第19話 爺さんのお世話

夕方頃になると彼女がタイムマシンの所へやってきた。


「おう、上がれ。」ワシは娘を家に上げた。


娘はぎこちない足取りで椅子に座って一息ついた。


「おい、そんな不安にならんでええ。なんか、飲みたいもんあるか?」


「いえ、いいです」


「遠慮はいけんぞ。若いもんはたくさん飲んで大きいならんと」ワシはココアをカップに注いだ。


「あの、お婆さんは本当に死んじゃったの?まだ、その、助かるというか、病院は」


「婆さんは今頃、ワシの知り合いのじじいに頼んどる」


娘は一瞬だけエクボをつくり「お婆さんは生きてるの?」と間髪入れず聞いてきた。


ワシは首を横に振り「いや、知り合いの所の焼却炉で今頃は炭になって天国じゃろうなあ」


娘は元の顔に戻り、下を向いて喋らなくなった。


「まあ、気にするな。ワシが何とかしてバレんようにするから、お前は3ヶ月、黙って世話をしてくれたらええ。ところで、お前は名前をなんていう」


「マナミ」


「マナミか。ええ名前じゃのお。親父やお袋はなんの仕事しとるんじゃ」娘はワシに目を合わせる事はなく、心を閉ざしてるようだった。しばらくして口を開いた。


「お、お父さんは歯医者。お母さんはパートしてる」


「そうかあ。バレたら全部やめんといかん。あの家も住めんようになるし、しまいには人間やめたほうが楽になるかもしれんぞ」


「そ、そんな事より世話って何をするの?」


「おう、世話っていうかな。爺さんは金がないんじゃ。ほんで、婆さんの介護しとると、もう気が狂いそうでな。ワシの心臓にも病気があるし働けんのじゃ。でも、婆さんはワシの手で殺せんかった。殺したのは、お前じゃけんのお」


娘は反論したげな表情を浮かべたが唇を噛み締めこらえていた。ワシは立ち上がり靴を履いた。


「ワシには金がいる。今から電車行くぞ」


「で、電車。なんで」


「とりあえず、お前は知らん親父の近く行ってポケットに手を入れろ。ほんで、掴まれたら思いっきり叫べ」


娘はここでようやく強く反論した。


「できないよ。犯罪はさせないって言ったじゃん」


「犯罪ではない。お前の素肌に触れるだけで価値がある。示談の形にして金をもらう。その金で婆さんの焼却炉代金に充てんと、このままだとワシらも殺人者として捕まるになる。人を殺したことを隠すには金がかかる」


娘は良心の呵責に押しつぶされそうになっていた。


「金とるって悪い事だし、その人の人生までくるわせちゃう。できないよ」


「示談にしたら事件には、ならん。警察にも通さないから人生に影響はない。貰うた金は焼却炉代に充てるけど後でお前が社会人になって払いに行けばええ。それでええがな」


しばらく娘は考え込んだが、爺さんの言う事に従い近くの駅まで歩いた。

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