第8話 時空を超える試作機 5
その夜、子供が寝静まった後に母親が部屋にやってきた。
「あのぉ、どうですか。元いた場所に帰れそうならいいのですけど...」ドアを開けたまま、しゃべるのでスキマ風が寒い。どうやら、この人達は寒さに強いらしい。
「いやぁ、まだ帰れる目処は立ってないから困ってます。ところでも名前を聞いてもええかな」母は床に正座をして戸を閉めながら「申し遅れました。渡部玲奈といいます。あの子は息子の聡です」爺さんはタバコを吹かしながら質問した。
「ほぉ。二人暮らしですか。生活も大変でしょう」玲奈は顔を下に向け呟いた。
「主人は四年前の戦で死にました」「おお、聞いてはならん事を聞いてしもうたな。すまん」「爺さんはデリカシーないから、気をつけてよ」婆さんが爺さんを注意すると玲奈は頼みがあると切り出してきた。「主人は鬼との戦いに敗れ、首と胴体、四肢を切断され村の至る所に晒され私達、人間はこのような沼地の近くに住むことになったのです」
「鬼とな?聞いた事ないが、どんな姿をしとるんじゃ」
「鬼は額に一本の角が生え、筋骨隆々で人間をゴキブリのように平気で殺すのです」
母は興奮しながら期待をよせているようだった。
「恐ろしいな。だが、ワシらは今日、辿り着いたばっかりで明日の寝床すらままならんのだ」
「あなたがたは過去から来たのでしょう。私達より遥かに文明が進んでいて、どこかで文明が消えてしまい今は伝説として語り継がれた事しか分かりませんが、大日本帝国が大きな城を海に浮かべて日本を天狗から守っていたと聞きました。しかし、空から小さな太陽が爆発して文明は途絶え、今のような世界になったと」
爺さんは首を横に振り答えた。「いや、違う。あの時は人間と人間が戦って大日本帝国は敗北した。しかし、そこから残された日本人は奮起し国の再興を果たして、文明も科学も物凄く発達した。確かに人類は小さな太陽を作った。偉大な事でもあるが、たくさんの人も亡くなった。次に横に居る妻がブラックホールを生成した。その技術を使ってワシらはここへきたんじゃ」
なぜか、爺さんがドヤ顔で説明した。
「私達はどちらにしても生きる希望を失っておりました。ですから、あなたがたとお会いして、何か変えてくれるのではないかと勝手に期待をしてしまいました。すみません...」
しばらく、3人は黙り込んだ。「私は鬼の事はよくわからないけど、とりあえず此処にいる間は玲奈さんの手伝いをさせてもらおうかな」
「いいのですね。お願いします。この部屋お好きに使ったください。あと、聡に学問を教えてあげてもらえませんか」婆さんと爺さんは快く引き受けて、しばらくこの玲奈に世話になることにした。
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