第8話 一緒に。
若いきつねは一定の距離を取りながらついてくる。
ついては来るが警戒は外さないと言ったところか。いい心がけだ。
4匹のねずみを掘り出し抱え、ねぐらの奥へ入るとひたひたと聞こえてきた足音が止まった。
入り口で躊躇する気配が感じられる。
「入れよ」
一拍おいてそろりと、気配を抑えながら若いきつねが入ってきた。
「座れよ」」
おとなしくその場に腰をおろしたところへ、丸々と太った野ねずみを3匹押しやるとこちらを目でうかがってくる。
「あの、こんなにいいんですか」
改めて見ると、あばらの筋が見えるほど痩せている。まるであの頃の自分のようだ。4匹目も押しやる。
「まだ外に5匹は埋めてある、遠慮せず食え」
「いただきます」
3匹目を胃に収めたころ、多少腹が落ち着いたのか、若いきつねがこちらを真っすぐに見た。
「あの、後ろ足の傷は罠ですか」
ほう、食いながら観察してたって訳か。
「そうだ、よく気が付いたな」
「自分の親達が、その後ろ足の罠にかけられたから、同じような傷だから、そうかと思って。でもその罠にかかったら……」
「もう2年も前の話になる。ちょうどお前と同じぐらいの年の頃だ」
お互いの間を様々な思考と想いが流れ、押し黙る。
先に沈黙を破ったのはギンの方だった。
「おい若いの、もう1匹食っちまえよ。足りなけりゃ取ってくる」
「あの、自分はカンナと申します。ありがとうございます」
顔に出さなかったものの、仰天した。こいつ女だったのか。あまりにもやせ細っていて、てっきり自分と同じ男ぎつねと思っていた。
その後は、言葉らしい言葉も交わすことなく、静かに眠りについた。
明け方、妙な温かさを感じて目を覚ましたギンは、自分の背中にぴたりくっつくようにして眠るカンナを確認すると、誰かと一緒眠る心地よさを感じながら再び眠りに落ちる。
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