第17話 人買い。
美しい夕暮れ時が終わると、深い暗闇の時間がやってくる。
空の酒瓶を胸に抱え、夜道を進み角をふたつほど曲がると、酒場の通りへ出る。店の名前はローズと言うらしいが、雨ざらしの古ぼけた看板の文字は薄れ読み取れない。
ぎぃ、と締まりの悪い扉をあけると真っ直ぐカウンターに進み、蝶ネクタイを結んだ顔の長いマスターに瓶を渡した。
カウンターには、男の猟師仲間達が5人並んで腰をかけ、ジョッキをかかげながら騒がしい笑い声をあげている。
マスターが客の注文をさばき、瓶に酒が満たされる間、ノータは窓際の席にすわってじっと待つ。
「今年はよお、3年ぶりに人買いのアリオが来るってよお」
「ガキを売って儲けるなんざ、いけ好かねえ野郎だぜ」
「あいつよ、何年か前に近頃物騒だからとか何とか、どこぞで買った短銃を見せびらかしたことあったろうよ?」
「嫌な野郎のことは覚えちゃいねえなあ」
「試し打ちで、殺っちまったらしいぜ」
聞いていた3人が一斉に噴き出した。
「20年山に入ってる俺らが当たらねえってのによお、ド素人の試し打ちが当たるかってーの」
「仕留めたのは鹿やキツネじゃねえ、人間だ。海の近くだったらしいぜ」
ほんの一瞬だけ、店内がしん、とした空気になる。
「まあ、ほんとかどうかわからねえけどな。マスター、お代わり!」
「こっちもお代わりだ、ダブルにしてくれ!」
喧騒が戻る中、マスターが液体で満たした瓶を手に握らせてくれた。いつもの通りポケットから硬貨を取り出し渡すノータの顔色は白く、その拳は固く握りられていた。
「大丈夫かい?」
マスターの声にはじかれるよう扉を押し開け飛び出した。
父さん父さん父さん!
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