第14話 共存と。

体力を使ったカンナへ、身になる食べ物を持って行ってやらねばならない。

春先のこの時期なら、水辺へと産卵に集まる魚もいいかもしれない。

浮き立つ思考に意識が集まり、背後を取られたことに気付くのが一瞬遅れた。


「よう、乳くせえおっさんよ」

ゆっくり振り向くと、知らない顔の赤ギツネが3匹、半円をじりじり詰めながらにじり寄ってくる。内心舌打ちをしながらギンは距離を取りながら穏やかに問いかける。

「どこからきた」

相手は動じない。

「この分なら、丸々と太った赤ん坊がふたつやみっつはいるなあ?え?」

真ん中がじりと前足をすすめる。

「子育てで忙しいんだろ?こっから谷まで俺らにわけてくんねえかなあ?」


縄張りの横取りか。

若造3匹、叩きのめすのは容易い、だが、3匹とも腹のあばらが浮いている。最初に会った頃のカンナのように。

「ここからは駄目だ。この先、2本先の沢から谷までならくれてやる」


「おいおっさん、俺らはこっからって言ってんだよ、気に入らねってんなら、巣穴の赤ん坊ごと頂いてもいいんだぜ?」

返事の代わりに跳躍し、真上から襲いかかり首筋に歯を立てる。ひと噛みで動脈をかき切れ気道を塞ぎ仕留められる位置でピタリと止まる。他の2匹が同時にかかってきても遅い。

「去れ」


気圧された3匹は、嫌な視線を投げかけながらも静かに歩み去っていった。

あいつらも苦労してきたに違いない。だが縄張りにはルールーがある。今回は大目に見たが状況によっては壊れるかもしれない。


壊れたらどうするか。

壊されたらどうするか。







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