第4話 -再会3-
第4話 -再会3-
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眠ったと思った瞬間に目が覚めた。
――むにゅ
体の両側が温かく、柔らかいものが押し当てられている。
「――――!?」
「ふふっ……可愛い……」
「あぁ……あるじどのぉ……」
どうやら、トロール退治から戻ったフェリスとルート・ドライアードが裸でベッドに潜り込んでいるようだ。
僕の左側にフェリス、右側にルート・ドライアードがくっついて寝ている。
それぞれ、僕の手を太ももに挟み込んでいた。手は、なんだかヌルヌルしている。
寝る前にシーツを替えたばかりなのに汚すのはマズい。
布団の中からは女性の香りがしていて、その生暖かい空気を嗅ぐと頭がクラクラしてくる。
【戦闘モード】
一瞬、【戦闘モード】を起動することで発情を抑えた。
「二人とも【エアプロテクション】を掛けるんだ」
「んっ、分かりましたわ」
「ぎ、御意っ……
【エアプロテクション】
僕も【エアプロテクション】を掛けた。
これで体液等は消えたと思う。
「起きるから、先にベッドから降りて」
「はいですわ」
「御意のままに」
二人がベッドから降りて部屋の中に立った。
裸のエルフとドライアードが自分の部屋で
『フェリスの装備6換装』『ルート・ドライアードの装備6換装』
二人をメイド服姿にした。一応、現代でも通じる服装だからだ。
そして、二人を帰還させる。
『フェリス帰還』『ルート・ドライアード帰還』
白い光に包まれて二人が消え去った。
机の上で充電していた会社から支給された携帯電話を手に取る。
電源ボタンを長押しして電源を入れてみると、凄い数のメールが着信した。
留守番電話サービスにもメッセージが入っているようだ。
携帯電話のデスクトップ上の時計を見ると【17:18】だった。
昼の12時過ぎから5時間寝たので、だいたい予想通りの時間だ。
『現在時刻』
異世界の時刻を確認してみると、【02:26】だった。
ざっと、9時間8分の時差があるようだ。異世界のほうがそれだけ進んでいる。或いは、15時間ほど遅れていることになる。
メールを確認してみると、大半が仕事関係のものだった。
僕が失踪した翌日に集中している。
今さら返信しても無駄なので件名だけチェックしていく。
優子や友人達からのメールもあった。
しかし、この携帯は近日中に会社に返すつもりなので、この携帯からの返信は避けたほうがいいだろう。
次に内蔵してあるメモリーカードに携帯電話のデータを全て移した。
メモリーカードを取り出す。
机の引き出しを開けて、メモリーカードのケースを取り出し、メモリーカードをケースに仕舞った。
そして、携帯電話の設定メニューを呼び出してデータを初期化する。
最後に電源ボタンを長押しして電源を切った。
ストラップ等も外しておく。
緩衝材で作られた袋に充電器と一緒に入れて机の上に置いた。この状態で返却すればいいだろう。
今度は、僕のスマートフォンを充電器から取り外した。
電源ボタンを長押しして電源を入れる。
指紋認証で起動できるか心配だったが、刻印を刻んでも指紋や掌紋などは元の人間のときと同じになっているのか問題なく起動した。こちらも起動するとメールが着信する。
メールクライアントを起動すると24件のメールが届いている。
家族や友人たちからのメールだ。家族――とりわけ妹の優子――からのメールが多い。
友人に返信しようかと思ったが、何をやっていたのかなど追求されるのが面倒なので、とりあえず今は放置した。
返信は、時間のあるときにすればいいだろう。
――会社に辞表を出さないとな……。
ブラウザを起ち上げて「辞表の書き方」をキーワードに検索をかけてみる。
最初にヒットしたサイトを見ると書き方が載っていたので、その状態のままブラウザを閉じておく。
便箋と封筒を買ってきてから改めて見ればいい。
『装備5換装』
装備を換装し直して上着を着る。玄関に脱いであった靴まで装備されたので、靴は脱いで部屋の隅に置いた。
上着の内ポケットに電源を切ったスマホを入れて部屋を出る。
廊下から階段へ移動して、階段を降りた。
リビングの扉を開けて中に入る。
母はリビングと繋がっているキッチンに居た。
夕飯の支度をしているようだ。
「あら? 早かったわね」
こちらに背を向けたまま母が話し掛けてきた。
「別に眠たくなかったし」
「そうなの? てっきり疲れてるのかと思った」
「そんな風に見えた?」
「いいえ。でも、異世界を放浪してたんでしょ?」
「いや、そんな感じでも無かったし。快適だったって言ったでしょ」
「本当だったのね」
そう言って、タオルで手を拭きながら、リビングのほうへ歩いてきた。
母は、凄く若返っていた。『女神の秘薬』を飲んで6時間くらいしか経っていないはずなのだが、別人のように若々しく見える。
「どうしたの?」
僕が驚いた顔で見ていたためか、母が問いかけてきた。
「いや、凄く若返ったなと思って」
「そう? でも、凄く体の調子が良くなったわ」
もしかすると、何か病気だったのかもしれない。
あのやつれ方は、心労だけが原因とは思えなかった。
「ここ数ヶ月の間に病院に行った?」
「なぁに? 雄一までお母さんを病人扱いするつもり?」
「優子にも言われたの?」
「ええ……。でも、もう大丈夫よ」
そう言えば、優子はまだ仕事だろうか?
「優子は、仕事?」
「今日は、土曜だから休みよ。友達と遊んでるのよ」
今日は土曜日だったらしい。
「クリスマスパーティとか?」
「そうじゃないみたい。買い物に行くと言ってたから」
「父さんは仕事?」
「ええ」
父、
「遅いね」
「補勤だったのよ。だから、7時前には帰ってくると思うわ」
父の勤める工場は、4交代制だ。この時代、AIの発達により完全な自動工場ばかりなので人が作業を行う必要はないが、生産管理などは人が交代勤務で行っているのだ。
僕が家に帰ったのは、昼前の10時過ぎくらいだったと思うので、そのときに居なくて今もまだ帰っていないということは、補勤で朝9時から夕方6時まで仕事だったということだろう。
交代勤務の補勤というのは、休んだ従業員の代わりに前後の人が長く勤務をすることだ。例えば、朝6時~昼12時までの勤務の人が体調不良などで休んだ場合、深夜0時~朝6時までの勤務の人の中で一人が9時まで勤務して、昼12時~夕方6時までの勤務の人の中の一人が9時から出ることで穴を埋めるのだ。
半世紀前は、重労働の3交代勤務でもこんなことをしていたらしい。大変な時代だったのだろう。
「はい、お茶」
「ありがと」
母がお茶を淹れてくれた。
茶菓子の入った盆も一緒に差し出す。
僕は、お茶を飲みながら、リビングでのんびりと過ごした――。
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