第3話とりあえず城下町を見てきました。
「あんたが頼んでたもの、できたわよ。」
研究所内で肇に与えられた部屋にエリヤが入ってくる。手には白い服を持っていた。
「おぉ!これこれ!やっぱり研究職っていったらこれは必需品でしょ!」
渡された服は白衣、王立魔法研究所では入所が決まると好みの衣装を作るしきたりがあるらしく、肇も例外ではなく衣装を一つ選ぶことができたのだ。
「普通はローブとかを注文するのに、あんたが注文したものが異質すぎて、受け取る時に何回も確認されたわよ。それそんなにあんたの世界では重要なの?」
「これを着てる人は総じて賢い人が多いからな!着てみたかったというのもある!」
白衣に袖を通し、どうだと言わんばかりに胸を張る。
「虚勢を張りたいのね。」
エリヤはかわいそうなものを見る目で肇を見た。
「昨日は結局、予定を変更して研究所へ案内したけど、今からなら時間はあるから街中を案内してあげてもいいわよ?」
微妙に偉そうなのは気になるが、研究所にいてもすることがないので、案内をしてもらうことになった。
「案内してもらう側がこんなこと言うのもなんなんだが、エリヤはお偉いさんなんだろ?こんなところに来てて大丈夫なのか?」
偉いというのが全く信じられなかったが、研究所での周りの所員の態度を見ていれば納得せざるを得なかった。
「そうよ、偉いんだからありがたく思いなさいよ!……実は魔法の歴史って70年ほどしかないけれど、研究自体は200年以上前からあるのよね。そのぐらい魔法の研究は気の長いものなのよ。それ以外に戦争とかになると駆り出されちゃうけど、そもそも上の人間が忙しい組織ほど長続きしないからどーんと構えてるぐらいがちょうどいいのよ。」
(確かにその通りだが、上の人間側が言うことではないと思う……。)
「魔法って存在が70年ほど前からならオレなんかを呼ばなくても、魔法を使っていない時代ってのが存在したわけだろう?その時と同じ生活を営めばいいんじゃないのか?」
「それが、そうもいかないのよ。70年前とはいえ、その頃の記憶がある人ってなぜか案外いないのよね〜。一度手にした便利さをみんな手放そうともしないしね。」
「70年ぽっちなんだろ?文献とかは残ってないのか?」
エリヤは大きなため息をついた。
「一度戦争で書庫が焼けちゃったのよ。いくら戦争とはいえ文化を標的にするとは最悪よね。」
(躊躇なく一般人を燃やすやつが何を言う。)
「さぁ、着いたわよ!」
会話に夢中になっていたため、気づかなかったが、街の入り口まで来ていた。
「おぉ〜!賑わってるね〜!」
「このスクワイヤは国一番の街、賑わってくれないと困るわ!」
スクワイヤは城下町として栄え、日用品や雑貨など普通に日本にもあるようなお店から魔法石取扱所など、魔法の世界だからこそ成り立つお店もある。
(道は石畳、家も石造りか。石の加工技術はありそうだな。)
肇は街に来て確認したいことがあった。それはこの国の技術のレベルがどの程度かということ。そして素材は地球とどれだけ近いものが揃うかということだ。
(来る途中に木々も生えていたし、服も布でできている。砂もある。雨が降ることもあるし、真水という概念もある。基本的に、魔法石とかいう変わったもの以外は地球と同じ物質と考えていいか……?)
