第6話 時空を超える試作機 3
次の日、私達は大日本電機工業本社ビルの前に来た。ワンワン!ポチが尻尾を振りながら爺さんの足に頬をスリスリしている。受付を済ませて、10分ほど待合室で待つこととなった。
「いやあ、さすがに本社はデカイな」
「そうねぇ。日本を代表する電機メーカーだものね」シーーー!ポチが爺さんの足元で小便を垂らして尻尾を振っている。
「おお、トイレに行きたかったんか。よしよし、今からタオルもらってくるからなあ」爺さんは犬を連れて受付へ行き、受付の女の子に犬を預かってもらった。 少ししてから専務理事が数人の部下を引き連れてやってきた。
「大変お待たせしました。本日はお越しいただきありがとうございます。では早速こちらへ」 私達は馬鹿でかいエレベーターにのり3階、5階、9階、2階、5階と部下がエレベーターのボタンを連打した。私が不思議そうな顔をすると専務理事は微笑むように語りかけてきた。
「不思議に思われるかもしれませんが、パスワードみたいなもので、この通りにボタンを押さないと時空を超える試作機の研究室には行けないようにしてるのです」そうこうしているうちに研究室の前につき私と爺さんは不安と期待に心を躍らせながら入室した。
何人もの人がひっきりなしに出たり入ったり、せわしなく動いていて圧倒されたが、すぐに慣れた。専務理事が歩きながら部下に指示を出し何やらゴーグルの様な物を渡してきた。
「試作機に乗る時は必ず、これを着用してください」私はなんの疑いもなく、それを装着した。厳重なドアのロックを解除し煙が少し出てきた。
「おお、煙がでとるのお。映画みたいで迫力がある」爺さんは感心しながらゴーグル越しに煙の中にあるものを覗いた。
「ええ。これはドライアイスの演出です。驚いて貰おうと思って私からのサプライズです」専務理事は笑顔で自らの演出をアピールしてきた。中にあるのは球体の乗り物に羽根が生えた様なちっぽけなものだった。
「これが時空を超える試作機なんですね」私はマジマジと見つめながら少しずつ興奮してきた。
「そうです。デザインはダサいですが、まだ試作機の段階ですので、あまり気になさらず」 専務理事は試作機のドアを開け案内した。私達が乗ると機体はグラグラの揺れて、やがて静まり返った。
「どうです。いきなりですが、体験として軽く未来へ行ってみますか」専務理事はダイヤルをいじりながらタッチパネルに何やら文字を打ち込んでいる。
「このダイヤルで行きたい年月まで進むことができます。帰りは私達が迎えに行くので、このダイヤルはいじらないでください。あと、もし不具合があればタッチパネルに赤いボタンがあるので、それを押してください」「本当に未来へ行って帰れるのですか?」
「ええ、もちろんです。実験も何度も成功しております」すると爺さんは言いづらそうに「ポチも連れて行ってええか。せっかく連れてきたんじゃから。ええよな」専務理事は少し考え
「ええ、いいですけど未来で逃してはダメですよ。捜索するのに、かなりの手間がかかりますから」
「わかった。ポチを連れてきてくれ」5分くらいしてポチが機体の中へ入ってきた。
相変わらずヨダレを垂らしながら爺さんの耳を舐めている。一通りの説明を終えて専務理事は機体から降りて部下に指示を出して、私達に笑顔で手を振ってきた。私とおじいさんも手を振っていると機体が徐々に揺れてきだした。
「あ、あう」
その時、爺さんの感じる声が聞こえた。爺さんはポチに耳を舐められたのと機体の振動のシンクロで気持ちよくなってしまい、体がよろけた。何かにつかまった時、そこにはダイヤルがあった。ダイヤルを全開に回した爺さんは至福の笑顔を浮かべ、機体は遥か未来へと飛ばされてしまった。
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