見たらしい。


 家の奥で扉を開く音がした。

 寝室から、おそらく母が出てきたのだろう。

 廊下を歩く音がする。


 ――ガチャ


 ネグリジェのような寝間着にカーディガンを羽織った母がリビングに入ってきた。


「おはよう、母さん」

「おはよう。早かったわね。優子は?」

「寒いからって、そこの扉に入ってるよ」

「フェリアさんを連れてきた扉よね?」

「うん、でも中にフェリアが入っていたわけじゃないよ。召喚するところを見られなくなかったから中で召喚しただけだし」


 いきなり甲冑姿の人間が現れたら驚くと思ったのだ。


「ねぇ? 朝ご飯はどうする?」

「食べる必要はないんだけど……サンドイッチとか、昨日のスープなんかは出せるけど?」

「ご飯、炊いてあるから。唐揚げも余っちゃってるし」


 僕がステーキを出したため、唐揚げがあまり売れなかったのだ。


「じゃあ、唐揚げとご飯で食べるよ。そうだ、食前にフルーツはどうかな?」

「いいわね。じゃあ、唐揚げをオーブンで温めるから、それまでフルーツを頂きましょう」


 母がキッチンのほうへ行った。

 僕は、『ロッジ』の扉を開けて中に入り優子を呼ぶ。


「そろそろご飯にするぞ」

「分かった」


 優子と一緒に『ロッジ』からリビングへ出た後、扉を閉めて帰還させた。


『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』『フルーツの盛り合わせ』


 僕は、テーブルの上に『フルーツの盛り合わせ』を4人分出した。


「あっ、美味しそう」


 優子がテーブルの席に座った。


「いっただっきまぁ~すっ!」


 間延びした挨拶をして食べ始めた。


「雄一、お父さん呼んできて」

「分かった」


 僕はリビングを出て、父と母の寝室へ行く。


 ――コンコン


「父さん、朝飯だよ」

「分かった。すぐ行く」


 扉の中から父がそう言ったのを確認してリビングに戻った。


「お兄ちゃん、このフルーツ、もっと頂戴」


『フルーツの盛り合わせ』


 僕は、食べ終わった食器を片付けてから、新しい『フルーツの盛り合わせ』を出してやった。


「ありがと。お兄ちゃん、大好きっ☆」

「いい歳して、それは止めろ……」

「あっ、引かないでよ! もう、ノリが悪いわねっ!」


 僕は優子の隣の席に座った。

 母もキッチンからこちらへやって来た。


「唐揚げは15分くらいかかるわ」


 うちでは、揚げ物を温め直すときは、少し時間がかかるがオーブンを使う。

 電子レンジに比べ、オーブンで温め直すと揚げ直したかのようになるためだ。


「母さんもフルーツ食べて」

「ええ、頂くわ」


 ――ガチャ


 父がリビングに入ってきた。

 甚平のような和服を着ている。

 父は、部屋着に何故か和服を好んだ。

 昔は、ジーンズなどの洋服を着ていたようだが、歳を取ってからはよく甚平を着ている。

 父は、今年で50歳になったはずだ。一つ違いの母も49歳になっているだろう。


「父さん、おはよう」

「お父さん、おはよ」

「おはよう」

「ご飯ができるまで、フルーツを食べてて」

「ああ、ありがとう」


 そう言って父は、僕の向かいの自分の席に座ってフルーツを食べ始めた。


 ◇ ◇ ◇


 全員が食べ終わったところで、食器を戻した。

 すると母がお茶を淹れてくれた。


 ――ピーッ! ピーッ! ピーッ!


