初版あとがき

 以上は、図書館に残っていた、ジャパリパークから人が消え去る前の歴史資料と、研究施設に残っていたメモとを編纂したものである。なぜ、ジャパリパークから人が消えたかは、これを読んだ読者であればお分かりいただけるだろう(といっても、これを読めるのはわれわれ梟だけなのだが)。

 われわれは初めて本を出版するにあたって、料理本ではなく敢えて歴史書を選んだ。料理本も非常に興味深く、出版が遅れるのは痛恨の極みだが、しかし、われわれにとって歴史は料理本よりも重要だと判断したのである。というのも、歴史は過去の総決算を意味すると同時に、未来の道標となるからだ。

 人は大きな過ちを犯した。サンドスターを完全に制御できているとの愚かな慢心が、自らの衰退・滅亡を招いたのである。もちろん、アダム・ハートといった賢明な人間も存在した。しかし、結局大勢を変えることは叶わなかった。人が招いた悲劇は、われわれ梟も肝に命じなければならない。

 なぜなら、われわれ梟も、もしかしたらいつか人の域にまで達するかもしれないからだ。サーバルが自身の力で紙飛行機を作ってしまったことからして、われわれにはわれわれ自身が今まで気づかなかった多くの可能性が秘められている。文字だけではなく、道具の使用すら可能になるかもしれないという事実は、われわれフレンズが人と同程度の文明をいつかは手に入れてしまうかもしれない可能性を示唆する。とすれば、人の失敗は先達せんだちの失敗として、重く胸に刻印せねばならない。


 人の文明はわれわれには眩しすぎる様に思われる。夜目に慣れたわれわれ梟にはあまりにもそれは眩しい。


 明るすぎる光には、常に深い影が伴う。


 いつか文明を手に入れる運命にわれわれがあるとしても、その際手に入れる文明は人と同じようなものであってはならないはずだ。酸性雨で枯れた豊かな山林。ビニール袋と釣り針が詰まったわれわれの同胞――光と共に影を生み出す文明をわれわれは拒絶しなければならない。さもなくば、われわれも遠い未来に人と同じように滅んでしまうだろう。

 最後に、この本を読んでくれた読者諸兄には読んでもらいたい手紙がある。それは、恐らくパークガイドをしていたであろう女性が残したものだと推察される。手紙には、人の傲慢さへの怒りとわれわれへの謝罪、そしてわれわれの前途を慮った言葉が書かれていた。

 どうか襟を正して読んで貰いたい。なぜなら、彼女らは万物の霊長に君臨していた、叡智のけものであったからである。彼女ら最後の賢者の遺言を、決して無碍にしてはならないだろう。

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