第14話 初めての村役場
早朝、村へ繰り出すと意外と活気があり普通の現代と変わらぬ街並みになっていた。今思うと、なぜあんな沼地で田畑を耕していたのか、アホらしくなってきた。
この世界は、現代より劣っている世界だと決めつけて、たまたま優しくしてくれた玲奈に寄生していた事に気付かされた。玲奈の家から持ってきた地図に沿って村役場を目指すと、それはもう大きな役所だ。ここの世界では村という感覚が現代でいう県クラスの規模だと感じた。
この建物は村役場というより県庁より大きいくらいだ。しかも、周りはスーツを着ている人間やランドセルを背負う人間、現代となんら変わりない。ワシと婆さんは、この世界に来て玲奈しか、接していないから玲奈が標準として考えてしまっていたのだ。
そう思うと、ますます玲奈に対して憎悪が沸いた。
村役場に入ると〇〇課と何個もあり、そこに用がある人は行けばいいらしい。ワシは自分の子孫、孫の孫の孫の孫の家を訪ねるべく、住民課と書かれたところへ行くと綺麗なお姉さんが出迎えてくれた。
「すみません。ちょっと、お聞きしたいのじゃけど、古谷という人の家を訪ねたいんじゃが。道に迷ってしもうてなあ」
お姉さんは笑顔で「どうされましたか?古谷さんですか。下の名前とかわかりますか?」
「えーと、マモル、いやタダシだったかな。遠い親類のもので名前が思い出せんのお」ワシは適当に名前を出して誤魔化した。
「とりあえず、検索してみますね」お姉さんは薄い紙の上に筆を走らせ検索している。
全く、この国の個人情報の取り扱いはどうなってんだと思いつつ、椅子に腰を掛けた。お姉さんは薄い紙から映像を映し出している。
「6件ほどありますけど、地図とかコピーしましょうか?」
「あ、はあ。お願いします」お姉さんはコピーした住所の記録を映像記録装置にコピーして渡してくれた。
「この薄いカードはどうつかうんじゃ?」
お姉さんは笑顔で「おじいちゃん、こんな事もしらないの?これはね、映像を記録していて、それを立体的に映し出すのよ。ほら、このボタン押してみて。」
カードのボタンを押すと10センチほどの立方体が現れてその中に景色がある。
「その景色に触れてごらん。そうすると行きたいところに進めるから。ね!とりあえず、矢印の進む方向に行けば6件の古谷さんの家に着くわよ」お姉さんは笑顔で優しい。
「ありがとうございます。これタダでもろうてええんか?」「もちろん。いいわよ」ワシは嬉しくなったので、お姉さんにお礼をしてあげる事にした。
「タダでもらうというのは気がひける。お姉さんに何かお礼をしたい。そうだ、手相を見てあげましょう。こう見えても占いは得意なんですよ」
お姉さんは優しく微笑み「本当ですか、ならお言葉に甘えて」そう言って左手を出してきた。
ワシは久しぶりに女の手に触れることができると観察した。柔らかくて暖かい。ワシには占いの経験などない。
「おお、あなたは今年、少し病気を患うかもしれませんな。だけど、それを乗り越えると良きパートナーと巡り合えますぞ」
「本当ですか、病気しちゃうんですかあ。でも、大したことないんですね」
「大した病気ではなさそうじゃが念のため、おまじないの水を振りかけてあげよう。少し目をつむってください。」
そう言ってワシは例のスプレー缶のダイヤルを大に回して、お姉さんの顔にに振りかけた。お姉さんは目を開けると笑顔でお礼を言ってきた。ワシは人にいいことするって素晴らしいなと思いつつ、村役場を後にした。
子孫であろう古谷の家に向かう途中ふと気づいたが、スプレー缶のダイヤルは水ではなく放射線となっていた。ああ、彼女はワシの占い通り、今年大病を患うかもしれんのうと思いながら1件目の古谷さんの家へ向かうことにした。
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