第16話 爺さんのお礼
ワシはこの世界に来て、金も名誉も女も若さもない。
たとえ虚構の世界だとしても、あまりにも虚しいではないか。
だから、ワシは今までいた世界とは違う人生をこの世界で送ろうと思う。まずは女と金だ。次に名誉、最後に、あの快楽だ。
目的を完遂させるには古谷の家から金品の強奪と家族の内部に入り込む計画を考える必要がある。そこで、ワシは古谷一家の娘にターゲットを絞り、蝕む事を考えた。
結果的にワシはうまくいくかは分からんが深夜に思考した計画を実行した。
早朝、ワシはランニングする老人のふりをして古谷の家の周りをグルグルとまわっていた。
「行ってきまーす」
元気な女の子の爽やかな朝の声が聞こえてきた。
ガチャンと自転車の鍵を外し玄関からでてきた。女の子はワシの150メートル後ろを自転車で来ている。感覚的なものだが徐々にワシの横にまで迫ってくる感覚がした。
「う、ううう」ワシは胸を押さえ倒れこんだ。
キーと自転車が止まる音がした。
「大丈夫ですか?具合悪いんですか」
古谷の娘はワシに心配の視線を送っている。
「う、胸がが。お嬢さん、少しばかり背中をさすってくれんか。苦しい。ハァハァ」
古谷の娘は深刻な顔をして膝をついて爺さんの背中をさすった。
「病院!救急車よばなきゃ」
ワシは苦しそうな顔をしながら「いや、これは発作なんじゃ、家にある薬を忘れてきてしもうた。家まで連れて行ってもらえんか」
古谷の娘はえらく動揺して、おじいさんの肩を持ち一歩一歩、墜落したタイムマシンまで歩くことになった。タイムマシンのある雑木林までいくには、ここから2キロほどかかる。ワシは若い娘の素肌や柔らかさを堪能しながら苦しい演技をした。
タイムマシンに着くとワシは急いで家に入り薬を飲むふりをした。娘は心配そうに声をかけてきた。
「おじいちゃん、大丈夫?」
「ハァ、ハァ。だいぶ楽になった。お嬢さん、ありがとう。とても助かったよ。学校には私からお礼の電話を入れておくから心配しなくてもいい。お礼と言ってはなんだが、ジュースを飲んでいきなさい」
娘は心配から安堵の表情に変わった。
「良かったあ。とても苦しそうだったから」
ワシはタッチパネルを渡して好きなジュースを押すように促した。娘は家の中を見渡しながらオレンジジュースを押した。
「この家、変わった形してるね。おじいちゃん、ここで暮らしてるの?」
ワシは娘の背後に回り「そうだよ。年金で買ったんだ。キャンピングカーみたいなものだよ」
「キャンピングカー?なんか秘密基地みたいだね」
ワシはグラスを二つ手に取り、テーブルの上に置いた。
「ねえねえ、あの四角い布はなんなの?」
ワシは呟いた
「ジュースは何リットル欲しい?」
「え?」
ワシは娘を後ろから抱きかかえ手首と足首をロープで縛り椅子に座らせた。
「別に君に手荒な事をしたいんじゃない、君はワシのプライバシーに入り込んで来すぎた。しかし、命の恩人であることには変わりない。さあ、このタッチパネルのアイコンから好きなジュースを選びなさい」
娘は怯えながら、もう一度オレンジジュースを押した。今度は舌で。
バサっ。
すると爺さんは四角い布をはがした。
娘は驚いた。
そこには老女の口にホースが繋がれている。
「う。うげえあえ」
婆さんの食道にオレンジジュースが流れ込んだ。
娘は驚き「なにこれ。死ぬよ。なんでこんなことになってるの」とパニックに陥った。
「君が2回も押したから20リットルのオレンジジュースが入っているよ。これは殺人なんかじゃないよ。ろ過だよ」
ワシはおばあさんが吐き出したオレンジジュースをグラスに拾い上げ飲み干した。
「おいしい。君も飲むかい」ワシはもう一杯拾い上げた。
娘は怯えつぶやいた。
「狂ってる」
婆さんの目玉は真っ赤になり、顔は腫れ上がれ真っ赤になって痙攣した。
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