 オーブンの加熱時間が終わったようだ。

 その音を聞いて、母がキッチンに移動した。


「あたしも手伝うわ」


 そう言って優子もキッチンに向かった。


 暫くして、昨日と同じ大皿に載った唐揚げと茶碗によそわれたご飯がテーブルに並んだ。


「いただきまーす」


 僕は、唐揚げをタルタルソースに付けて、ご飯と一緒に食べた――。


 ◇ ◇ ◇


「ちょっとコンビニ行ってくる」


 食事を終えた僕は、立ち上がって3人の家族にそう言った。


「アイス買ってきて」

「冬にアイスかよ……」

「別にいいじゃない」

「分かった。どんなのがいいんだ?」

「いちごバーがいい」

「了解」

「いってらっしゃい、気を付けてね」

「ああ」


 僕は、リビングを出て、玄関に向かった。


『装備5換装』


 玄関に降りて装備を換装し直した。

 それにより、靴が装備される。

 玄関の鍵を解錠して外に出た。

 そして、コンビニへ向かう。


 ◇ ◇ ◇


 コンビニは、一番近いところで、家から歩いて5分くらいの距離にあった。

 5分ほど歩いて、そのコンビニに到着した僕は、便箋と封筒、優子に頼まれたアイスクリームと暇つぶしに読むためのゲーム雑誌を買った。

 就職してからは、据え置き型ゲーム機では、最新ゲームをチェックしなくなっていたので、たまにはチェックしてみようと思ったのだ。

 最新ゲームをチェックするだけなら、インターネットのウェブサイトでもいいのだけど、たまには紙媒体で読んでみようと思ったのだ。

 とはいえ、紙媒体の雑誌はもはや絶滅危惧種と言っても良いだろう。意外としぶとく生き残っているという印象だ。

 同じ雑誌で電子版もあるので、そちらを購入して読むこともできるが、スマホの画面では少し読みづらいので紙媒体のほうがいい。


 僕は、支払いをスマホの電子マネーで済ませた。電子マネーは、電源を切った端末でも使えるのだ。

 コンビニを出て、来た道を戻る。


 ◇ ◇ ◇


 そして、5分ほどで家に着いた。

 玄関の扉を開けて、中に入る。


「ただいまー」


 念のため、玄関の鍵を掛けておく。

 靴を脱いで玄関から家の中へ上がり、リビングに向かった。


 ――ガチャ


 リビングの扉を開けた。


「あっ、お帰り。お兄ちゃん。アイス買ってきてくれた?」

「ああ、ほら」


 僕は優子にアイスを渡す。


「お帰り、雄一」

「お帰り」

「ただいま。じゃあ、二階で辞表を書いたり、明日の用意をしてくるよ」


 そう言って、廊下に戻り、階段を上がった。


 部屋に戻り、机に座って、辞表を書き始める。

 スマホのブラウザを起動して、以前チェックしておいたサイトを出す。


 その見本を見ながら便箋に退職届を書いた。印鑑を押す。

 便箋を折りたたんで封筒に入れた。

 封筒にも表に「退職届」というタイトルを入れ、裏に僕の所属部署と名前を書く。

 これでいいだろう。


 ガラケーを入れた袋と一緒に出張用のバッグに入れる。

 これを明日、課長に提出すれば、僕は晴れて無職の身だ。


 ――他に何か東京に持って行くものはあるだろうか?


