第2話とりあえず燃やされました。

「とりあえずOKはしたが、どんな世界なのか話だけじゃ検討がつかん。」

肇は王女が去った後渡された服を身につけ、フェンドガルドを案内してくれる人との待ち合わせ場所へ向かう。

(ぶっちゃけ、こういう異世界ものには憧れはあったが、いざ自分の身に降りかかると、どうしていいやらわからんもんだな。)


どうやら、お城に一室で寝ていたらしく、部屋出て、廊下を歩いていると中庭では魔術師が魔法の練習をしていた。


「本当に魔法なんて概念が存在してるんだな……。」

肇は徐々に異世界に連れてこられた実感が湧いてきた。

(にしてもどうしてこう、架空の世界とやらは中世モチーフが多いのかねぇ。)

肇はそこまで詳しいわけでもないが、大学の友人達がオタクのため、友人を作るための話題作り有名どころのアニメを片っ端から見ていた。地球の基準で言う所の「異世界知識」はなかなかのものである。


「確かこの辺のはずなんだが……。」


「あんたが異世界から来たとかいう、ハジメだっけ?」

いかにも魔術師といった黒ローブに黒のとんがり帽子の日本で言えば高校に入りたてぐらいであろう少女が立っていた。肇は直感でこの子は苦手だと感じ取った。肇は昔から気の強い女性と合わない。そして肇は大体のオーラでそういう人かどうかを判断できる。「そうだけど、君は?」


「私は王立魔法研究所のエリート魔術師なのよ、敬語で話しなさい!」


(めんどくせぇ……。)

とは思いつつも話が進まなさそうなので、肇の方が折れる。

「それは、失礼いたしました。以後気をつけますので、お名前をお聞かせいただけますでしょーか。」

「私の名前はエリヤよ。あんたの案内役を仰せつかったわ。なんでこんな魔法も使えない奴の案内を私がしなくちゃならないのよ……。」

手を腰に当て、フンと鼻を鳴らしながらエリヤは話す。

(魔法が使えないから異世界に連れてこられたんだろうが……。)


「行く前に、あんたの持ち物返しておくわ。これといって使えるのかどうかもわからないガラクタばかりだったし。」

捨てられるようにいつも使っているカバンが肇の前に置かれた。

「ちょ!精密機械入ってんだから!」肇のカバンの中には普段PCが入っているため。大慌てでカバンの中を開ける。


カバンの中にはPC、充電器、筆箱など基本的に大学に行く時に入っているものと、普段ポケットに入れている財布やスマホなどが入っていた。

貴重品の無事を確認すると、ついに肇の我慢が限界を迎えた。

「あぁ!だめだ!こいつに敬語使えねぇ!オレのプライドが許さねぇ!年功序列には否定的だが、初対面にバカにされるのはなんか納得できねぇ!」


「なにを言い出すのやら、消し炭にされたいのかしら?」

「だいたい、オレは来たくて来たわけじゃねぇっつーの!お前らに勝手に連れてこられたんだろうが!美人の王女様の頼みだし、帰るには問題を解決しないとダメらしいから渋々協力してやろうと思ったけど、断ってくる!」

踵を返して城へ戻ろうとする肇


「喚くなうっとうしい!」

そう言うと詠唱を始め、肇を指さすと、肇が全身が炎に包まれた。


「があああああああああ!!!!!!!熱い!!!!熱い!!!!」


数秒経った後でエリヤは指で円を描き、鎮火させた。

そのまま、倒れ込んだ肇は、意識を失った。


「あんたに特別研究者の地位を与えよ。王女様からのお達しよ。だから私は上司に当たるの。口の聞き方には気をつけなさい。」


肇が次に目を覚ますと、最初の部屋に戻されていた。

「生きてる……。」

「殺すわけないでしょ?せっかく貴重な魔力を使ってあんたを呼び込んだのよ。」

ベッドの横には本を読みながら、待機していたエリヤがいた。

「げ。」

「『げ。』とはなによ。ここまで運んでやったのだから感謝されてもいいのだけれど。」蔑んだ目でエリヤはこちらを見てくる。

「生きたまま火葬しようとする人間を感謝しろと?」

「起きているとうるさいわね、口を溶かして引っ付けてやろうかしら。」

「待て待て!ここまで運んで下さいましてありがとうございます!!!!」

躊躇なく人を燃やしたエリヤのことだ、やりかねない。

エリヤはため息をつきながら、本を閉じた。

「私はあんたを信用なんかしてないの。そもそも、魔法の使用効率をあげれば自然に生みだされる魔法石でだけで補えるはずなのよ。それなのに王女様は……。」

「信用されてねぇのな。」

ここぞとばかりに嫌味を言う肇。

「うっさい。」     


ボッ


躊躇なく肇の髪の先を燃やすエリヤ。


「熱っつい!!!!!!」


「そういえば、あんた。あの厚めの金属板はどう使うの?」

ワタワタしている肇を放っておき、別の話題に入るエリヤ。

「ハァハァ……。金属板?あぁノーパソのことか。というかカバンも燃やされてると思った。」

なんとか自力で火を消した肇はエリヤの指差しているものが、カバンの上に置かれているりんご社のPCであることに気づいた。


「ノーパソ?変な名前ね。」

机の上に置かれたノーパソをしげしげとエリヤが見ていると。

「正式名称はノートパソコンでノーパソは略語なんだよ。あれ、でもパソコンはパーソナルコンピューターの略語だから……。正式名称はノートパーソナルコンピューター?」

「知らないわよ。」


「そういえば、使い方だっけか?つっても今これ多分ネット接続できないしなぁ……。分かりやすく言うと、これは書物を圧縮したものであり、自動計算してくれる機械って感じかな〜こいつがあれば遠くにある書物の検索もできるし、別の国にいる人が書いた文章をすぐに呼び出すこともできる。調べ物には困らないってものだな。ただ、その……残念ながら、こっちの世界では多分その機能は使えない。」

「場所によって使えないなんて、やっぱり魔法以下ね。」

「魔法にもできないことぐらいあるだろう……。そうだ、例えば、なんか適当に計算式を言ってくれよ!めんどくさいから足すか引くか掛けるか割るかで!」

「なによ急に……。」

いきなりなにをと言う顔で肇を見る。

「いいから!」

「うーん30×17+9÷24+13×7=」

「601.375」

「早っ!」

多少打ち込む時間はあったにしろ、エリヤの予想していなかった早さで答えが帰ってきた。

「こんな感じで、こいつは計算を凄まじい速さでできる。」

「そんな機能が……。私が使おうとした時はなにも反応しなかったのに……。」

「術者が決まってるんだよ〜こっちの世界にも使い魔みたいなもんはいるんだろう?」

電源ボタンの説明をするとまた別の説明をする羽目になってしまうことを見越して、肇は嘘をついた。

「そういうことだったのね。使い魔ノーパソ侮れないわ。」

これにより変な使い魔が誕生した。


「まぁ魔法は使えないけど、使い魔がいるならいいわ。あんたを少しは認めてあげる。敬語も下手で気持ち悪いからいつもの話し方でいいわよ。」


「まぁ……改めてよろしく。」


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