最終章

第25話 ノータ。

 男は狩りへ出かけた。今日は猟師仲間と遠出するらしい。

母さんは、身重な体で畑へと向かう。

 左手に下げられたカゴの中には、お昼用のリンゴ、干し肉、キャベツの瓶詰めが入れられている。


 いつもは見送らないノータだったが今朝は違った。窓から顔を出し声を掛ける。

「母さん、気を付けて行ってらっしゃい。転ばないでね」

少し驚いたように振り向いた母さんは、次の瞬間にっこり笑って手を振った。

 

 足元に来ていたパピをひとしきり撫でると、干し肉がたっぷりついた鹿の骨を与えた。大きな塊をくわえ、暖炉わきのラグに腰を落ち着けたパピを確認すると、コートをはおり家を出る。


 あいつは昨日、マスターにローズの炭置き小屋を貸してくれと言っていた。マスターは毛布を届けるとも。

 通りは静かで、誰に会うこともなかった。この時間、大人達は仕事場へ向かい、子供たちは学校へ向かう。


 そっと炭置き小屋に近付くにつれ、細く、くぐもった声が聞こえてくる。明りを取り入れるための円窓から中を覗くとノータは息を飲み目を見開いた。


何を、何を――。


 口に布をかまされ、両の目から大粒の涙す女の子が、後ざすりしながら細い声を上げ続けている。その足首をアリオが掴み乱暴に引き寄せると、もうほとんど全裸に近い小さな体に覆いかぶさり組み敷いた。


何を、何を――!


 建物の前に走り込み一気にドアを開け放つ。

 「離れなさい!」

 小屋に踏み入れ構え狙い撃つ、銃身が跳ね上がり肩から後頭部へ衝撃が走り壁へ叩きつけられる、銃が跳ね飛ばされた、と感じた途端首の根元をぐいと締め上げられ目の前には悪鬼の顔。

 苦しさに涙がこぼれる瞳を向けると、アリオの肩口から幾筋かの赤い血が。そして赤い口から唸り声と共に憎悪の言葉が向けられる。

 「ぶっ殺す」


 酸素を止めた気道が暴れ痙攣を引き起こし手足から力が抜けた。

 父さん、父さん……か、あさん……

 




 

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