第9話 幸せのひと時

次の日、爺さんと婆さんは朝早くから玲奈の小さな田畑を耕し稲や野菜を育てる事にした。


「朝早くから、元気ですねぇ。ゆっくり働いてくださいね」と玲奈がクワと水の入ったヤカンをもってきた。


「わしは前の世界でもコメを育てとったから体力には自信があるんじゃ。まあ、居候の身じゃし、働かんと気持ち悪いわ」爺さんはひたすら耕して、野菜の種や肥料を蒔いた。ポチも自分の糞尿を田畑に撒き散らして土の栄養補給を促した。


すると、聡が目を覚まし手伝いに来た。爺さんは玲奈と聡の容姿を改めて見て思った。玲奈の歳は28ほどで顔立ちは眉毛は薄く、目は二重で鼻は高く、唇は薄い。スタイルも良く、俺にもチャンスがあればぜひ抱きたいと思える美人だった。


昔、剣道をしていたらしく手足は長く色白で美しい。聡は4つか5つのガキでオカッパ、これといって特徴はまだなさそうだ。



 そして、後ろを振り返り、じっくりと見つめた。自分の妻も歳はとり腰を曲げて働いている姿、隣で糞を撒き散らしながら走っているポチをみて切ない気持ちになったが、自分の手の甲をみて一本一本、シワをみるたびに自分も哀れだと思いなんだか気分がイライラしてきた。


 夕方を過ぎた頃、玲奈がコップに水を注ぎ一気飲みをして又、水を注ぎ爺さんと婆さん、聡に渡した。

朝から夕方まで働き、少ない麦と米を食べて漬物をかじり2ヶ月ほど経過した。すると青々とした稲の苗が育ち始めた。


 「ここまで作るのに長かったけど、収穫までまだまだあるわね」と婆さんはにっこりと微笑みながら水をやった。玲奈は苗の害虫を一匹一匹駆除しながらつぶやいた。


 「おじいさんとおばあさんのおかげで、稲も育って来年からはもっとお米も食べれて聡もきっと喜ぶと思います」


 この言葉を聞いて、婆さんは自分は元の世界に帰れないのかもとおもいながらも、この生活に馴染んでいることを受け入れようとした。


「おーい、田畑に水を流しこんで耕して一本一本田植えするぞおお〜」と爺さんの叫び声が聞こえた。爺さんも婆さんも玲奈も聡もポチも来年の米を食べるために必死に田植えをした。



そして、夏になる頃には稲の背丈は聡よりも大きくなる勢いで成長して爺さんは水の管理を毎日行った。玲奈と婆さんは内職で裁縫をして細々と生活費を稼ぎ、爺さんと婆さんにとっては少し貧乏ではあるが、ゆったりと時間が流れていて心地よくなっていた。



日々を積み重ねて10月の頭には黄金の稲が頭をさげて収穫の季節が近づいて来た。収穫前日の晩に爺さんは


「明日は待望の収穫日であります。

今日はしっかり美味いものを食べて明日に備えてしっかり寝ましょう」


といって酒とご飯をみんなで食べた。ここで稲を育てた仲間達はいつも通り平和で幸せな日々を噛み締めていた。

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