第13話 試作機の装備品

あの事件から一夜明けても婆さんは放心状態で壁に寄りかかっている。


ワシはタイムマシンの内部をくまなく調べた。すると、タッチパネルにいくつかのアイコンがある。ツールと書かれているアイコンをタッチすると床が開き四角い箱がでてきた。

こんなものが装備されているなら墜落したときに、もっと調べておけば良かった。箱を開けると缶に入ったスプレーと円型の缶が一つ。スプレーは水と放射線と書かれている。大中小の強さ別に調整できるようになっている。


 タッチパネルの説明によると水は空気中の水素を缶の内部で酸素と結合させて水を発生させ、放射線は缶の内部で小さな核融合を起こして放射線を生成する仕組みだ。円型の缶に入ったクリームは体に直接、塗る事で半永久的に放射線の影響を受ける事なく暮らすことができる。

 さっそく、ワシは全身にくまなくクリームを塗りたくり婆さんにも塗ってあげようかと思ったけど放心状態だったので、そっとしておいた。


 ワシは、まだ一度も鬼や村人を見た事がない。玲奈が怯えていた村人と鬼が気になる。とりあえず、村人の所へ行って情報を仕入れるとしよう。婆さんはタイムマシンに軟禁して勝手な行動を起こさせないようにしなければならない。


 とりあえず、腹が減ったので、フードのアイコンを押すと好きな食事の画像がどんどん、でてきた。試しにハンバーガーを押すと、またしても床が開き四角い箱が表れた。ふたを開けるとハンバーガーだ。タッチパネルには1年間の食糧備蓄リストと書かれてある。


 ワシは大日本電機工業に感謝して、この虚構の世界を思う存分楽しむ事にした。


 その日の夜、ワシは寝ている婆さんの手首と足首をロープで縛った。婆さんは目が覚めてワシをハッとした顔で見た。ワシは躊躇なく縛り上げ、口に水で濡らしたハンカチを詰め込んだ。そして、口元をグルグル巻きにして、婆さんの行動をワシの管理下に置く事に成功した。


 ワシは婆さんに優しく語りかけた。


「ワシはこんな事したくはなかった。じゃけど、お前は賢い。賢いゆえに村へ降りて行動するだろう。そうなるとお前だけでなく俺も裁かれる可能性がある。お前が自分のやった事を思い出すまでロープを取る事はできないし、口元のハンカチも取らない。思い出せば元の状態に戻してやる。それまでは食事も水分も肛門から摂取してもらう。これはお前のためなんじゃ。玲奈は今、火傷で苦しんどる。だが、お前は忘れたと言ってシラを切っておる。ワシにはわかる。35年もお前と一緒にいたからな。苦しい事も修行と思え。そうすれば必ず、あの事を思い出す」



婆さんは体をくねらせて精一杯暴れていたが、やがて力尽き、これからの絶望を悟ったか目を閉じ、静かになった。ワシはタイムマシンのツールを装備して村へ繰り出す計画を立てて就寝した。

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