第4話 時空を超える試作機

 プルプルプルと据え置き電話が震えている。「はい、もしもし」私は受話器を手に取り、何かのセールスなら断ろうとしていた。


「失礼致します。古谷里穂様はいらっしゃいますでしょうか。」

「はい、私ですけど...」

「先ほど、ノーベル賞の結果発表があったのですが古谷様は授賞されましたよ」


私は詐欺か何かだと思い、切ろうとした所、電話口の男は興奮気味に「ご自宅に沢山の記者もおられるでしょう。是非、インタビューに答えてあげてください。あなたは日本の名誉です」



 私はこの電話口の向こうで1人盛り上がっている男に嫌悪感を抱きながらも受け答えをした。

「記者は10年も前から候補に上がるたびに家に来て迷惑なんですよ。それにあなたは誰なんですか?名前を名乗らないのは失礼です」


男は急に改まって「申し遅れました。私は大日本電機工業、専務理事の山本と申します。是非、お願いしたい事がありまして御電話差し上げた次第でございます」


「はぁ。ご用件は何でしょうか?」 


 すると、男は丁寧に答えた。「我が社では古谷様のブラックホールに関する論文を出発点にタイムマシンの研究をやってまいりました。2ヶ月ほど前に試作機が完成して、既に人間も過去から未来へ移動し帰還しております。是非、一度時空を超えてみてはいかがでしょうか」


 どこか嘘くさいインチキな詐欺師のようだが面白そうなので乗ってみる事にした。「わかったわ。胡散臭いけど私も70歳を超えて子供も育て上げたから時空を旅するのも悪くないわね。

 夫と私の2人で乗れるのなら乗るわ」


「ありがとうございます。それではご都合のよい日にちを教えていただけますか」 そこから事務的な会話が進み身分証明書に判子、同意書など長ったらしい説明を受けて、会社訪問は3日後の13時と決まり受話器をおろした。2時間ほどして夫が犬の散歩から帰ってきた。


「おーい。ばあさん、外に人だかりができてるけど、何があったんじゃ。」私は夕飯の支度をしながら「私、ノーベル賞とれたみたい」と伝えた。

「おお、そうか。そんなことか。それより、ばあさん明日アマチュアの名人戦なんじゃが、朝からある町内掃除をワシの代わりにでてくれんかの」


 私は呆れた顔をしながらも町内掃除に出ることは了承した。

「また、将棋の大会か。今回は名人とれそうなんか」爺さんは自信満々な顔でうなづいた。


「そんなことより、さっきね。大日本電機工業から電話があってね。夫婦でタイムマシンに乗って過去か未来へ移動してみないかってきかれたの。じいさんは乗りたい?」爺さんは真剣な表情でしばし、考えて「わしは明後日に行きたいのお。それで将棋大会の指し手を事前にみて、カンニングして名人になるのもええのお」 じいさんのアホヅラにばあさんはたまげた。こいつ、将棋大会の事しか頭にない。


「あきれた!じいさんの器はそんなにも小さかったか。そんな、スケールの小さな事言わず未来へ行こうや」じいさんは任せるわと言って風呂場へ行き風呂の準備をして愛犬のポチに餌をやっていた。

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