第21話 10万円のピアス
ワシはマナミの死に向き合いながら床に着くと熟睡してしまい起きたのは昼の1時。そこから、ぼーっと何も考えない時間が過ぎ去った。
少し、気持ちが落ち着いてきたので夕方の5時から古谷の家を監視し始めた。お通夜のようなモノが始まっており人だかりができていた。ワシはさっそうと駆け寄って中へ潜り込んだ。
「あんた、誰や」
いきなり、あのイカツイ親父が悲しげな顔で近づいてきた。奥さんの方を見ると、ただただ泣いていた。
ワシはあたふたする演技をしながら
「娘さんの最後を目の前で、たまたま見ておりまして、私の足元にピアスが散ったのです。私はそれを気が動転して拾いました。テレビをつけるとニュースになってて、持ってまいりました」
イカツイ親父はピアスをとろうとしたがワシは再びポケットにしまった。
「おい、ピアスをださんかい。何しとんなら、じじい」
ワシはピアスを自分の右耳につけて言い放った。
「あなたの娘さんのピアスは私のものです。娘さんの体がバラバラになる所を見せられてこちらは心的外傷ストレスになりかけているのです。その治療費用を請求したいくらいなのですが、私も鬼ではありません。このピアスを10万円で譲りましょう」
イカツイ男はワシの胸ぐらを掴み
「お前はこんな時にカネをたかりに来たんか。胸糞悪い」唾を吐き捨ててきた。
すると母は泣きながら香典の中身を開けて10万をかき集めていた。
「これで、これでマナミのピアスを返してください」そう言うと再び泣き崩れた。
ワシは10万円を受け取り、イカツイ親父に腹がたったので誤解を招くような発言をして地獄に叩き落としてやろうと思った。
「娘さん、最後に一緒にいた男の人と永遠の愛を誓うー。とかイタイ事言ってましたね。あんなアホな教育したあんたらはアホですわ」
そう言い残してワシは十万円を握りしめ、古谷の家を後にした。ワシにとって、マナミは、たった10万円にしかならなかった。彼女がバラバラになる瞬間、そこにある意識ある生命がそこら辺の生ゴミと同じ質感の物体に変化する瞬間に立ち会えて嬉しく思った。
この感動はガキの頃にしたカエルの解剖以来の貴重な体験となった。ワシはその足で爬虫類ショップへ行き大蛇を二匹購入した。
家に帰り、蛇の頭を釘で刺して固定し二匹の蛇を絡ませあい、しめ縄を作った。その絡み具合がマナミと男の絡み具合にそっくりだったので、死ぬまでそのまま放置してワシは床に着いた。
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