第18話 決心は。
どこをどう走ってきたかのか自分でもわからなかった。いつもの道が全く違う道に見え家々の明りも目に入らない。
勢いよく扉を開けテーブルの上に酒瓶を乱暴に置くと部屋へ入り、ピシャリとドアを閉める。
いつもなら、ドア向こうから聞こえる罵り喚き声に怯えるノータだったが、そんなことはどうでも良かった。
パピがドアを開けてとガリガリする音も耳に入らない。
ベットの下奥に隠しておいたリュックを取りだすと、中から父さんの物をひとつずつ取り出し、ベットの上に丁寧に並べてゆく。
父さんがパンを焼くときに使っていた手袋、レシピのアイディアを書き留めていたメモ帳、市場へ行く時のカバン、結婚した時に母さんに贈られたハンカチ、それから、父さんと母さんとノータの3人が笑顔でいる写真。
この4年の間に、父さんの香りもパンの香りも消えてしまったけれど、何よりも、何よりも大切なものだった。
そのレシピメモに大粒の涙が落ちて、字が滲んでゆく。
酒場で見聞きしたことを、母さんに話そうかどうか少し迷ってやめた。
今、母さんは男の子供、ノータの弟か妹をお腹に宿している。
その大切な命を、母さんに言ったことはないけれど、心の中でとても大切に思っていた。心配をかけるわけにはいかない。
家中が寝静まった深夜、眠らずに待っていたノータは、ベットからそっと足をおろす。男が使う銃の置き場所で、弾の保管場所を確認する。
どれもこれもノータの手には大きいものばかりだった。
手に取って構えてみる。
思ったより重くはなかった。
撃てないことはないような気がした。
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