第5話 時空を超える試作機 2

「ワンワン、ガルルル 」


 朝から愛犬のポチが吠えている。私は何かあったのかと急いで玄関から外を覗いた。すると、じいさんがポチの首にしめ縄をかけていた。


「じいさん、ポチが嫌がっとるで。縁起物いうても散歩の時に首輪にしめ縄つけるのはよしなさいよ」 じいさんは聞く耳を持たず犬の首にしめ縄を装着した。


「かっこいいし縁起物じゃ。この子は犬の中でも横綱級にかわいいんじゃ。公民館で大会あるけん。いってくるけど、町内掃除、頼んだぞ!」



 じいさんとポチは尻尾を振りながら公民館へ走っていった。私は昔からじいさんは変わらんなぁとしみじみ思いながら町内の草むしりに参加して汗を流しながら近所のお隣さんと談笑した。家に帰ると記者がいて少しだけインタビューに答えて家でまったりと煎餅とお茶を飲んで過ごしていた。


 ふと、テレビの上にある写真を見て子供の事を考えた。大阪の電機メーカーで働いている息子や、じいさんの紹介で見合い結婚した娘に時空を超える前に家族団欒、お寿司でも食べて、くつろげたらなぁ..。


ハッハッ!ワンワン! じいさんとポチが帰ってきた。

 「ダメだったわ。相手が3枚しか歩がないと思ったら隠しとったわ。ああ、悔しいのお。また、来年も挑戦さんといけん」


  また負けたのかと内心では笑ってしまった。

「そうね。惜しかったんですね。町内掃除も大変だったわよ、夕飯の支度も終わったので食べましょうか」


 私がご飯をよそっていると、じいさんはポチのしめ縄を外して仏壇に飾って拝んでいた。 じいさんは昔からしめ縄や横綱、しゃもじ、七福神などの縁起物が大好きで家に飾りが溢れかえっている。一度、なんでこんなものを集めるのと聞いたことがあったけど、「特に意味はない。これを買えば幸せになるなら買う。それだけだ」とかっこつけていたけど私から見るとガラクタのようにしかみえない。



 けれど、どこか爺さんの優しさを感じることができた気がする。おかずの生姜焼きを口に入れ明日の事について真剣に話すことにした。


「じいさん、明日は時空を超える体験ができるけど、どこか行きたい所はある?」


「なあ、思うのだけど。それは仮想体験か何かの間違いだろう。未来や過去に行ける技術が開発されたとは思えないし失敗したらどうするんだ?ワシはそこまで信用してない」

 真面目に喋るじいさんが久々で少々、驚いた。


「でも、こんなチャンス二度とないし未来へ行ってみたいと思うの。どうかなあ」

「まあ、そうだな。すぐ帰ってこれるのなら。それでいい」そして、私はテレビのリモコンをつけて、じいさんとバラエティ番組でケタケタと笑って1日を終えた。

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