第24話 撃てる。

 半分ほど入ったジョッキをかかげ、熊を思わせる風貌の猟師がふらり、帽子の男の前へ出た。

「よおアリオ、自分ばかり飲み食いしてねえで、ガキにも食わせてやれよ、高く売れる商品なんだろうがよ」

間違いない、やはりあいつがアリオなんだ。


「猟師ごときが俺の金に口を出すんじゃねえ」

「調子に乗るんじゃねえぞこの野郎がっ!」

殴りかかろうとする猟師の腕をマスターが止め叫び声をあげる。

「それをしまえアリオ!」


いつの間に帽子の男の手に握られた短銃が、黒い銃口を向けている。

鼻をならした猟師が赤い顔で割れ鐘のような声を出す。

「てめえよ、いつから人買いから人撃ちになったんだ?」

無表情だったアリオの右眉がぴくりと動く。

「港町で、パン屋の主人殺ったのはてめえだってもっぱらの噂だぜ」


アリオの赤く、薄い唇が左右に開き笑みの形をとる。

「だったらどうだってんだ。キツネだか鹿だか毎日殺りまくってる底辺のお前らに言われる筋合いはねえ。俺は殺っただけのことよ。第一おまえらのように金に換えてねえしな。くだらねえ噂話に付き合う暇はねんだよ」

短銃を懐にしまいながら、くつくつと喉の奥から絞り出された笑い声はこの上なく不快だった。


「ノータちゃん、遅くなってごめんね」

酒の入った瓶をマスターが渡してくれる。

震える手に黙って受け取ると代金を払い、ローズを出た。


頭に血が上り、全身が怒りに包まれる。

あいつあいつあいつ、父さんのことを一匹と。


もう何の迷いもない。

この手で確実に撃つ。

必ず、この手で撃つ。

私は、きっと撃てる。

そうだよね、父さん。


家に帰り、テーブルに酒瓶を置くと煮えたぎった頭を冷やすために外へ出た。

深く息を吸い、夜空を見上げ息を吐く。

意味もなくウロウロと動き回り、鶏小屋の前へ出た。


鶏達はみんな安らかな眠りについている。

小屋の周囲に仕掛けられたいくつかの罠は空っぽで、ノータは安堵した。


いつか、この場所で出会ったギンギツネのことを思い出す

やせ細り、私のすることを唸り声ひとつあげず見ていたあの子は、どうしているだろう。

一瞬だったけど、あの深い瞳はとても綺麗だった。











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