第22話 快楽の探求心
ワシは時空を超える快楽の根源が何処にあるのか、わからなかった。
酒を飲んで酔いが脳みそを麻痺させる感覚も自分を慰めて発散する行為も、あの感覚とは程遠い快楽だった。これらの行為は、人体の器官を刺激して脳に伝えて引き起こす快感であって、ワシにとっては、器官そのものが抵抗になっているようで快楽が半減しているようで気分が落ち着かなかった。
だが、ワシは玲奈の美しい顔が、たった一枚の皮膚を剥がすだけで化け物になる感動は自分の快感の中では、物凄く素晴らしかったし、マナミが生命から生ごみに変わる瞬間の感動もなんとも言えなかった。
玲奈やマナミに対する心情や嫉妬、胸に去来する様々な思いが直接、快感に繋がったと思うだけでワシの快楽の追求は間違っていなかったと確信する事ができた。
しかし、これでも視覚を通して物事を勝手に脳が判断している。この目すらも快楽の抵抗になっているのなら全然、追求できていない。
ワシは生きていて、あの感覚になれた事は人生の中でも誇りに思えるような体験であったし、この体験を後世にも伝えたいと思っている。その為には多少の犠牲は仕方がない。
ワシは脳みそに直接、刺激を与えて快楽を得る事ができないか模索をする事にした。最初は小動物の猫や犬で快楽を得るかどうかの実験がしたくなった。
幸いにも最後は婆さんという人間の脳みそで実験できるので、ワシは最高の環境で1年間は快楽の研究に専念できるのだ。
ワシは次の日から村で1番大きな図書館で文献を読み漁り、ノートにまとめる事にした。
しかし、図書館にいくと、その様式にワシは驚いた。適当に本を手に取り開くと白紙で何も書いていない。ついに目が悪くなったかと別の本を開いても白紙だ。これでは勉強などできるはずもないので受付の人に聞いてみる事にした。
「ここの本は全て白紙で勉強出来んのだが、何故じゃ?」
そう言うと受付の人は何やら書類と不思議な帽子のようなものを出してきた。
「はじめて、来館されるのですね。では、頭にこの帽子を被ってください。1時間ほどで頭の内部の海馬に電磁波で記憶装置の書き込みできるようになりますから」
ワシは言われるがままに帽子を被った。
「なんじゃ、これは怪しいのお。まあ、騙されたと思うて被るぞ」
10分ほどして受付の男は吹き出した。
「おじいさん、記憶容量、あと4.5ギガしかないですよ。普通の人で1テラはあるんですけど、よっぽど頭使われてないんですねえ」
ワシはこの失礼な若者の頭をカチ割ろうかと考えたが、ワシの頭が中身がわかるということは、今はワシの考えがわかるのではないかと邪推し苛立ちを抑えた。
「ワシは、そんなにアホなんかのお」
「そうですねえ。幼少期から定期的に知識を電磁波で海馬に直接送れば、こんな事にはならないのですが、おじいさんは珍しいですよ。これはもしかして、自分一人の力で勉強して得た知識しか入ってないような状態です。なんなら、今、会話できているのも不思議なくらいですよ」
ワシはなんだが、面と向かって褒められているのか馬鹿にされているのか分からなくなったが、この世界の人間が進んでいることは分かった。
待っている間に図書館での基本ルールを聞いて、どこにどの書物があるかも聞くことができた。
「ところで、なんで本はそのまま置いてあるのに中身は白紙なんじゃ?」
「ああ、あれは視覚的にどのくらいの量が入っているか確認できるようにするためですねえ。本なんて、今は読む人が少ないですから、もっぱら電磁波で脳に直接、送りますからね。昔の名残を少しでも残そうとして、あの形にしているのですよ」
ワシはなんだが、二千年前の書物が残っているか無性に気になって仕方なかった。
受付の男が書類にサインし一連の作業を終えた。
「おじいさん。多分これから、沢山の情報や知識を頭に入れることができるでしょう。だからと言って、あなた自身が賢くなった訳ではありません。これは人類の先祖が努力して紡いだ結晶です。犯罪や営利目的に使うのは自由ですが全て自己責任です。本当の頭の良さは自分で見つけてください」
そう言ってワシの頭から帽子を外した。
うるせえ、クソガキ。わしは二千年前のお前らの先祖だと思ったが、ここで騒ぐと色々、面倒なので医学用の本を探しに歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます