脱・魔法のススメ

ハシオキツバサ

第1話とりあえず呼ばれました。

白川しらかわ はじめはひどく困惑していた。違和感は起きた時から始まっていたが、大まかに分けると3つ。


まず1つめに目が覚め薄眼で見た天井に見覚えが無い点。2つめは昨晩はバイト帰りでかなり疲れており、力無く玄関で寝てしまっていたはずなのに起きたらベッドに寝かされている点。最後に布団の感触から察するに肇は服を着ていない。たまにパジャマを着ないで布団に入ると妙にこそばかゆい気持ちになるが、まさにそれを感じている。


「あれ……。」

肇は全身から感じる違和感に寝ぼけ眼であたりを見回す。

部屋全体は非常に綺麗に統一された作りで、床には赤茶けた絨毯、大きな窓、自分の1Kの洋室より大きな寝室だった。

2組あるカーテンのベットから遠い方を開けようとしている少女に気づく


その声で気づいた少女はこちらを向いてこう話かけるのでした。

「あ、目が覚めましたか?」

肇は一人暮らしのため、家に誰もいないはずである。仮に話しかけてくるものがあるとすれば、間違えて反応するスマホの音声認識機能ぐらいである。だが、起きたての肇にはそのことまで頭が回らない。横になった体から少し上体を起こし、じっとその少女を見つめるのだった。


少女の髪は深い青のショートヘア、非常に落ち着いた印象で、たたづまいから気品を感じさせる。


肇はしばらく経つとようやく頭が回り出し、ポツリポツリと湧いてくる疑問を順番に口に出していった。

「あれ、ここどこ……?ってか誰?服は?」

それに対し少女は

「私はフェンドガルド王国王女のルフナと申します。服は申し訳ありません、研究部が持っていってしまったので新しい服をご用意しております。一方的で申し訳ないのですがとある事情でこちらに貴方をお呼びする運びとなったのです。」

ルフナは質問の情報だけを説明したが、当然肇は事態を飲み込めずに寝ぼけた顔の眉間にしわを寄せるだけだった。


しばらくQ&Aが続き、しばらくしたところで肇は状況が飲み込めてきた。


肇が呼び出された世界は魔法が存在しており、生活の基礎の全てが魔法によって成り立っている。火を起こすのも火の魔法、水が必要なら水の魔法という具合だ。使用するには、ある程度の知識が必要となるが、日常生活程度であれば、魔法石によって魔力の底上げをした上で、一般市民が使用できる。


ただ近年生活基盤の要、魔法石の採掘量が国内で激減し、残り1年で尽きてしまうという研究結果が発表された。この発表は国中で議論を巻き起こし、資源が豊富にある他の国へ攻め入り、魔法石の採掘量を増やすという過激派。生活基盤の資源別に探し、今ある魔法は使用量を抑え、自然回復を待つという穏健派に議会が真っ二つに別れた。


普通に考えれば、過激派の行為はただの延命措置に過ぎないのだが、とある貴族が年に一度魔法石を生み出す、大地の息吹と呼ばれる地球で言う所の噴火に近い出来事が、隣国の所作によって止められていると言い始めたのだ。


実際は戦争による領地の拡大を希望する貴族の虚言であるのだが、その貴族に賄賂を渡され、嘘の論文を名のある学者が行なってしまったことにより、過激派の力はますます増大して行った。


しばらく話を聞いて肇は話をまとめた。

「ようするに、ルフナ王女は『穏健派を支持したいが、ノウハウがないから魔力の存在しない世界の僕に、アイデアをもらいたい。』ということであってますか?」


「はい、肇さまのおっしゃる通りです。私は戦いを好みません。私が最終的な決定権を持っていますが、このままでは議会の多数を占めている過激派に押し切られてしまいます。そのために、あなたのお力添えを賜りたいのです。」


ルフナの言葉に疑問が一つ湧いた。

「王女のお力になりたいのですが、僕にはそのような知識は全くないのです……。なぜ僕なんでしょうか?他にもっと適役が僕の世界にはいくらでもいたはずです。」

肇の疑問はもっともである。肇はただの大学生。特にものづくりに長けているわけでもなければ設計なども全くできなければ、そういう学部にいるわけでもない。


「実は呼び出す世界、対象を選べないのです。一種の賭けでした。」

俯いたルフナは説明を続ける。

「あなたをこの世界に呼んだ魔法は空間を接続する魔法なのですが、近頃発見された魔法でどこに繋がるのかわからなかったのです。さらにこの魔法は人間をひとり運び出すための穴を開けようとすると膨大な魔力を必要とします。魔法石が逼迫したわが国の状況では長く開け続けることができないため、偶然繋がった先の肇さまを従者がこちらに運び込んだのです。」


(召喚とかじゃなくて、人力で運び出されたのか。)

肇はその様を想像して、少しおかしくなった。


「今後の魔法石のことを考えると、もう一度ゲートを開くのは厳しいということですね……。つまりは僕が元の世界に帰ることも厳しいということですね?」


「はい、小石程度の大きさであれば、魔法石がなくとも魔道士の力だけで大丈夫なのですが……。大変なご無理を言っているのは承知です。ですが、このままでは国は滅んでしまいます。何としてもこの国を救いたいのです。お願いします……。」

ルフナは声を震わせ頭を下げて言った。


(魔法石の問題が解決しないと帰れないんじゃあ手伝うしか道ないじゃん。)

肇は王女という地位の人間が、誰とも知らぬただの大学生に頭を下げている状況もあり、了承したのだった。




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