 いや、特にないだろう。

 衣類などは、必要なら作ればいいし……。


 時間が空いたので、暇つぶしに買ったゲーム雑誌を読むことにした。


 僕は、コンビニで買ったゲーム雑誌を読み始めた――。


 ◇ ◇ ◇


 ゲーム雑誌には、取り立てて興味のある記事は載っていなかったが、じっくり読むことで1時間くらいは暇つぶしができた。


 部屋の時計を確認する。

 まだ10時過ぎだった。


 スマホのゲームで時間を潰そうかと思ったが、明日から暫く東京で暮らすのだから、家族と一緒に過ごしたほうがいいかもしれないと考え、リビングに行くことにした。

 僕は、立ち上がり、部屋を出てリビングに向かった。


 ――ガチャ


 リビングの扉を開けた。


「もう、終わったの?」

「うん。明日の準備は終わったよ」

「そう……」


 優子はテレビを視ていた。


「あっ、お兄ちゃん」

「父さんは?」

「書斎よ」

「そう」


 テーブルの席に座った。

 すると母がお茶を淹れてくれた。


 お茶を啜る。


「ふぅーっ」


 一息つく。


「明日には、東京に行っちゃうのね……」

「もう、お母さん、いい加減にして!」

「分かってるわ」


 母が僕を見た。


「お昼ご飯は、何がいい?」

「うーん、別に食べなくてもいいんだよね……食材が勿体なくない?」

「そうよ。お兄ちゃんに作ってもらいましょ。凄く美味しいし、手間も要らないんだから」

「でも、お金がかかるんでしょ?」

「微々たるものだから心配しなくていいよ」

「そう?」

「と言っても、もうあまりレパートリーが無いんだよね。あとは、サンドイッチくらいかな」

「あっ、いいじゃん。サンドイッチ。あたしは、お兄ちゃんの作ったサンドイッチを食べるね」

「分かった」


 ◇ ◇ ◇


 その後、昼食の時間になり、僕は家族に『サンドイッチセット』を振る舞った。

 優子には、特に好評だったようだ。


 そして、僕は夕飯を食べ終わるまでリビングで過ごした――。


―――――――――――――――――――――――――――――


【ナイトサイト】『ロッジ』


 夕飯の後、部屋に戻った僕は、部屋の明かりを点けずに壁際に『ロッジ』の扉を召喚した。

 中に入り、入り口の扉を『アイテムストレージ』に戻した。

 これで、優子が入ってくることもないだろう。


『フェリア召喚』『フェリス召喚』『ルート・ドライアード召喚』『ルート・ニンフ召喚』


 使い魔たちを召喚した。


「ご主人様」

「ご主人サマ」

主殿あるじどの

「旦那さま」


 白い光に包まれて使い魔たちが出現した。


『密談部屋3』


 壁際に『密談部屋3』の扉を召喚した。


「じゃあ、トロール討伐に行ってきて。向こうで全ての使い魔を召喚してから戦って」

「畏まりました」

「分かったわ」

「御意のままに」

「ええ」


 4人の使い魔が『密談部屋3』に入っていく。

 僕はそれを見送った。


【テレフォン】→『フェリア』


「フェリア、トロール討伐が終わったら連絡して」

「畏まりました」

「通信終わり」


 僕は【テレフォン】をオフにした。


 ◇ ◇ ◇


「ご主人様、終わりました」


 5分くらいが過ぎた頃にフェリアから連絡が来た。


【テレフォン】


「ありがとう、そのままそこで待機するように言って」

「ハッ!」

「通信終わり」


 僕は【テレフォン】をオフにして、『密談部屋3』の扉を開けて中を見る。

 裏口が出たままなのを確認して、『密談部屋3』の扉とルート・ドライアードを帰還させる。


『ルート・ドライアード帰還』


 続けて、フェリア、フェリス、ルート・ニンフも帰還させる。


『フェリア帰還』『フェリス帰還』『ルート・ニンフ帰還』


『密談部屋3』


 もう一度、『密談部屋3』の扉を召喚した。

 僕は、部屋の中を見て裏口の扉が壁になっているのを確認してから扉を閉じた。そして、『アイテムストレージ』へ戻す。ルート・ドライアードを帰還させたことで、裏口の扉も帰還したのだ。


『ロッジ』


『ロッジ』の扉を召喚して部屋に戻った。


 内ポケットからスマホを取り出して充電器にセットする。


『装備7換装』


 寝間着装備に換装して、下駄を脱ぐ。


 部屋の時計を確認すると、夜の10時前だった。

 特にすることがないので、布団に潜り込む。

 目を閉じて【ナイトサイト】をオフにする。


『8時間睡眠』


 僕は眠りに就いた――。


―――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る