肇はやると決めたらどんどんやる気になっていくタイプのため、しばらく考え込みながら歩いていると。
「あ、ちょっとあんたストップ!!」
「え、あ?」
「ここから先は行かない方がいいわ。ここから先は貧民街であんまり治安が良くないのよ。あんたみたいな魔力のない人間の溜まり場。まぁあんたには使い魔はいるみたいだけど。」
「やっぱりこっちの世界にもそういうものってあるのな……。」
どこの世界であろうが、人間は変わらないのかと肇は吐き気がした。
全てが魔法で成り立っている国では蛮人としてそもそも進学や就職でさえ差別や偏見でまともにできない。そういった差別は国中に広がっており。魔力がなくとも魔法石があれば魔法は使えるが、一度ついた偏見を取り除くことが困難なことは肇の世界でも広がっている悪しき人間の特性であるため、よくわかっていた。エリヤが魔法を使えないために肇を忌み嫌っていた理由もそれが原因であった。
「ちょっとオレ一人でいいから、行ってみていいか?」
「危ないわよ、やめときなさいあんな所。まぁどうしてもっていうなら勝手にしなさい。ただ、私は行きたくないから先に帰っておくわね。もし万が一危なくなったらこれを使いなさい。テレポートの魔法石よ。」
そういい、石を渡すとエリヤは帰ってしまった。
「さてと、行ってみるか。今気づいたけど、魔法なんて使い方がよくわからん。まぁ……なんとかなるか。」
肇はこの貧民街がとても気になった。あまりにも他とは異質な空気であることもそうだが、それ以外にも惹かれる点があった。
歩き出そうとした時に声が聞こえた。
「誰だ、お前。」
声のする方を向くと、少年に呼び止められた。明らかな敵意を向けてこちらを見ていた。
「ここは観光するところじゃねぇ。帰れ。」
「あいにく観光じゃなくて研究の為に来た。」
「研究?お前魔法研究所の人間か! また、オレたちを蛮族と蔑みに来たのか。」
「オレも魔法なんざこれっぽっちも使えないよ。」
「魔法が使えないなんて自分で言い出すなんて、怪しいやつ……。服も変だし。」
(どうすりゃ警戒を解いてもらえるかねぇ……。)
腕組みをして、どうすれば理解してもらえるかと肇は悩んだ。しばらく時間が経っても攻撃をしてくるでもなく、考え事をして動かないため、少年の方が緊張を維持できなくなって口を開く。
「もういいわかった。オレもお前をどうしていいかわからなくなってきた。長のところへ連れて行き判断してもらう。」
「じい様、怪しいやつ連れて来た。研究の為だとかいって入り口で固まってた。」
「怪しいやつ?また誰かいちびりに来たんか?」
肇は齢80は超えているだろう老人のところへ、手を縛られた上で連れて行かれた。
(あれ、この感じって……。)
肇はその老人の話し方やイントネーションに馴染みがあった。
「こいつだよ。なんか変な服も着てる。」
少年は老人の前に肇を突き飛ばした。
「こ、これは……。」
老人は倒れた肇の服を見て驚く。
「じい様知ってるのか?」
「ご老人、その言葉関西弁ですよね。」
顔だけを起こして、老人に話しかける。
「いきなり何を言いだす!黙っていろ!」
肇を蹴ろうとする少年だが、老人が止めに入った。
「待て!お前、今関西弁言うたか?……それにその服……白衣ちゃうんか?」
肇は確証を持った。
「やはり……あなたは日本人なんですね?」
「なんちゅうことや……。この世界に、日本人がおった……。」
長は目頭を押さえ下を向く。しばらく空間が沈黙した後、老人が肇の方を向き、口を開いた。その目は涙に濡れていた。
「よう、遠いところ来はったな……。自分の言う通り、ワシは日本人や……。
「白川 肇です。僕もまさかこの世界に日本人がいるとは思いませんでした。確かにこの辺りに昔の日本の景色の面影があったので、もしかしたらとは思いましたが。」
清は65年前に日本から連れて来られた。一体誰に連れて来られたのかは全くわからないという。清は魔法が世界に浸透していく中、徐々に虐げられてゆく人々をまとめ上げ、今のところに腰をおろしたのである。
「まぁ、日本から来たということやし、当然魔法も使われへんのやろ?同胞として迎えたるわ。泊まるところとかはあるんか?」
「えぇ、一応王国に雇われている身ですので。さて、日も暮れてまいりましたので、今日はこれでお暇します。また伺ってもよろしいでしょうか?」
「あぁ、ワシも日本のこと色々聞きたいし、なんぼでも来たらええんや。待っとるさかいに。」
「ありがとうございます。あと色々とこれからみなさんのお力をお借りしていきたいのですが、お願いできませんか?」
「かまへんかまへん!好きにしたらええんや。」
清はカカッと笑った。
出口まで先ほどの少年に案内されていると。バツが悪そうに少年が口を開いた。
「オレはジャワっていうんだ。じい様があんなに楽しそうだったのは初めてだ。さっきは…その……。すまなかったな。」
「みんなの置かれている境遇を考えれば、仕方のないことだと割り切ってるし気にしてないよ。それよりあの場で追い返されなくて助かったよ。」
「普段、勝手にオレたちを危険視して、御構い無しに魔法を飛ばしてくるやつが多いからな。あんな風にじっとしてるやつが珍しかったんだよ。」
「なるほどなぁ……。」
(この地区をどこよりもすごい地区にしたいって言ったら、みんな手伝ってくれるかな?)
ジャワと別れた後お城までの道で、少しずつプランを練っていく肇であった。
脱・魔法のススメ ハシオキツバサ @tsubasa_hashioki
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