第11話 爺さんの思惑

ワシは婆さんをおんぶして途中から引きずってタイムマシンの所までたどり着いた。


 ワシの奇行に婆さんは気絶、ワシも自分の行動に少しだけ驚いたが、たいしたことではない。ワシはこの世界は大日本電機工業が作ったアトラクションだと思っている。なぜなら、時空を越える前に装着しろと言われたサングラスをワシはこっそり外したのだ。


 いや、あれは耳が性感帯のワシが感じすぎて暴れた結果、外れちゃったのだが。外れた時に目の当たりにした光景をワシは今でもしっかりおぼえている。あれは辺りが一瞬で暗くなり、そこから、色のついた一個一個の点と点の集まりが再び目の前に現れてきて立体的に世界を構築していた。あの光景を観た時、ワシの頭にはピシッピシッと何かが通過したような鈍い感覚が脳を刺激したが、それと同時に今までに感じたことのないような高揚感と満足感に包まれた。


 そして、ここへたどり着いてからというもの住むところも食うものもみずほらしく働くのが苦痛でしかない。早くあの快感をもう一度味わいたいと体の芯から欲している自分がいた。ある出来事でワシは玲奈に異常なまでの憎悪を抱くようになった。


 玲奈の田んぼで働きだして3ヶ月した頃に婆さんと聡が山へ椎茸を取りに行っている時にワシは欲求に負けてご飯を炊く準備をする玲奈を口説いて尻を触った。


「やめてください。何考えてるんですか?」

パチンとワシの頬をぶった。


ぶった...


 玲奈は唇を震わせて「ほんとにやめてください。次、もしこんなことがあったら出て行ってください。」腰を抜かしながら爺さんを見つめた。


 ワシはその日から玲奈との会話は最小限となったが玲奈に対する不信感、嫉妬、憎悪が日に日に増大して自分を自分と認識するのもままならないほど脳は快楽を欲していた。ワシは嫉妬した、玲奈は美しいし若いし男にもモテて快楽に溺れ、悪い男に捕まれば不幸せになると考えた。


なら、玲奈の顔が醜くなれば快楽にも溺れないし悪い男も寄ってこないし、そうなったとしてもワシは愛せる自信がある。ワシには老ぼれのババアと老犬が一匹、しかも、この世界は大日本電機工業の作った偽物の世界だ。ワシは死ぬ前に最高の快楽を体験する権利を有しているのだ。



 この感情が爆発したのが稲刈りの収穫日である。しかし、玲奈を醜くしても大した高揚感も満足感も得ることができなかった。


 その時に俺は絶望したのだ。あの時空を超えてきた時にサングラスを取って得た満足感を味わう事は2度とできないのだろうかと。



今夜はタイムマシンの横で焚き火をしながら気絶した婆さんの面倒を見た。ああ、婆さんになんて説明したらよいだろうか。

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