第3話 鶴山の科学者 3

 次の日も孝は病室へ足を運んでくれた。 私は漫画の続きが気になって食い気味に尋ねた。


「この漫画、最終巻が無いんだけど買い忘れた?」


 孝は半笑いで「ああ、あの漫画な。続きが気になるだろう。まあ、退院するまで結末の展開を妄想して悶々と日々を過ごしなよ」


 からかっている孝をよそに「孝って、そんな意地が悪かったか。まあ、退院するまで妄想を膨らますかなぁ」と私は外の景色を眺めながら仕事に復帰できるだろうかと考えていた。 孝は少し真剣な表情で話題を変えた。


 「なあ、里穂は仕事をこのまま続けていくのか?」「研究はできるとこまでやりたいのが本音だけど、そろそろ結婚して子供と一緒にのんびり暮らしたいって思う時もあるかなぁ」 「そうかぁ...」  



 しばらく私は外を眺め、孝は買ってきた週刊誌を読み耽っていた。 再び半笑いで「なあ、里穂がもう仕事やめてのんびり暮らしたいなら、僕のとこに来たらええよ」と呟いた。



  私は外を眺めながら「そうね。割とありだと思う。歳も歳だし、そうしようかな。仕事、やめようかな...」 孝は自分が言い出したにもかかわらず驚いた顔で私を見つめていた。



 私の体調は回復して無事退院する事となったが、心はもう社会からリタイヤして子供を産んで孝とのんびり暮らすことで頭がいっぱいだ。 復帰してからすぐに上司や同僚に結婚するから寿退社すると言って辞表を提出した。皆が労いの声をかけてくれて嬉しい反面、私が築き上げたポジションもあっという間に誰かに奪われると思うと切なくなった。



 退職して2週間後、念願の結婚式を挙げて私と孝は夫婦となり幸せな新婚生活を開始した。2人の子宝にも恵まれて夫の稼ぎは低いものの中流家庭としては申し分ない、ごくごく当たり前の幸せな日々を過ごした。




そして、35年が過ぎたある日、一本の電話が私達、老夫婦の元へかかってきた。

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